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zoom RSS 高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』(岩波新書)

<<   作成日時 : 2012/12/12 12:51   >>

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本書は長いこと入手が困難だったものである。

高木仁三郎さんは、天国でいまの日本をどう見ているのだろうか?

史上最悪の原発事故を引き起こし、
いまもまだ収束していない日本をどう見ているのだろうか?

選挙を控え、また自民党が圧勝しそうだという各種報道を見て、
日本人有権者のことをどのような思いで見つめているのだろうか?


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


本書で語られるのは、プルトニウムというたった1つの元素をめぐる現実だ。

★1945年8月9日。長崎。プルトニウムを用いた原子爆弾「ファット・マン」が長崎を襲い、一瞬にして8万余の命を奪い、長崎に地獄絵図を作り出した日である。(3頁)

★1964年。アメリカの軍事衛星SNAP-9Aがインド洋上空で炎上し、プルトニウムの仲間であるプルトニウム−238約1キログラムが空から世界中にばらまかれた。プルトニウムは、「この世で最も毒性の強い物質のひとつ」といわれる猛毒の放射性物質である。1キログラムといっても、もしそれをそのまま人びとが吸い込んでいたら、1兆人分もの許容量にあたる。(3−4頁)


94番目の元素で、その半減期は2万4100年と言われる。

「悪魔の元素」とも呼ばれる猛毒の放射性物質だ。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


原子力発電所は、たとえ事故を起こさなくても、「死の灰」を生み出す。

その量は、めまいを覚えるほどである。

100万キロワット級の原発1基が1年間に燃えかすとして出す放射能(死の灰)は、30〜40億キュリー……、これは、広島原爆のまき散らした死の灰の約1000倍、いいかえれば、私たちのひとりひとりの身体に対する許容量のおよそ2000兆倍にも相当する桁はずれの毒性をもった量である。(34頁)


本書では放射能を表わす単位として「キュリー」が用いられているが、
1キュリー=370億ベクレルである。

この途方もない「死の灰」を処理する術を、わたしたちは知らない。

そこでどうしようとしたのか?

何と南の外国の美しい海に捨ててしまおうとしていたのである。

「とにかく原子力発電のゴミを私たちの所に投棄することには、殺されてもいやだと言い続けます。どうか皆さん、これから生まれてくる私たちの子供たちの将来のことも考えてください。日本がたくさん電気を使って豊かな国になることは私たちも歓迎しますが、日本ばかりをよくして、私たちの所には危険なものを押しつけるこの政府の計画は、何としてもとりやめてもらいたいと思います。」
――フィリップ・メンディオラ(北マリアナ連邦のテニアン市長、放射性廃棄物の海洋投棄に関して)(63頁)


原発というシステムは、究極のエゴイズムではないだろうか?

自分たちさえ良ければ他人はどうなってもかまわない、
というシステムだからだ。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


信じがたいことに、多くのひとは「原発は環境にいい」というデマを信じてきた。

ほんの少しだけでも考えてみれば、それはデマだと誰でも分かったはずなのに。

アメリカのニューメキシコ州にあるユナイテッド・ニュークリア社のウラン鉱の鉱滓(テーリング)用ダムが決壊した……。放射能を含んだ40万トンの水と1000トンを越えるテーリングは、そのままプエルコ川に流れこみ、約100キロにわたって流域を汚染した。事故周辺地域はナバホ・インディアンの居留区で、彼らの飲料用の井戸からも放射能が検出された。今でも、流域ではウラン、ラジウムなどの高濃度の放射能が検出され、もともと飲料水としても使われていた同川の水は、使用を禁止されているという。(86頁)


アメリカには南西部の諸州にウラン鉱が多い、と言われる。

 ユタ州ソルトレークシティ。そこはかつて、ウランの町として活況を呈した所であった。いま、ウランは掘り尽され、テーリングだけが残されている。……この町はいま128エーカー(50万平方メートル)の土地にテーリングをかかえ、そこから放出されるラドン・ガスによって、空気は環境基準を越えるまでに汚染している。ユタ州政府の検討によると、その環境をもとに戻すには、その土地全部の土を2フィートほど削りとってしまうか、全域に20〜30フィートの厚みの土をかぶせるしかない。(87頁)


ウラン鉱で働くひとびとは、ラドン・ガスの犠牲となった。

 ……アリゾナ州のレッド・ロック鉱山(カーマギー社)では、100人の鉱夫中20人が肺ガンで死に、さらに18人が肺ガンにかかっているという。そして、そのほとんどは、ナバホ族のインディアンであった。(88頁)


先住民たちは、ウラン開発に対する反対運動に立ち上がった。

「聖なる山、母なる大地」を守るために。

そして「加害者」の責任を追及するために。

「加害者」と名指されているのは、もちろん、わたしたちである。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


以下に引用するのは、ジョーという名の労働者をめぐる実話である。

 ユニオン・カーバイド社がアメリカ政府の委託によって経営するパデューカ工場(ケンタッキー州)、それはアメリカの3ケ所のウラン濃縮工場の中でも最大の規模を誇るものだ。以下に紹介するのは、その工場の一労働者に対するピエール・フリューリングによるインタビューの記録である。(『エコロジスト』誌、1980年12月号)
 できたばかりの新しいその工場で、当時31歳だったジョー・ハーディングが働らき始めたのは、1952年の10月のことだった。3ケ月の研修ののち、仕事についたジョーに、会社はこの工場には何の危険もなく、夜光時計をはめている人ほどの放射線被曝もしませんよ、と説明したのだった。だが、そこが、もやがかかったようにウランの粉塵が立ちこめる場所であることにジョーが気づくまでに、さして時間はかからなかった。
 「もれは毎日のように起こってたよ。あっちこちの配管から、気体や液体がもれ、時にはみんなが避難したこともあった。」
 「特別の食堂なんてなかったんでさあ。昼めし時になると、どこか場所をみつけて、ウランのほこりをさっと払い、パンをパクつくってだけですよ。」
 放射線の数値を捏造することも、会社によって奨励された。最も放射線の強い所では、いったん線量計を「ゼロにする」ことが習慣だったが、初めのうちジョーたちはそれが当然の手続きだと思っていたのである。
 53年、働らき出してから6ケ月の頃に、早くもジョーの足の皮膚にはれ物が発生し、それはやがて全身にひろがった。多くの医者にかかったが原因は分らず、ある医者は放射線障害を示唆したが、ジョーは信じなかった。会社の教育によって、安全を信じていたのであった。
 54年になると胃痛と吐き気が始まった。ジョーはやせ始め、医者にかかるとやはり放射線障害の可能性をほのめかされたが、この時もジョーは信じなかった。61年になって体重が20キロ以上減ったとき、ようやくジョーは手術を受ける決意をした。胃の95%をとってしまったのだった。その症状は全くめずらしいもので、病院では胃をホルマリン漬けにして展示したほどだった。
 この頃になって、ジョーはようやく会社のいう「安全」を疑うようになった。しかし、試練はなおも続いた。68年になると肺炎にかかり、その症状はほぼ慢性的に続いた。さらに70年には、爪のようなものが手のひらの内側にできるようになった。その「爪」は、その後、指のつけ根や関節にもでき、ナイフでそれを削ることがジョーの日課となった。
 しかし、ジョーはこれらの病に打ちのめされず、会社の告発を始めた。だが、裁判に訴えても、会社の記録にはジョーが異常な被曝を受けたという記録はなかった。会社は、「当社の工場で放射線障害にかかったものは1人もいません」と繰りかえすばかりだった。しかし、ジョーの集め始めたデータ・ファイルには、ジョーと一緒に入社した若者たち200人のうち50人の死亡が記録されていた。その多くは、白血病やその他のガンによるものだった。
 このインタビューの数日後には、ジョーの訴えでエネルギー省の役人が調査に訪れることになっていた。だが、ジョーはそれを待てなかった。インタビューの翌日に、ジョーは息をひきとったのだった。
 そして、今でも「原子力利用が理由で死んだとはっきりした者はひとりもいない」というのが、原子力安全論の最大の根拠となっている。
(89−90頁)


日本人はこうした事実を、自分たちとは無関係な出来事だと思ってきた。

だが、日本人は、どう弁解しようと、「加害者」である。

犠牲になったひとびとに放射能を押しつける側だったのだから。

彼らを犠牲にして日本は原発を運用してきたのだから。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


原発マフィアの御用学者はこう言った。

「プルトニウムは、飲んでもまったく健康に問題はありません」と。

 プルトニウムが体内に入る経路は、一般には、呼吸を通じるか、口から飲んだり食べたりするものにまじってとりこむかである。プルトニウムは、直径1ミクロン(1000分の1ミリメートル)前後の小さな酸化プルトニウムのかたまりとなって空中に漂いやすい。プルトニウムを用いた大気圏内核実験の際にも、核分裂をしなかったプルトニウムは、酸化プルトニウムの微粒子となって空中にばらまかれる。
 このような微粒子は不溶性であり、呼吸を通じて鼻(口)から吸収されると、気管や肺の繊毛に沈着し、長く留まって組織を被曝する。(110頁)


遺伝子を傷つけ、ガンを発生させる。

……バテル研究所のベアーらの、ビーグル犬にプルトニウムを吸入させた実権……では0.1マイクロキュリー以下ほどの酸化プルトニウムを吸いこんだビーグル犬が、最大約14年後に肺ガンを発生させることが観測されている。(115頁)


原発マフィアはこう言ってきた。

「原発を持つことは、核抑止力につながる」と。

 仮に核兵器生産のための原子炉が破壊され、その内蔵する放射能がまき散らされたとしたら、その「核」はまさに自国を襲うことになる。これほど苛酷な逆説もないだろう。これこそ核文明社会のかかえるジレンマである。(126頁)


日本列島には50基以上の原子炉が建ち並んでいる。

海岸線にずらっと並んでいる。

そこを攻撃されたら、日本はおしまいである。

抑止力になるはずの原発が、日本に住む人びとに襲いかかる。

「原発は核抑止力だ」という人たちこそ、じつは平和ボケなのである。

平和ボケの自称愛国主義者たち。

攻撃されなくても、事故を起こせば、自国民に放射能が襲いかかる。

昨年起きたのは、まさにこのことだった。

さらに怖ろしいことがある。

「マフ」という言葉を知っているだろうか?

「Materials Unaccounted For(計量もれとなった物質)」の略である。

 実際に、核物質を扱う施設では、大量の「行方不明物質」の報告に事欠かない。アメリカの核燃料会社NUMECが、過去において取扱ったプルトニウムの6%にあたる100キログラムがマフであることが、原子力委員会によって指摘された。最近では、テネシー州アーウィンの核燃料製造工場で、1968年以来110キログラム(原爆6個分)にあたる高濃縮ウランが行方不明になっていることが、米原子力規制委員会によって明らかにされ話題を呼んだ(1979年9月)。FBIによると、ペンシルバニア州アポロの工場からかつて90キログラムの高濃縮ウランが盗まれたことがあったが、これはイスラエルの手にわたったという。(132頁)


しかし、もっと怖ろしいことがある。

 最終的に核兵器が廃絶されたとしても、我々はすでに「核のない社会」に戻ることが困難であることを知っておかなくてはならないだろう。いったん生産されたプルトニウムは、消え去ることはなく、処分することもできない。いかなる形にせよ、永遠に管理し続けるしかない。(135頁)


日本人は、取り返しのつかない罪を犯してしまったのである。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


つぎに紹介するのは、「カレン・シルクウッド事件」である。

長くなるが、引用しておこう。

 1974年の11月13日の夜、オクラホマ市郊外の道路で、1台の車が事故を起こし、運転していたひとりの女性が死亡しているのが発見された。彼女は血まみれになり、そのまわりには書類が散乱していた。ありふれた交通事故と思われ、地方警察も居眠り運転としていったんはこの事故の処理をしたのだが、すぐに彼女の死にまつわる復雑な背景が明らかになり、また時とともに謎が深まっていった。
 死んだ女性は、当時28歳のカレン・シルクウッドで、プルトニウム燃料会社カーマギー社に勤める、プルトニウム技術者だった。彼女は2年ほど前から同社で働らき始め、すぐに同社のずさんな放射線管理に気づくようになった。彼女は、全米石油化学原子力労組(OCAW)の活動家として、工場の安全問題の調査を担当することになった。その調査によって、ずさんなプルトニウム管理とか、検査のごまかしの事例がいくつも明るみに出てきた。彼女はOCAWの本部と連絡をとり合って、さらに調査を継続していたのだが、やがて切迫する事態が訪れた。
 ある時、彼女は自宅の冷蔵庫の中のチーズやソーセージがプルトニウムで汚染していることを発見した。調べてみると、彼女自身にも汚染がみつかった。事態が急を要すると判断した彼女は、すぐにOCAWの幹部とニューヨークタイムズの記者と会う約束をとりつけ、調査記録の束を携えて、約束場所に車をとばしたのだった。そして、その途上で、事故に遭ったのだった。
 事故現場からして、すでに謎に包まれていた。翌日に瞥察が調査をしたときには、彼女の車から記録の書類が跡かたもなく消えていた。さらに、道路上の車のタイヤの跡も、きれいにかき消されていた。OCAWが派遣した専門家の調査では、後から別の車で追突されたと結論された。つまり、何者かによって彼女は殺された可能性が強いのである。
 そんな疑惑が出されたため、FBIも調査に乗り出した。しかし、翌年に司法省は簡単な報告書を出して、カレンの死は単なる事故によるものであり、殺人やプルトニウムとは何ら関係がないとして、ケリをつけようとした。しかし、この事件はこの簡単な報告書によっては、とうてい収まらなかった。
 彼女の遺族は2つの訴訟を提起した。1つは、彼女自身や住居がプルトニウムで汚染したことに対する会社への賠償請求で、もう1つは彼女の死が殺人によるものだとする刑事責任の追求に関するものであった。
 賠償請求については、長い裁判の末の判決が1980年の2月に下された。オクラホマ地裁は、カレンの遺族の主張をほぼ全面的に認め、プルトニウム汚染は会社の管理のずさんさに責任があったとして、1050万ドルの賠償を会社が支払うよう決定したのである。会社側は、カレンが会社をおとしめようとして仕組んだ「汚染」だと主張したが、この主張がしりぞけられたのだった。
 彼女の死因についての裁判は、未だ結論が出ていない。殺人を原告側が立証することはきわめて困難だから、おそらく彼女の死因は永遠に解明し尽されずに終るだろう。しかし、これまでの経過だけでも、プルトニウム社会にまつわる陰湿さと、その管理のずさんさを告発してあまりあるだろう。カレンの事件は、プルトニウム社会の未来に対する想像力をかき立てずにはおかない。(179−181頁)


これだけでも十分に戦慄するのだが、まだつづきがある。

 ここまでの話は、すでに多く語られてきた。私がほんとうに驚いたのは、彼女の死の調査や裁判の経過で、さらに不気味な事実が次々と明らかにされ、底なし沼の様相を呈してきたからである。
 まず裁判で明らかにされたのは、カーマギー社で検査のごまかしが日常的なことのように行なわれていたことだった。プルトニウム燃料の製造を仕事とするオクラホマ工場は、高速増殖炉の試験炉であるFFTF(高速中性子束試験装置)の燃料を製造してきた。ところが、燃料棒の規格に合格するため、たとえば溶接個所のひび割れを隠そうとして、検査の写真フィルムをサインペンで手直ししていたことが、法廷で明らかにされた。
 もっと陰湿な噂も数多く流された。たとえば、彼女は「闇取引き」のグループに通じていて、プルトニウムを「闇市場」(原爆製造をねらう第三国が買う)に流していたのだ、という類のものである。会社側からは、彼女の人格を傷つけるような噂がさかんに流された。カレンは麻薬の常習者だったとか、同性愛を続けていたとかいう噂である。実際、事件の後でカーマギー社は、労務管理のためと称して、一部の従業員にポリグラフ(うそ発見器)を使った私生活調査を行なったという。
 しかし、なんといっても底なし沼の不気味さを最も露わにしたのは、ジャッキー・スロウジというジャーナリストの存在である。彼女も、カレンの事件に興味をもってそのレポートを書いた多くのジャーナリストのひとりである。ところが後から明るみに出たことでは、彼女はFBIの秘密調査員であった。さらに、彼女がKGB(ソ連の秘密警察)にも通じていたという噂すらある。しかし、そのことはここではどうでもよい。
 カレンの問題に関して、ジャッキーがが然「渦中の人」となったのは、1976年4月に議会で証言してからである。彼女は、シルクウッドの件に関して、FBIが作っていた1000ページにも及ぶ書類の山を見た、と証言したのである。彼女の証言によれば、それはカレンの死後のものではなく、カレンの生存中の活動に関するものだった。電話の盗聴をはじめ、彼女の私生活はずっと前からFBIに調査されていた、というのである。それは彼女を反原発派とみなし、反原発運動に関する調査の一環として行なわれていたのである。
 国家の推進する原子力計画に反対する運動に陰湿な調査の手が延びる、ということに加えて、プルトニウムという国家機密に属することがからんで、その調査は一層念の入ったものになった。その真相の奥底は未だに分らない。いくつかのレポートが出されているが、誰も底なし沼の底にはいきつかないのである。しかし、確かなことは、カレンの死を調査した機関であったFBIが、むしろその死そのものに深くかかわっていた、ということである。
 これは、アメリカだけのことだろうか。ヨーロッパに関するロベルト・ユンクのレポート『原子力帝国』(山口祐弘訳、アンヴィエル社)を読むと、同じことがヨーロッパでも起こっていることを知らされる。(182−184頁)


核は、人類と共存できない。

核は、民主主義と共存できない。

では、わたしたちはどのような社会を目指していくべきなのか?

本書では、槌田敦と槌屋治紀の描く未来像をそれぞれ取り上げている。

重要な問題提起であるが、現実の日本人はもっと愚かな選択をするのだろう。










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