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zoom RSS 吉見義明『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(岩波ブックレット)

<<   作成日時 : 2011/03/02 16:41   >>

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すっかりご無沙汰してしまった。

今年に入って1月はほぼ毎日のペースで更新しつづけてきたが、
諸々の事情により更新が滞ってしまい2月はまったく書けなかった。

いつまた中断するとも限らないが、
きょうからまた何とかがんばって再開していこうと思う。

それから、この間、大きな出来事が世界中で起きた。

チュニジア、エジプト、リビアなどの政変。

ニュージーランドの地震。

中東の抑圧されてきた民衆のみなさんの勇気を讃えたい。

また、日本のメディアはNZ地震日本人被災者にしか関心を示していないが、
被害にあわれたすべての被災者にお見舞い申し上げる。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


さて、本日の話題に入ろう。

本書は薄いブッククレットなので、誰でもあっという間に読める。

小林よしのりの漫画しか読まないネット右翼でも読めるし、
普段本を読まない潜在的右翼でも簡単に読めるはずだ。

自称愛国主義者には読解力が決定的に欠如しているひとが多いが、
そんな彼ら/彼女らでもこもブックレットなら読めるはずである。

これは、慰安婦問題の実証研究の第一人者による解説本である。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


元日本軍「慰安婦」だった金学順(キム・ハクスン)さんが、
日本政府に謝罪や補償などを求めて名乗り出たのは1991年だった。

あれから20年近くも経っているというのに、問題はちっとも解決していない。

問題が放置されたまま、犠牲者はつぎつぎと高齢で亡くなっている。

この間、「慰安婦」問題への国際的合意ができている。

……2007年にアメリカ連邦議会下院が、日本軍が女性たちを「性奴隷制」に強制した事実を明白に承認し、謝罪することを日本政府に勧告する決議を採択しました。これについで、オランダ国会下院・カナダ国会下院・ヨーロッパ議会・韓国国会・台湾立法院でも決議が行われました。(2頁)


「従軍慰安婦制度」は、「性奴隷制」だった。

この認識はいまや国際社会の常識である。

では、日本国内ではどうだろうか?

 ところが、1994年頃から、軍「慰安婦」は自由意志で売春をした「公娼」だとする意見が閣僚(永野茂門法務大臣〈当時〉)の中からも出るようになっていきました。その後、中学校の歴史教科書からは、軍「慰安婦」の記述がほとんどなくなっていき、2004年11月には、中山成彬文部科学大臣(当時)が、「慰安婦」の記述などが「減ってきたのは本当に良かった」と述べるようになりました。また、2007年3月5日には、安倍晋三首相(当時)が、「官憲が家に押し入って」連行するような狭義の「強制性」はなかったということではないか、と述べました(参議院予算委員会)。(3頁)


もうひとつ。

吐き気をもよおす出来事があった。

2007年6月14日に『ワシントンポスト』紙に掲載された意見広告だ。

「歴史事実委員会」と称するこの組織には、
屋山太郎・櫻井よしこ・すぎやまこういち・西村幸祐・花岡信昭の5氏が名を連ねている。

櫻井よしこのような破廉恥は、なぜかいまも平然とメディアに登場している。

彼女も本当ならば刑務所へ行くべきひとではないのか。

恥知らずなこの面々をわれわれは犯罪の共犯者として記憶しておこう。

上に記したように世界各国の議会が日本に対する非難決議を出したが、
各国議会だけが戦時性暴力を非難しているのではない。

国連安全保障理事会の第1325決議が2000年10月31日に採択されている。

 すべての国家には、ジェノサイド(大量虐殺)、人道に対する罪、性的その他の女性・少女に対する暴力を含む戦争犯罪の責任者への不処罰を断ち切り、訴追する責任があることを強調する。(5頁)


国際社会では、「慰安婦」問題はこのように受け止められている。

それなのに、日本国内ではまったく異なる意見が多い。

この絶望的なまでの落差は、何なのだろうか?

そもそも日本軍「慰安婦」制度とは何だったのだろうか?

あらためて見ていこう。

軍「慰安婦」とは、占領地などで日本陸海軍がつくった慰安所で、
軍人・軍属の性の相手をさせられた女性たちのことである。

セックス奴隷にさせられた女性たちのことである。

軍慰安所には3種類があります。第1は軍が直営する慰安所、第2は業者に経営させる軍専用の慰安所、第3は民間の遊郭等を軍が一時的に指定して利用する慰安所です。(7頁)


戦地では日本兵による民間人レイプも多発していたが、
ここで取り上げているのはあくまでも軍がつくった「慰安所」である。

それにしても、なぜこのような施設を作る必要があったのだろうか?

歴史学者らしく、著者は軍の資料からその謎を解き明かしていく。

第1は、強姦の防止という理由づけです。日本軍が、中国各地で作戦を開始し、戦闘が一段落すると、将校や兵士による強姦事件が起こりました。(8頁)


石原慎太郎式の発想に立てば、
日本人には「性犯罪者のDNA」が刻み込まれているということになるだろう。

第2は、性病蔓延防止という理由づけです。日本軍の将兵が、戦地・占領地で、民間の売春宿に通います。そこは、性病が蔓延しているので、性病に感染する。……それにより、性病の蔓延を防止しようということになります。(8頁)


性病が蔓延すれば、戦闘能力が低下してしまう。

第3の、そして一番大きな理由は、日本軍の将兵に現地で「性的慰安」を提供するという発想が強かったということです。(9頁)


もっとも「慰安」という言葉それ自体がおぞましい。

慰安とは何でしょうか。普通はスポーツ・映画・演劇、あるいは本を提供するなど、健全な娯楽があるはずですが、残念ながら、日本軍指導部が最初に思いついたのは、女性をモノ扱いして提供するということでした。(9頁)


さらにもうひとつ。

 第4の理由として軍があげているのは、「防諜」(スパイ防止)です。……兵士が戦地・占領地にある民間の売春宿に通うと、そこで女性と親しくなって、軍の秘密を漏らす恐れがあるというものでした。(10頁)


これでよく分かるだろう。

慰安所は、日本軍が創設し、管理し、維持・拡大していったのである。

このように慰安所の存在はまぎれもない事実だった。

右派でさえ戦争体験者は慰安所の存在を認めている。

だって、誰でも知っていることだったのだから。

その存在をなかったことにはできない。

すると、右派がつぎにひねり出す屁理屈は、何だろうか?

 ……女性が強制によるのではなく、自由意志で売春するのであれば、それを買ってもかまわないではないか、という考え方……。(10−11頁)


慰安婦の女性たちは「公娼」だった、という理屈だ。

被害者を侮辱するにもほどがあるというものだが、
当時の日本の刑法に照らしてもじつは違法行為だったのである。

著者は、該当する罪をいくつか挙げている。

「国外移送目的略取罪」

「国外移送目的誘拐罪」

「人身売買罪」

「国外移送罪」


「狭義の強制」のみが問題で、
「広義の強制」は問題ではないかのように強弁する右派は、
法に対する理解が欠落していると言わざるを得ない。

それでも安倍晋三は、「広義の強制」はなかった、と主張していた。

ここで著者は、鋭い指摘をしている。

北朝鮮による拉致事件を考えてみよう、というのだ。

1978年、飲食店従業員の田中実さん(当時28歳)が、「甘言により海外へ連れ出された後、北朝鮮に送り込まれた」と警察庁が認定したケースです。警察庁は「複数の証人等から、同人が甘言に乗せられて北朝鮮へ送り込まれたことを強く示唆する供述証拠等を、新たに入手するに至った」として認定しています(警察庁「元飲食店店員投致容疑事案(兵庫)について」2005年4月25日)。これは「狭義の強制」ではないのですが、拉致容疑事案と警察庁は認定していることが分かります。また、直接手を下したのは、官憲ではなく、田中さんが勤めていた飲食店の店主でしたが、「北朝鮮による」拉致と判断しています。つまり、この北朝鮮による拉致事件では、広義の強制と狭義の強制との間に、何ら本質的な差異はなく、また指示した者に第一の責任があるという認識を、警察庁は持っているということです。(13頁)


安倍晋三は、自分の理屈に一貫性を持たせようとするならば、
「この拉致事件に広義の強制はなかった」と、
北朝鮮政府を弁護しなければいけないことになるのだ。

なんと、安倍晋三は拉致問題を批判できなくなってしまうのだ。

さらに著者は、鋭い皮肉を加えている。

日本の警察庁は、拉致事件に関して、
北朝鮮の公文書がなければ拉致認定できないなどという立場はとっていませんよ、と。

右派は、彼ら自身の主張に従うなら、
北朝鮮政府による拉致を否定しなければいけなくなるのだ。

つまり日本の右派が言いたいことは、こういうことだ。

レイプも奴隷制も虐殺も拉致も、日本がやるなら許されるが、
ほかの国が日本人に対してやるのは許さない、と。

こうした矛盾にも気づく気配のない幼稚な右派には、反吐が出る。

 軍指定慰安所に関して、実際に刑法第226条によって、戦前においても国外移送目的誘拐罪と国外移送罪で処罰されたケースもあることも、紹介しておきたいと思います……。1937年3月5日に大審院……の判決が出ています……。(14頁)


この事件では、「国外移送目的誘拐罪・国外移送罪」が適用され、
慰安所の経営者と斡旋人が有罪になっている。

この例が示すように、「広義の強制」も犯罪であることがはっきりしています。(15頁)


さらに見ていこう。

慰安婦制度は、民間業者が勝手にやったことだ、と言い張るひとたちがいる。

これは「事実」によって簡単に反証されるのだが、
著者は公文書から軍が制度運用の主体であったことを明らかにする。

 まず、つくられ方ですが、設置は派遣軍の命令(指示)によります。たとえば、1938年6月27日に北支那方面軍はなるべく速やかに軍慰安所をつくれという指示を出しています。この時点ではすでに、軍専用の慰安所は、業者が勝手に戦地に押しかけて行ってつくれるようなものではなかったのです。
 つぎに、このような命令が出ると戦地・占領地の部隊は現地で女性を集めるか、業者を選定し、内地・朝鮮・台湾に派遣して女性たちを集めさせます。派遣軍が内務省・朝鮮総督府・台湾総督府に依頼し、そこの警察が業者を選定して集めさせる場合もあります(資料を見ると1942年以降は憲兵隊が選定などを担当するようです)。業者は手足として使われたのです。
 業者・女性の渡航や戦地・占領地での移動は軍が便宜を図ります。軍慰安所とする建物は軍が接収して業者に利用させます。建物の改造も軍が行います。軍慰安所の利用規則・利用料金なども軍が決めます。女性たちの食料・衣服・寝具・食器などを軍が提供している場合もあります。軍「慰安婦」の性病検査は軍医が行います。各部隊は軍慰安所を監督・統制しています(詳細は吉見『従軍慰安婦』岩波新書・1995年参照)。(17頁)


誰が見ても軍が主役であったことは明らかである。

だからこそ国際社会も日本政府の責任を追及しているのである。

 以上から、軍「慰安婦」制度の創設・維持・運用・管理の主体は軍であり、業者が使われる場合があっても、それは副次的な役割であり、もし業者が国外移送目的略取罪・同誘拐罪・人身売買罪・国外移送罪などの犯罪を起こしたら、それを防がなかった軍に重大な責任があるということになります。(18頁)


つぎに著者は、
先に取り上げた「歴史事実委員会」と称する連中の誤りを、
完膚なきまでに暴き出している。

詳細はぜひ本書をお読みいただきたい。

それでも日本の「ゲス野郎ども」が「証拠がない」と言い張るので、
証拠はいくらでもあることを確認しておきたい。

まず、被害者自身による証言がある。

日本軍人による記録や証言もある。

今後このブログでも元「慰安婦」の証言を取り上げていこうと思う。

そのほかにも、外国の公文書がある。

 外国の公文書にも、強制の記録が残っています。第1はアメリカ軍資料です。(27頁)


米軍の記録によると、
約700名もの朝鮮人女性が騙されて慰安婦にさせられたという。

 第2に、……極東国際軍事裁判(東京裁判)の証拠資料と判決があります……。(28頁)


ここでは日本陸軍中尉自身が証言をして認めている。

 第3は、1994年にオランダ政府が調査・公表をした公文書です。(29頁)


日本軍が直接手を下したケースも数多くあったことが確認されている。

そして、日本政府が保管する証拠資料からも軍の関与は裏づけられている。

これだけ動かぬ証拠が出揃っているのだから、
日本軍性奴隷制度を否定するひとたちは確信犯にほかならない。

ドイツのネオナチとまったくの同類である。

 アメリカ連邦議会下院の決議は、軍「慰安婦」問題は「20世紀における最大の人身取引事件のひとつ」であるといっています。(54頁)


「でも……」と納得できずにいるひともあるかもしれない。

「慰安婦」制度の存在を否定するわけではないが、
日本政府はすでにそれなりの責任を果たしたではないか、
というひともいるだろう。

こうしたひとたちからは、「いつまで日本は謝ればいいのか」といった不満が出てくる。

……日本政府は、1993年の河野官房長官談話によって、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」と認めました。そこには、責任の主体をあいまいにする「軍の関与」という表現が使われていました。また、1995年には「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)が設置され、首相のおわびの手紙と、民間募金による償いのお金と、政府出資の医療・福祉支援金が被害を受けた女性たちに手渡されました。(60頁)


なるほど。

日本政府はまったく何もしなかったわけではない。

だが、これで本当にいいのか?

しかし、韓国・台湾・フィリピンでは、さらに多くの女性たちが受け取りを拒否しました。受け取っても、これは賠償ではないので、日本政府による賠償を別に求めている方々もおられます。また、オランダでは償いのお金は渡されず、インドネシアでは、同国政府の方針により医療・福祉支援金を含め個人にお金が手渡されることはありませんでした。中国・北朝鮮・ベトナム・マレーシア・シンガポール・タイ・ビルマ・東ティモールなどは事業の対象にさえなっていません。(60頁)


これで責任を果たしたと言えるだろうか?

単純なことだ。

もしあなた方が同じ目にあわされて、加害政府にこのような対応をとられたら?

納得するのだろうか?

さっさと幕引きを図るために決して十分とは言えない措置をとったにすぎない。

拉致被害者家族が北朝鮮政府にまったく同じ対応をとられたら、納得するか?

薬害被害者が日本政府にまったく同じ対応をとられたら、納得するか?

日本人もそれを認めるのか?


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


本書を読んで、それで慰安婦問題について分かったつもりになってもいけない。

同じ著者による『従軍慰安婦』(岩波新書)も読むべきだろう。

さらにほかの著者による本ももっと読みつづけていくべきだろう。

そして、歴史を捻じ曲げる連中と戦うために、行動すべきだろう。

行動したからといって、中東のように秘密警察に暗殺されることもないのだ。







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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
簡潔にうまくまとめるられています。

しかし、感情的な表現は避けて、事実に語らせるというのがより効果的だとおもいます。
とんちゃん
2012/08/25 03:07
◆とんちゃんさま

コメントありがとうございます。

ところで、なぜわたしがあなたの好みに合わせて文章を書かなければならないのでしょうか?
影丸
2013/04/01 13:20

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吉見義明『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(岩波ブックレット) フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
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