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zoom RSS 雨宮処凛『生きさせろ!』(太田出版)A

<<   作成日時 : 2011/01/05 23:46   >>

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「フリーターは甘えている」とひとは言う。

彼らの言う「甘えたフリーターの実態」をさらに見ていくことにしよう。

河野君(27歳、仮名)は、家賃6万4000円のワンルームに住むフリーター。

「新薬の治験」のバイトなどもやったという。

現在は、KDDIの支社で派遣をしているという。

「団塊オヤジがいて、社員至上主義っていうか、『派遣とか委託とかは仕事ができればなんでもいいんだよ』ってみんなに聞こえるように話したりとか。あと、男のくせに派遣だとかバイトとかの奴が気に食わないらしくて、いちおう自分、毎朝『おはようございます』って挨拶してるんだけど、1回も返事してもらったことがない(笑)。あと、自分だけお菓子がもらえない(笑)。最初は社員に配って、次は派遣の女の子。それで自分だけもらえない(笑)」(82頁)


きっと全国の会社で、こういうみみっちいいじめが日々繰り広げられているのだろう。

なんか容易に想像できてしまうところが怖ろしい。

フリーターは収入が不安定で、生活の波が激しい。

彼は、もっとも貧しかったとき、
ティッシュを食べてみようと試みたことがある、と笑って答えている。

彼はインタビュー中、「もっと貧しい国のことを思うとだいぶありがたい」と口にした。その言葉に、過去の自分の感覚がよみがえった。
 私自身……自分が貧しくても、不安定でも、まあアフリカなんかの飢え死にしてるような人にくらべればだいぶマシだ、と思っていた。そう思わないと自分の状況を肯定できないからこそ、そうした。自分自身について、せめて幸福だと思えることが、とりあえず「先進国である日本に生まれた」ことくらいしかないのだ。……しかし、漠然としたその感覚は、「愛国」にさらりと絡めとられる。私自身も思いきり絡めとられた1人だ。(86頁)


こうした貧困の若者が右翼的な思考になってしまう……か。

なるほど。

元右翼の著者による分析だけに、興味深い。

最近、靖国に通う若者がいった。「特攻隊や戦死した人に比べると、平和な時代に生まれた自分の悩みなんてちっぽけなものだと思う」。彼は厳しい就職戦線のただなかにいた。そんな彼にとって、戦死者たちが「自分の状況はまだマシだ」と慰めてくれるものだったわけだ。そこに存在する厳然たる癒し。(87頁)


「愛国」が癒やしになってしまうという怖ろしい構図。

癒やしなんかになるわけがないのに。

私自身、一時期その癒しにお世話になったからこそよくわかる。そういえば河野君も、一時期小林よしのりにハマっていた。(87頁)


わたしはずっと前に、
発売されたばかりの小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』第1巻を読んで、
「わー、ダメだ、こりゃ」と即座に切り捨てることができたのだが、
こんな漫画でもハマってしまうひとも少なくないらしい。

こういうことは考えてみるとよくある。

いまや流行の書き手となった佐藤優も、1冊読んで、わたしは見限った。

内田樹もそうだった。

1冊読めば、どのくらいダメなのかすぐに分かる。

でも、こういう物書きに影響されてしまうひとたちがいるのも日本の現実だ。

たとえば私が出会ったある自称愛国者は、地元の工場で働いていたものの、その工場が中国に移転し、「中国人に仕事をとられた」と反中的な意識を持ち、愛国的なものに目覚めたといっていた。(87頁)


問題の本質や構造を見ることができず、中国人のせいだと思ってしまったわけだ。

この前、ある討論番組で片山さつき氏と話す機会があった。私が若者の状況を話すと、彼女は「ニートやフリーターを工場で働かせてもすぐにキツいと辞めてしまう」と呆れたようにいった。そうして彼女はいったのだ。「だけどその下にはもっと大変な外国人労働者がいるの。彼らは文句もいわず働いているのに」。その言葉を聞いて、唖然としてしまった。少なくとも、彼女のような立場にある人がそのような発言をするということは、外国人労働者が、ニートなんかを最底辺で働かせるための口実に聞こえる。そのために用意されたガス抜きの道具、という具合だ。そんな片山さつき氏をはじめ、「再チャレンジ」などといっている側の人たちは、もちろん一度も工場で働いたことなどない。というか、安倍なんて、生まれからして日本で一番といってもいい ほどの特権階級ではないか。(88頁)


これも訳知り顔の大人がよく使う論法だ。

「アフリカの子どもたちに比べればあなたなんか恵まれているのよ」と。

こうして大人は、資本の奴隷として、労働者の権利の破壊に手を貸しているのだ。

恥を知れ、大人どもよ。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


いま、都市は「寄せ場化」していると言われる。

漫画喫茶に住む「ネットカフェ難民」も少なくないと言われる。

著者は、漫画喫茶に詳しいフリーターにインタビューを行なっている。

実際、漫画喫茶に住むのは部屋を借りるより安いのだろうか?

「……たとえば、毎日泊まるとだいたい月5万円くらいかかる。だけど敷金礼金が払えない人が多いから、ずるずる漫画喫茶にいるんでしょうね。ただ、日中も荷物を漫画喫茶にキープしておくとなると話は別です。1日丸ごといることになるから、1日で4000円くらいになる。そうすると月に12万だから家を借りたほうが全然いい。……」(105頁)


けれども、高額な敷金・礼金が必要だ。

連帯保証人もいないと契約ができないだろう。

こんな苦労があることなど、
仕事をまったくしないのに給料をもらっていたという小泉純一郎には分かるまい。

そういえば彼は、このことを国会で追及されたさい、
「人生いろいろ、会社もいろいろ」と言ってのけたのだった。

さて、ここからは、湯浅誠へのインタビューである。

彼はフリーターの直面している現実をよく知っている。

「……たとえばこの間相談に来た人は、レオパレス21に住んでたんですけど、身体壊して仕事なくなって1カ月家賃滞納したらもう裁判で訴えられる。出てけって。これは無茶苦茶な裁判で裁判所も怒ってたらしいんですけど、本人もトラブル続きでがんばって抵抗する元気がなかったから和解しちゃった。そしたらもう1カ月後には出なくちゃいけないからそれで困って相談してきた。……いまはどんどん敷金礼金ゼ口、保証金ゼロだよとかいいながら、そういうところって賃貸者契約じゃないんです。施設管理契約とかなんです。東京だとスマイルサービスってところが増やしてますけど。賃貸借契約と施設管理契約、何が違うかっていうと、借地借家法に縛られない、と主張するわけです。普通は4カ月から6カ月くらい家賃を滞納しないと信頼関係が崩れたとはいえないんですけど、施設管理契約だと、1日でも滞納したら出てけっていえるという理屈です。でも、フリーターの人はもとの資金がないからどうしてもそういうところしか借りられない。(114頁)


「スマイルサービス」の「スマイル」の正体は不気味な笑みだったということか。

あるいは、儲かって儲かって笑いが止まらないということか。

「……OECDが作っている貧困率調査というのがあって、それは国民の所得の中央値の半分が貧困であるという定義です。日本の場合は世帯所得の中央値が476万円ですが、この半分は238万円。だから年収238万円以下は貧困なんですよ。フリーターはほとんど入る。
 また、OECD調査では、日本の貧困率は15.3パーセントです。00年度で。いまはもっと増えていると思いますが、1億2000万人の15.3パーセントって1800万人。貯蓄ゼロ世帯は23パーセントです。そのなかで生活保護を受けているのは150万人。たとえば1000万人生活困窮者がいるとしても、850万人が受けていないんです。生活保護でよく不正受給とかいわれていますが、150万人いれば100人や200人は絶対いますよね。だけどそこは完全に世論操作で、そこをすごく大きくいうわけですよ。
 ……政府の公式発表では、日本のホームレスは全国で2万5296人ですが、そのなかには漫画喫茶の人たちも、たまたま宿泊所にいたけど前日は路上だった人も、DVで逃げてる人も、会社の寮で寮費さっぴかれて月8万で暮らしてるような人も入っていない。そういう生活困窮した層を、欧米ではみんなホームレス数に入れています。」(115頁)


ここは何度でも強調しておくべきところだろう。

生活保護の話になると、決まって「不正受給」を持ち出すひとがいる。

だがそういうひとたちは、
生活保護を受けられずにいる圧倒的多数の生活困窮者のことは言わない。

850万人にものぼる生活保護未受給者のことは無視して、
ほんの数人の不正受給の話ばかりをことさら取り上げる。

ほとんど犯罪行為に等しいと言わねばなるまい。

「……また、精神的な疾患を抱えている人に福祉事務所の相談員が『まぁ、そんな気分になることは俺もよくあるけど、気の持ちようだよ』なんていうこともあります。結局、福祉事務所の相談員って、たとえば昨日まで土木課で道路作ってたような人なんです。一般職だから、別に福祉の知識とかセンスとかいっさいなくてもなれる。非常に問題だと思います」(118頁)


気のもちようで治るなら、精神疾患とは言わない。

精神科医もいらない。

「……まず、フリーターである子どもを親は責めがちだ。終身雇用などといういまはすでに存在しないものを前提に正社員になれという親と、そんな場所からとうに弾かれてしまったフリーター。親は子どもが3カ月ごと、半年ごとに職を変えることを叱るが、そもそもフリーター生活が長引けば長引くほど、短期契約の仕事しかないという現実がある。好きで仕事を転々としているわけではないのに、親は根性がない」などと無意味な精神論で責める。」(119頁)


日本人の大好きな精神論。

だから行き場のなくなった若者は、刃物を親に向ける。

怒りを親にも向けられないひとも多い。

06年5月……北九州市で、1人暮らしの56歳の男性がミイラ化した遺体で発見されたのだ。死亡前、電気もガスも水道も止められ、家賃を滞納している男性のもとを市の住宅供給公社の職員が訪ねたところ、床を這って出てくる状態だったという。男性は生活保護の申請をケースワーカーと保健師に訴えたが却下。理由は、コンビニで働く息子から食料の差し入れがあるということだった。(120頁)


衝撃的なニュースだったから、覚えているひとも多いだろう。

だが、生活保護を受けられずに死に追いやられたひとは、彼だけではなかった。

また、06年7月には、秋田の37歳の男性が生活保護の申請を却下され、自殺している。男性は睡眠障害のため無職で、二度にわたって生活保護を申請していたが、市から「働ける」と却下されていた。男性は友人に「死にたい」「俺が犠牲になって福祉を良くしたい」と話し、秋田市役所の駐車場で、車の中で練炭を燃やし、自殺した。(121頁)


人類は、大昔から、飢えと戦ってきた。

文明を築き、共同体の仕組みを発展させてきた。

食糧の生産性も向上させ、それぞれの豊かさを実現してきた。

日本は戦後の混乱から立ち直り、経済大国の地位にのぼりつめた。

約200ほどある国のなかで、日本は上から2番目の経済大国になった。

その国でいま生まれているのが、「生きることさえできないひとたち」である。

餓死させられるひとびと。

自殺させられるひとびと。

これまで、子どもを自殺で亡くした何人の親から聞いただろう。「働けなくたって、何もしなくたって、そんな人間が1人くらい生きていてもいいじゃないか」と。しかし、子どもにそれを許していなかったのは、ほかでもない、その親自身である。死んでからやっと気づくのだ。役に立たなくても、働かなくても、ただ生きていてくれればよかったのだと。(150頁)


23歳の派遣社員(男性)は、
請負会社に採用され埼玉県にあるニコンの工場に派遣された。

仕事場は「クリーンルーム」と呼ばれる塵埃を最小限にした閉鎖空間で、
半導体製造装置の最終検査を担当することになった。

しかしそこは過酷な労働現場だった。

クリーンルームで働くひとたとの健康被害が、いま世界中で問題になっているという。

度重なる海外出張。

5時間半の残業、15時間を超す休日出勤、さらに夜勤。

深夜2:00ころに帰宅し、4時間ほどの睡眠しかとれない。

連日の長時間労働。

「食べ物の味のちがいが分からない」と母親に訴えるようになった。

同僚が解雇され、ストレスとプレッシャーがのしかかる。

そんななかでも彼は資格試験のための勉強をしていたという。

やがて彼の顔からは表情も消えていった。

ある日、「健康のために野菜をとる」といって買ったホットプレート、
その電気コードで彼は首を吊った。

その1年後には、26歳の同僚男性が、虚血性心疾患で死亡したという。













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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
弱者を犠牲にして成り立つ悲しい国なのですね。この国は。亡くなられた人達のご冥福をお祈りします。
匿名
2011/01/06 01:48
◆匿名さま

コメントありがとうございます。なのにお返事がすっかり遅くなりまして、失礼いたしました。

弱者に犠牲を強いて、そのことに快楽を感じている。それが日本人の現状だと思います。犠牲にされた弱者たちの「声なき声」に耳を傾ける。犠牲者のことをじっと思う。そんな姿勢を匿名さんの短いコメントから感じました。ありがとうございました。
影丸
2011/03/18 03:31

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