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zoom RSS 土井敏邦『ガザの悲劇は終わっていない』(岩波ブックレット)

<<   作成日時 : 2011/01/21 11:22   >>

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2008年12月の暮れのこと。

イスラエル軍はガザ地区に対する大規模空爆を開始させた。

さらに地上侵攻に踏みきり、多くの犠牲者を生み出した。

 3週間に及ぶイスラエル軍のガザ攻撃で、パレスチナ人1417人が死亡、うち民間人は926人、その中でも18歳未満の子どもが313人(「パレスチナ人権センター」3月19日統計)、負傷者は5000人近いと言われている。(53頁)


本当ならば日本の大手メディアもこの問題を詳細に報道すべきだったのだ。

だが、わたしたちのもとには情報がほとんど入ってこなかった。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


実際にガザで何が起きていたのか?

住民による証言である。

 ナイラ・サムニ(29歳)
 「イスラエル軍はすべての住民を1カ所の家に集めました。私の兄の家でした。午前6時ごろで、私はまだ眠っていました。すると突然、その家に3発のミサイルが撃ち込まれたんです。最初は窓から撃ち込まれたけど、最後のミサイルは屋根から侵入していました。
 気がついたとき、ミサイルの破片が私の脚の間にありました。周囲を見渡すと、兄や従兄弟、親戚たちの遺体が転がっていました。私の母も叔母も殺されたんです。母は倒れ込んだとき、まさにそこに爆弾が落ちて、身体が完全に粉々になっていました。私の叔母は最初の爆弾で、身体が真っ二つに裂かれてしまいました。すべて私たちの目の前で起きたことです。」(10頁)


こうした証言がいくつも出てくる。

目の前で父親を射殺された少女も証言をしている。

ガザ地区の北東部に著者は取材に入った。

ハーレド・アベドラボ(30歳)さんの家は、瓦礫と化した。

その弟アハマド(23歳)さんが証言している。

 「……外を見ると、家の庭の中、まさに私たちの目の前に、砂に埋められた戦車が駐留していました。家の玄関から10mも離れていないところです。私たち家族は、イスラエル軍が家に攻撃してくるのではと怖くなり、白旗を持ち、子どもたちと祖母が外に出てみることにしました。」(17頁)


どうしたらよいのか分からず、兵士に尋ねるつもりだった。

 「……兵士の1人が戦車の中から半分身を出し、子どもたちを見ながらポテトチップスを食べていました。他の家族は、白旗を持った子どもたちと兵士たちの様子を家の中から見ていました。子どもたちが外に出て5分ほど経つと、突然、別の兵士がM16型ライフル銃を持って戦車の中から出てきました。そして突然、女の子たちに向かって銃を撃ち始めたんです。私たちは最初、脅すためだと思っていました。まさか子どもたちを狙っているとは思いもしませんでしたから。しかしそうではなかったのです。子どもたちはその場に倒れました。その時に兵士が子どもを殺そうとしている、これは“処刑”なんだ、と気づいたんです。私の母、つまり子どもたちの祖母は4発の銃弾を浴び、2人の女の子が殺されました。
 1人はスアードで7歳、そしてアマルは2歳半でした。兵士は最初1人ひとりに3発ずつ銃弾を打ち込み、もう一度最初の子に戻って、さらに1人に3発ずつ銃弾を撃ち込んだのです。……」(18頁)


昼間の出来事だった。

殺された娘の身体を母親が抱きかかえて家のなかに入った。

それを兵士たちはじっと見ていたという。

胸に15発もの銃弾を撃ち込まれた小学4年生の少女もいた。

腹部に5発の銃弾を撃ち込まれた2歳半の女の子もいた。

4発の銃弾を浴びて背中が大きく裂けてしまった4歳の女の子もいた。

この3人の少女は、姉妹だった。

ガザ住民が耕す農地も破壊された。

 ……農地が戦車やブルドーザーによって踏み潰され、イチゴを保護するナイロンや、配水管用のビニールパイプが白リン弾で焼けていた。(30頁)


「白リン弾」は、今回の攻撃でとくに注目された残虐な武器だ。

農民アデル・アブハリーマ(57歳)は、
破壊された農地を指差して、これがはじめてではない、と言った。

今度で3度目だ、と。

そしてこう言葉をつづけた。

 「F16や戦車を操縦する奴らは、ここに武装勢力がいたと言う。しかしこのイチゴの苗が武装勢力だとでも言うのか! イスラエル人に訊いてくれ。これが武装勢力か! このイチゴの苗がイスラエル人と闘ったとでも言うのか!
 私たちは、土を耕して生活の糧を得る貧しい農民なんだ。この作物だけで20人の家族がやっと細々と食いつないでいるのに……。もう仕事もできない。私たちに仕事をくれ。私たちを養ってくれ。地主に今年の借地代も払っていないんだ。どこからその金を捻出すればいいんだ!」(31頁)


イスラエル軍は、圧倒的な兵器で、一方的に農地を破壊し、家々を破壊した。

ハマスも民間人も、大人も子どもも、男も女も、殺していった。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


イスラエル政府による残虐な軍事攻撃を可能にしているのは、
イスラエル国民による支持だ。

なぜ彼らはこのような蛮行を支持してしまうのだろうか?

著者は西エルサレムの街で市民の声を聞き取りに行った。

「ガザの状況をどう思いますか?」と彼らに問うた。

 「イスラエル軍の攻撃は当然だよ」と男子生徒が言った。「この8年間、イスラエル南部の町スデロットの市民は、ハマスが撃ち込むロケット弾の恐怖の中で暮らしているのよ。その現実に、世界はまったく注意を払ってこなかった」と、英語が流暢な女子生徒が畳み掛ける。「そして今、世界はアラブ人に起こっていることだけに目を向ける。この8年間、私たちはじっと我慢して暮らしてきたのよ。彼らは、やったことのツケを払わされているのよ」(41頁)


男子高校生も、女子高校生も、あっけらかんと自国の犯罪行為を正当化した。

「アラブ野郎(実際彼らはこのような言葉を使ったらしい)よ、なめるなよ」と。

「シナ人」や「三国人」といった言葉を平然と吐く日本人右派と姿がだぶる。

この高校生たちは見事に倒錯している。

自分たちこそ犠牲者であって、パレスチナ人こそが加害者である、と。

自分たちこそ世界から無視されてきたのであって、
パレスチナ人はいつも世界から注目されている、と。

驚くべき倒錯である。

テルアビブ大学「タミ・ステインメッツ平和研究センター」が戦争開始から10日ほど経った時点で行った世論調査によれば、94%のユダヤ系市民がガザ攻撃を支持している。(45頁)


それだけではない。

さらに90%が「イスラエルは全ての目的を果たすまで攻撃を続けるべきだ」と考え、「ハマスがロケット弾攻撃を中止したら、ガザ地区とイスラエルとの検問所を開放し、封鎖を解くべきだ」という考えに80%が反対している。つまりハマスが休戦に応じても、イスラエルは圧力の手を緩めるべきではないというのである。(45頁)


それにしても、なぜこのひとたちは虐殺を支持してしまうのだろうか?

そこには「パレスチナ人の『非人間化』」というメカニズムがある。

「パレスチナ人はわれわれと同じ人間ではない」

「パレスチナ人は殺すに値する連中だ」


こうしてパレスチナ人を「非人間化」することで、攻撃を正当化するのだ。

パレスチナ人住民を“非人間化”し、彼らが民主的な選挙で選んだハマスを“悪魔化”することで、ガザ攻撃で1400人近い人命を奪った現実にも道徳心が傷つかないように心を“鎧”で固めたイスラエル人たち。(56頁)


次に著者は、
元イスラエル軍将兵のグループ「沈黙を破る」の代表や
平和活動家に話を聞きに行った。

彼らは、自国の不法行為や残虐行為を内部告発し、加害証言を集めている。

日本で言うなら、「反日分子」などと中傷されるひとたちである。

そのひとりがこう答えている。

 イスラエルの子どもたちは育てられる過程で、「自分たちが一番の“犠牲者”だ」「“犠牲者”であることが許されているのは自分たちだけで、他の者は“犠牲者”ではありえない」と教えられる。(49頁)


さらにアウシュヴィッツの記憶が重ねられる。

自分たちこそ「犠牲者」なのだ、と。

別の人物はこう述べている。

 「90%のユダヤ系市民は、『我われはパレスチナ人側にすべてを与えようとした。しかし彼らは拒否した。我われユダヤ人を憎み、追い出そうとしているからだ。我われには話し合いの相手はなく、アラブ人を信用できない』と考えているのです。」(52頁)


イスラエル軍兵士の深刻化する“凶暴さ”の背景として、
社会および軍内部の変化があると、別の人物が指摘している。

……現在のイスラエル国民の中では社会・経済的な格差が広がりつつあり、社会的にも経済的にも取り残され無視されがちな低下層の国民とりわけイスラエル南部や北部、入植地など辺境部の住民は、そのステップ・アップの手段として職業軍人になるケースが増えているという。(55頁)


やはりここでも格差社会が影響していた。

イスラエル社会の病理は深刻さをきわめている。

「沈黙を破る」の元将兵たちは、その加害の過去を告白し、加害の証言を集め記録して広く知らしめる活動を通して、自らの人間性を蘇生させ、病む社会を“治療”していこうとしている。……これまで年間80〜90人だった証言者の数は、この半年以内で100人近く、かつての3倍ほどになり、この4年で750人に達した。(56頁)


9割もの世論が攻撃を支持しているなかで、
このような活動をつづけていくことは、数々の困難を抱えていることだろう。

「多くのイスラエル人は『セキュリティ(治安・安全保障)、セキュリティ』と口をそろえて言います。自分たちの国を守らなければならない、と。しかしこの国がまもなく、まともな国ではなくなってしまうことに気づいていない。そのうち私たちすべての国民の魂が死んでしまうのです。社会の深いところが死んでしまいつつあるのです。そのことはイスラエルの社会全体に広がっています」(56頁)


このような状況をどのように改善していけばいいのだろうか?

暴力と憎悪の連鎖を断ち切るためにはどうすればいいのだろうか?

UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のガザ代表は、
泥沼化するパレスチナ問題において「法の支配」が不可欠だと強調する。

自分の子どもを殺されたパレスチナ人の両親に、
怒りをおさめてください、ここは“法の支配”する社会です、と説くのだ、という。

法のシステムによって必ず「正義」を手に入れることができるのです、と。

けれども、そこに「法」が存在していなかったら?

パレスチナ人を非人間化して、殺されてもいい存在とみなし、
虐殺を「合法化」する「法の執行」しか存在しない社会だったら?

 ……「人権」も「民主主義」も信じられなくなり、自分たちの問題の解決のための唯一の道は“暴力”に訴えることしかない……。(63頁)


パレスチナを覆っているのは、まさにこうした状況なのではないか?

世界のメディアはガザの状況をほとんど伝えなくなってしまった。

日本のメディアは最初からほとんど伝えていなかった。

今なお続く“占領”下のパレスチナ人の苦悩への世界の“無関心”の大きなツケを、いつか私たち自身が払わされる時が来るにちがいない。(63頁)


著者は上の言葉で本書を締めくくっている。












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