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zoom RSS 野田正彰『見得切り政治のあとに』(みすず書房)C

<<   作成日時 : 2010/09/06 08:05   >>

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本書を読んでいると、こう思わずにはいられない。

日本人が犯罪被害者を侮辱しなくなる日はいつになったらやってくるのか?

なぜ日本人は、苦しんでいるひとを見て、嘲笑い、罵ることができるのか?

人間として「最低」だと思う。


◆「お婆さんの手」

著者は、中国の海南島で元「慰安婦」の精神鑑定をつづけた。

 苗族のトゥバン・タティン(ケ玉民)さん(82歳)も、変わらずに「侵入性の想起」(過酷な体験を忘れようと努力しても、ふと頭の中に侵入してくること)に脅かされていた。先週の夕方、背中が痛むなかで、急に最初の強姦のイメージが襲ってきた。日本兵に米のふるい分けをさせられているとき、2人の兵に強姦された。まだ14歳、男が少女に何をするのか、何も知らなかった。家へ帰り泣いている娘を見て、母が聞いた。母にすべて話した。父は「なぜ逃げなかったのか」と責めた。強姦されたうえ、父にののしられ、どんなに悲しかったか。そんな父も日本兵に殴られ、「娘を出さないと殺す」と脅され、何もできなかった。以来2年間、強姦され続けた。(140−141頁)


こうした事実を、日本の若者はほとんど知らない。

若者だけではない、大人も知らない。

だが、被害国のひとたちは知っているのである。

日本軍が何をしてきたのか、それを知っているのである。

それなのに日本では歴史を公然と否定するひとが後を絶たない。

田母神俊雄のような人物も、刑務所へ送られない。

それどころかテレビ番組に出演して、拍手を浴びているのだ。

この国は狂っている。

この国の「ふつうのひとびと」は狂っている。

いまこうして事実を知ってしまったわたしたちは、何を考えるべきなのか?

わたしたちには何もできることがないのか?

そうではあるまい。

できることは、そしてやらねばならないことは、山ほどある。

 私はこのお婆さんたちの最晩年に、「それでも生きていてよかった」という思いになってほしい。どうすればよいのか、ただお婆さんの生き抜いた手を握る。(141頁)



◆「増え続ける体育系校長」

相撲界の野球賭博が大きな問題になった。

暴力団とのつながりも問題になった。

相撲界だけが不祥事を抱えてきたわけではむろんない。

アマ・プロを問わず、競技スポーツ界はカネにまみれている。

大学のスポーツ部員による強姦事件や暴力事件も珍しくない。

プロ野球界でも、最近、暴力事件が発覚したばかりだ。

にもかかわらず、
「スポーツは健全な精神を育成する」と信じ込まれている。

もちろん、スポーツがただちに犯罪を生むわけではないだろう。

だが、体育会系によく見られる絶対服従の上下関係、暴力的体質は、
現在もさまざまな問題を生み出す大きな要因になっているのではないか?

オリンピックもつねに数々の疑惑がつきまとっている。

スポーツに対する素朴な思い込みが拡大されるとき、
重要な批判力は奪われてしまう、と著者は指摘する。

いま、不思議な現象が見られるという。

 東京都(2007年)の196人の高等学校長のうち、体育・保健出身は41人(21パーセント)を占め、他の教科出身者より突出して多い。英語出身者は7パーセントにすぎない。続く副校長も体育系が最多である。(158頁)


そういえば、わたしの中学時代の体育教師も、その後校長になったと聞く。

なぜなのだろうか?

体育の教師は、他の教科の教師に比べて、特別に指導力が優れているのか?

ハードな管理職には特別な体力が求められているからか?

それとも、もっと別の理由があるからなのだろうか?

教育委員会や文科省の意向を忠実に守るからだろうか?

威圧的で管理的な指導が得意だからだろうか?


◆「首相の病院逃げ込み」

政治家はよく都合がわるくなると入院する。

 「戦後レジーム(体制)からの脱却」を枕詞のようにしゃべり続けた安倍晋三首相が、精神的に行き詰まって辞職を表明し、戦後レジームそのものである病院への駆け込みを行った。入院した病院は、金持ちや有名人がよく入院する慶応大学病院。本来、大学病院は医学教育と研究のための大施設であり、そのために政府から助成金を得ているが、どうやら社会的に興味深いという入院基準も持っているようだ。(162頁)


権力者や著名人が入院したということは、
そのために他の患者が入院を断られているということだ。

お金と社会的地位がないばかりに必要な治療が受けられないひとびと。

そういうひとたちが、いったいどれほどいるのだろうか?

安倍晋三よりも重症で入院を必要としている患者は、たくさんいたはずだ。

この大学病院はどちらを見て経営されているのだろうか?

「機能性胃腸障害」とは、分かったようで分からない病名だ、と著者は言う。

医学辞典にも載っていないのだそうだ。

都合のわるいことが起きると病院に逃げ込む。

医師は適当な病名を与え、もっともらしい理由を作ってくれる。

これこそ日本の権力者たちが繰り返してきた行動パターンにほかならない。


◆「ドイツ抵抗者の復権」

ドイツは日本よりもはるかに戦争責任を果たしてきたことで知られている。

これについては、またあらためて記事を書く予定だ。

ドイツの努力は、現在もつづけられている。

 ベルリンの中心、つまりドイツ連邦共和国の中心と言ってもよい場所に、2005年、不思議な広場が造られた。最高級ホテル「アヴァロン」の南に面する1万9000平方メートルの空間に、大小2711個の黒いコンクリート・ブロックが整然と並んでいる。うねる石塊と石塊の間を、若者が、子ども連れの夫婦が、老人が、黙って歩いている。これが「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」である。地下は博物館になっており、今も分かっている限りのユダヤ人犠牲者の名前が読みあげられ続けている。(170−171頁)


ドイツは、加害の歴史を伝える努力を重ねている。

ドイツでは犠牲者を追悼している。

なるほど日本も犠牲者を追悼する。

だがそれは日本兵の犠牲者であり、日本人犠牲者である。

日本軍によって殺害・虐殺された犠牲者ではない。

さらにドイツで特徴的なのは、「ナチスに抵抗したひとたち」を追悼していることだ。

副都心のひとつとして整備されつつあるポツダム広場の南西に、戦前、ドイツ陸軍司令部であった「ベンドラー・ブロック」と呼ばれる灰白の巨大な建物がある。この建物の一部は「ドイツ抵抗記念館」となっており、30あまりの部屋に、1939年から敗戦までの抵抗の記録が集められ、1人ひとり抵抗者の生涯が写真などで説明され顕彰されている。(171頁)


以前、当ブログでも「白バラ」について紹介したことがあった。

抵抗者を積極的に記憶する努力は、日本にはまったく見られないものだ。

 労働運動、政党、プロテスタント、カトリック、芸術と科学などの各領域での抵抗者。軍人、学生、ユダヤ人、ロマ(ジプシー)などの抵抗者。それぞれの生いたち、考え、抵抗、処刑されるまでの過程が詳しく展示され、大学の一学部のようになっている。その他「プレッツェンゼー記念館」「テロルの景観」など各地に散在しており、すべて無料となっている。(171頁)


それに比べて、日本はどうだろうか?

 日本は外国での戦争犯罪の調査研究も進めてこなかった。治安維持法などで弾圧、処刑した人びとへの名誉回復、顕彰もしていない。ここ30年間、日本とドイツの「過去との対決」は差が開くばかりだ。(171頁)


たしかに唖然とするばかりである。

先日も首相談話が発表されたが、
政府の反省と謝罪が甘すぎるという批判はほとんど見られず、
むしろ「反省したこと」が何かわるいことのような非難が渦巻く始末だ。

靖国神社はいまも堂々と残っている。

それを恥と思わない日本人があまりに多い。

彼らは靖国神社が何のためにあるのかも知らない。

やはりいまの日本人はネオナチ化している、と断定せざるを得まい。


◆「うつ状態はうつ病でない」

「うつ病」患者が増えている、とよく言われる。

著者が精神科臨床の第一線にいたころ、
うつ病と心因性のうつ状態は厳格に分けて診断していたという。

だが、1980年代後半になると、
アメリカ精神医学会の影響によって大きく様変わりしたという。

 抗うつ剤が安易に投与されるようになり、うつ病者は増え続けていった。1984年の全国患者実態調査でうつ病などの気分障害は10万人以下であったのが、2002年には推定71万人になっている。そんなことがあり得るだろうか。増えたのはうつ病ではなく、環境がさまざまな負荷をかけたため、心因性うつ状態が増えたと考えるべきではないのか。(193−194頁)


投与された薬のせいで余計に状態が悪化したという話はよく聞く。

他方で、薬の売り上げはどんどん増えていく。

ここにも製薬会社のどす黒い欲望が潜んでいるのだろうか?

 80年代より、自殺はうつ病によるものが多い、早期に精神科で治療しなければならないと主張され続けてきた。それでは年間800億円ともいわれる抗うつ剤が飲まれるようになり、膨大な数のうつ病者が治療されるようになったのに、1998年よりなぜ自殺者が急増し、3万人を超えたままなのか。新しい病名がうつ病を増し、抗うつ剤の売り上げを増し、世論を誘導しているのではないのか。(194頁)


社会や職場や人間関係のあり方に問題があるのに、
そこには一切手はつけられない。

患者の病気を治せばいいのだという考えから、抗うつ剤が投与されていく。

そして昨年も日本の自殺者は3万人を超えたという報道があった。

12年連続で3万人を超えたということだ。

そういえば、学校の先生たちにも「うつ病」が広まっていると言われている。

最後に、次のエッセイを見てみよう。


◆「東京都教育委員会の圧制」

「君が代」斉唱時の不起立を理由に、減給処分、停職処分にされた教師がいる。

ある養護学校の心ある女性教師は、「君が代」のときに起立しなかった。

そのため、学校を転々と異動させられた。

06年4月に転任させられた町田市立鶴川中学では、出勤の前から「ルールを守らない教師」という噂が流されていた。授業が始まると、生徒たちから「歌うのが当たり前。歌わない教師は、辞めろ」と何度となくののしられた。彼女の傍らで「君が代」を合唱し、笑いながら逃げていく生徒たちもいた。モップを引っ掛けられたり、階段で突き飛ばされたこともある。(202頁)


わたしはこれを読んで、心の底から恐怖を感じる。

ユダヤ人をからかったナチス時代のドイツ人、
パレスチナ人をからかうイスラエル人の姿と完全に重なったからだ。

これが21世紀の日本で起きている事実なのである。

相手は中学生だ。

だが、その中学生がなぜこのような行動をとってしまうのか?

要因がどこにあるのかは、容易に想像できる。

「先生、いけないことはいけないと言っていたんだよね」と、
小さな文字で書かれた紙を置いていった学生もいたという。

この教師は、いわば「公認のいじめの対象」にされたのだ。

頂点に立っているのは、都知事、東京都教育委員会。

そして校長、学校の他の教師たち、地域の大人が「いじめ」を公認。

さらに保護者たちの噂話を耳にした中学生が、調子に乗ったのだろう。

だがわたしは、この中学生たちも許さない。

中学生だからといって、言い訳はさせない。

きみたちは卑劣だ。

わたしは、きみたちのような卑劣な連中とは、徹底的に戦うつもりだ。

 これほどの精神の荒廃を強いながら、いじめ対策、心の教育、いのちの教育が語られ続けている。学校の現状は伝わっていない。(202頁)


前に当ブログにも「君が代」不起立の教師を冷笑するコメントが寄せられた。

あの投稿者は、ナチス時代にユダヤ人を冷笑したドイツ人と同じである。

そのくせ天皇のために死ぬこともできない自称・愛国主義者なのである。

ポーズだけの愛国。

右派はすぐ言いたがる。

「日本人はすばらしい」と。

麻生太郎がとくにそうだった。

「日本人は世界でも優れている国民のだ」と言いたがっていた。

そういうひとたちは、日本人の現状を直視するべきだろう。

これが世界に誇れる「日本人」の姿なのか、と。

まずは鏡を見てみるべきだろう。

そこに映った死ぬほど下らない弛緩した顔は世界に誇れるのか、と。









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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ベトナム戦争における韓国軍の所業についても学ばれることをお勧めします。
えまのん
2010/09/06 11:35
◆えまのんさま

以前も似たようなコメントをくださった方ですね。いま流行の「上から目線」というやつのようですが、ベトナム戦争と韓国軍の問題はもちろん知っていますけど、そのことと慰安婦問題は、どうつながるのですか? 「ホロコースト」や原爆や北朝鮮の拉致もそうやってあなたは正当化するわけですか?
影丸
2010/09/11 13:58
別に正当化はしてませんよ。

ただ貴兄のように「なにがなんでも日本が悪い」という思想に疑義を投げているだけです。
えまのん
2010/09/24 16:10
◆えまのんさま

お返事が遅くなりました。再びのご訪問、ありがとうございます。

国家による犯罪行為を正当化しないのであれば、それならちゃんと日本の犯罪も批判してください。まず日本の問題を重視するのは日本国民の責任なのですから、当たり前のことです。日本人としての責任でしょう。でも、あなたはそうしないでしょ? 「日本ばかりが悪いのではない」と言いたいのでしょ? その感覚がおかしいと言っているのです。他国の問題を持ち出してすりかえるのは、それ自体が卑劣な行為です。慰安婦にさせられた女性たちの尊厳を踏みにじっているのですから。
影丸
2010/10/21 17:25

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