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zoom RSS 野田正彰『見得切り政治のあとに』(みすず書房)A

<<   作成日時 : 2010/09/04 01:58   >>

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日本人は、なぜ途上国にこれほど無関心でいられるのだろうか?

アフリカの名が会話のなかで出てくるのは、たとえばこんな場面だ。

大人が子どもに向かってこう言う。

「アフリカの恵まれない子どもたちを見なさい」

「それに比べると、あなたはとっても恵まれているのよ」


このように言う大人には、率直に言って、吐き気を覚える。

彼らは子どもに言うことをきかせるために、
アフリカのひとびとを利用しているにすぎない。

自分たちがいかに恵まれているかということを、
途上国のひとたちを引き合いに出して再確認しているだけなのだ。

彼らは自分の幸福を実感するために、他国の不幸を必要としているのである。


◆「アッサムの紅茶は誰が摘んでいるのか」

アッサム地方の名産である紅茶は、世界的にも有名である。

だが、この紅茶がどのように生産されているかということに、
いったいどれほどのひとが思いをめぐらせているだろうか?

著者は、アッサムに接するバングラデシュのある地方を旅したという。

 いくつかの茶農園を訪ねた。マルニセラ茶農園は1854年に造られた最も古い茶園であり、茶工場で1年に7000トンの茶を製造している。1987年、ようやく英国人からベンガル人に所有者が移った。1000人の、主としてヒンドゥー教を信じる少数民族が働いている。(85頁)


そこの労働者はどのような環境のもとで働いているのだろうか?

 木曜の夕刻、1週間の給与が渡される。木の下に3ヵ所、机が置かれ、名前を言って給与を受け取っていた。朝9時から夕方5時まで働いて、わずか30タカ(約50円)。水田で働く人の日給が約120タカなので、貧しいバングラデシュ労働者のなかでも極端に低い。(85頁)


1日必死に働いて、50円程度しか稼げない。

異常な世界である。

資本主義イデオロギーに染まったひとびとは、
彼らのことを「努力が足りないひとたち」と呼ぶのだろう。

だが、そのように言えるひとたちは、
根本的に人間を軽蔑しているひとたちなのだと思う。

給与を手にした人は、森のなかの倉庫に向かう。付いて行くと、小麦粉の倉庫だった。ここでは、街で1キロ当たり18から20タカする小麦粉が、1.3タカで買うことができる。安い給与でも、安い小麦粉でもやっと生きていかれるように、茶園でしか生きていかれないように、他へ働きに行くことができないように、運営されていた。(85−86頁)


彼らが摘み取った紅茶を、
先進国のひとびとは快適なお部屋でのんびりとすすっている。


◆「大杉栄の死体鑑定書を読む」

9月1日は、防災の日だ。

だが、この日に「残虐な歴史」を想起しようとしたメディアはなかった。

各地で行なわれた防災訓練の模様を伝えるだけだった。

80年以上前の9月1日。

その日にいったい何があったのか?

 関東大震災(1923年9月1日)で戒厳令を出した政府は、その混乱と緊張にまぎれて多くの朝鮮人、中国人、反体制知識人を殺した。9月16日、思想家・大杉栄(38歳)、彼の連れあいだった女性運動家・伊藤野枝(28歳)、彼の甥・橘宗一(6歳)も自宅近くで拉致され、東京憲兵隊麹町分隊で殺された。(88頁)


じつは、この3人の遺体を徹夜で解剖し鑑定書を書いた軍医が、
ひそかにこれを筆写していたのだという。

それがのちに発見された。

 鑑定書では大杉、伊藤に凄まじい暴力が加えられ、その後に手で首を絞めて殺し、さらに麻縄を三重にかけていたとなっている。大杉の体は、胸骨、右第四肋骨、左第四、第五肋骨が完全骨折し、胸部の軟組織は出血し、膵臓、横行結腸も出血していた。伊藤の体もほぼ同じであり、鑑定書は「男女二屍の前胸部の受傷は頗る強大な外力(蹴る踏みつける等)に依るものなることは明白」と書いている。(89頁)


大杉栄、伊藤野枝、そして6歳の少年。

無念だったろう。

苦しかったろう。

痛かったろう。

もっと生きたかっただろう。

集団暴行によって虐殺された3人。

それも国家権力によって。


◆「教育現場での不正の陰で」

全国の高校で、未履修問題が発覚した。

教育委員会や文科省は、「知らなかった」「校長が勝手にやった」などと弁明した。

2001年9月初め、広島県立海田高校で、必修科目とされていた世界史の単位を、履修していない生徒に与えていたことが分かった。同月14日になって、広島県教育委員会は公立高校14校が同じことをしていたと公表した。広島県教育委員会の教育長は以前から、文科省から派遣されている。不正履修が続いていた期間、教育長だったのは、「君が代」斉唱を強制して世羅高校長を自殺へと追いこんだ責任者ともいえる辰野裕一氏(元文部省課長)であり、不正発見時は同じく文科省から来た常盤豊教育長に替わったばかりだった。彼らはその後、文科省に戻っている。(91−92頁)


右派系官僚というのは、なんともご立派なひとたちである。

平気でウソをつく、というのは右翼の本質なのだろうか?


◆「単位偽計と子どもの権利」

未履修問題が発覚してから、
各地の高校は「生徒のために行った」などと言い訳を繰り返した。

わたしが右翼系体育教師だったら、
これらの大人たちを「言い訳をするな!」と殴っていたかもしれない。

問答無用の暴力教師。

だが教師・官僚・教育委員会は誰からも殴られない。

 大人たちは巧みに、「無垢な子ども」観と「魔性の子ども」観を使いわけている。競争スポーツや受験勉強に打ち込むことを強い、そこに純粋な子ども像を勝手に見ている。他方、少年犯罪のたびに「魔性の子ども像を描いている。2つの歪んだ子ども像の使いわけの後に生きている子どもは、市民として成長することを奪われている。(94頁)


大人ほど利己的な生きものはいないのかもしれない。


◆「埋められなかった母の脚」

日本軍は、満州を奪い、市民を見つけると発砲した。

ひとびとを狩猟の対象にした。

著者は中国である老人に出会い、証言を聞き取ったという。

1942年春、15歳のとき、襲ってきた日本軍に母を殺され、山へ逃れていた父と祖母は衰弱死した。日本軍が家屋を破壊して去った後、村へもどると母が倒れていた。板もなく棺も作れなかった。母の体に土をかけているところへ、去ったふりをした日本軍が戻ってきた。脚はまだ出たままだったが、逃げた。再び帰ってくると、母の体は掘り出され、外へ投げ捨てられていた。(97頁)


日本の右翼によれば、「日本は戦争でよいことをした」のだそうだ。

日本の右翼によれば、「白人からアジアを解放するため」だったのだそうだ。

60数年たった今も、ふと1人になると、母の脚が浮かんでくる。あんなにやさしかった母に、私は何もしてあげられなかった。私をここまで育ててくれたのに、何もできなかった。夜中にうなされて跳び起き、しばらく苦しくなる、そう老人は語った。私は、侵略戦争後の中国人の精神的外傷について、日本の精神医学は一度も関心を持ってこなかったことを想う。(97頁)


日本の医学界はこの重い指摘についてどう考えるのだろうか?


◆「フィリピンでも手術演習」

戦争中、中国に派遣された医師は、生体解剖を行なっていた。

生きたまま、人間を解剖し、殺したのだ。

医者が、である。

日本の右翼によれば、「侵略戦争はアジアのため」だったそうだ。

著者は、大阪に住むひとりの老人を訪ねる。

彼は1944年に、衛生兵としてフィリピンへ送られ、
南部ミンダナオ島の西にあるサンボアンガに配属されたという。

そこで、なんと50人ほどのフィリピン人を手術演習として生体解剖したのだという。

 サンボアンガでは、学校を占拠して軍病院にしていた。気性の激しい30代の軍医長(大尉)が、警備隊より「もらってこい」と命じる。スパイ容疑で日本軍に捕まっていたフィリピン人を、1人か2人連れてくる。どうせ殺すのだから、衛生兵の技術を磨くために利用するという発想だった。手足を手術台に縛りつけ、5、6人の衛生兵が取り掛かる。(103頁)


どのようにして生きたままの人間を解剖したのだろうか?

 エーテルがもったいないので麻酔もかけず、腹部を開き、臓器を確認し、腸や胃を切断縫合し、あるいは下肢を切断していったという。時には17、18歳の姉妹を解剖し、子宮の位置などを調べた。1回に1人か2人、50人ほどを手術演習に使った。(103頁)


もう1度言おう。

右翼によれば、「日本は戦争でよいことをした」のだそうだ。

右翼は知らないフリをするかもしれないが、
スパイ容疑であったとしても拘束した捕虜を殺害するのは当時でも犯罪だった。

証言をした大阪の老人は、
「命令だったからしかたがない」と思っていたという。

だが、戦後もしばらくこの記憶に苦しみつづけたという。

「命令だったからしかたがない」。

いまも企業犯罪が発覚するたびに、この言葉が繰り返される。

「命令だったから、自分にはどうしようもなかった」。










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