フォーラム自由幻想

アクセスカウンタ

zoom RSS 渡辺治『憲法9条と25条・その力と可能性』(かもがわ出版)B

<<   作成日時 : 2010/06/23 22:26   >>

トラックバック 0 / コメント 0

小泉政権は、本格的な「構造改革」に着手した。

「聖域なき構造改革」をキャッチフレーズに、3本柱の解体に手をつけた。

3本柱というのは何か?

【その1―企業社会の解体・再編】

すなわち、従来の日本型雇用慣行を破壊すること。

きっかけはこれ。

1995年、日経連が報告書『新時代の「日本的経営」』を発表した。

……従業員を3つに区分して管理することを提案しました。「長期蓄積能力活用型」は、従来の日本型雇用の労働者同様、終身雇用、年功賃金を踏襲し企業内で昇進をしていくタイプです。これは一部のエリート層に限るとされました。あとの2つの類型は、専門技能を必要とする「専門能力活用型」、最後が自由に置き換え可能な「柔軟雇用型」です。あとの2つのタイプの労働者は任期付き雇用とするとされました。(226頁)


この方針にもとづいて、政策が実行された。

たとえば、労働者派遣法は、1985年に制定されたものの、
当初は極めて限られた分野にしか認められていなかった派遣労働。

小渕内閣の99年改正で、一気に原則自由化されました。(226頁)


これにより、多くのひとたちは正社員になることが困難になった。

後藤道夫の調査では、1997年から2006年までの10年の間に、正規従業員が実に472万いなくなり、代わりに非正規従業員が512万人増えているのです……。(227頁)


ここからも分かるように、
非正規労働にしか就けないのはそのひとの責任などではない。

企業が正規雇用を絞り込んでいる結果なのだ。

ところが、こうした経済情勢の変化が理解できないひとは、
まるで若者が甘えているから非正規雇用にしか就けないかのように言う。

そして心の底まで企業の下僕となったひとたちが、
非正規労働者や彼らを支援しているNPOを罵倒するのである。

企業の手先。

資本の走狗。

当ブログにも先日、そういう類のひとがコメントを寄せてきた。

【その2―自民党利益誘導型政治の解体】

小泉政権は、構造改革の実行を自治体にやらせることを考えた。

小泉政権の「三位一体の改革」は、……補助金、交付税交付金のカットに対して、自主財源はうんと絞り込んで渡した……。そのため、自治体は、公共事業投資を削るのか、福祉、介護、教育を削るのかの裁量を与えられ、決断を迫られることになったのです。これは、構造改革を地方自治体の手に委ね、その責任で遂行しようという小泉政権のねらいにもとづくものでした。三位一体改革と並行して、平成の市町村合併が強行されましたが、これまた、市町村を、構造改革を執行する単位にしようという、同じねらいにもとづくものでした。(228頁)


付言しておこう。

最近知事のなかに「道州制の導入」を謳うものがいるが、
彼らは資本の要求にしたがっているのである。

地域の民主主義を骨抜きにしようとねらっていることを忘れるべきではない。

【その3―社会保障構造改革】

小泉政権は医療制度改革にも手をつけた。

……2002年に健康保険法の改正が強行され、健康保険本人の3割負担が強行されました。さらに高齢者の自己負担も完全1割定額制になり、夫婦で年収630万円以上の「高所得者」の自己負担は2割となりました。保険料負担も、それまでの標準報酬制から「総報酬制」に変わり保険料率も引き上げられました。……また、高齢者をターゲットにした、180日超の入院患者への自己負担も導入されました。(229頁)


後期高齢者医療制度改革が敢行されたのも、この文脈において、である。

最も重要なのは、高齢者の医療費の伸びを抑えるために、後期高齢者の保険料と公費負担額をリンクさせることによって(保険料1:現役4:公費5)、医療費の総額、公費負担の総額に歯止めをかけようとしている点です。(229頁)


ちなみに、著者は言及していないのだが、
「尊厳死合法化」の動きもこの文脈で理解されなければならない。

資本にとって役に立たない老人は早く死んでくれ、ということである。

 小泉政権で、政管健保が、協会健保に改正されました……。(231頁)


これはどういうことなのだろうか?

協会健保の運営は、政府の責任から「全国健康保険協会」という公法人に移されましたが、実際の運営は協会の都道府県支部に委ねられ、保険料率も支部ごとに異なるようになったのです。ここでも、健康保険の運営が都道府県毎に「自己責任」で行えるようになり、都道府県間の競争が組織されることになりました。(231頁)


自称ナショナリストたちがこのことを黙認しているのは、
彼らが勉強不足だからか、それとも理解できていないからか。

たぶんその両方だと思われる。

ところが、構造改革の矛盾もさまざまな場面で浮き彫りになってきた。

2006年の1月3日付の『朝日新聞』に就学援助問題が取り上げられています。文房具代とか修学旅行費を公的に支援してもらわないと学校に行けない、そういう子どもたちが急速に増えている。4年で4割増になった。東京都の場合には24%。足立区では4割、つまり10人の子どもたちのうちの4人が就学援助を受けないと学校に行けないという状態があるということを『朝日新聞』が取り上げました。(243頁)


メディアも貧困問題を無視できなくなってきたわけだ。

同じ2006年1月4日付で『毎日新聞』が、無保険者が全国で30万世帯を超えたということを取り上げました。……これは2009年現在ではさらに超えて34万世帯になっています。(243頁)


テレビもやっと貧困問題を取り上げるようになった。

NHKの「ワーキングプア」が放送されたのは2006年7月、第2部が12月です。……そして翌07年1月には日本テレビで「ネットカフェ難民」が放映されると続きます。(244頁)


テレビの方が新聞よりも反応が遅かったことが分かる。

そして、北九州市で餓死者まで出てしまった事件は記憶に新しい。

……北九州市の餓死事件は、2007年10月12日付の『ニューヨーク・タイムズ』にも一面で取り上げられました……。(245頁)


この貧困者を餓死させたのは小泉政権とそれを支持したひとたちだ、
と言ったら、はたして言い過ぎだろうか?

1987年には貯蓄を持たない世帯は、わずか3.3%でしたから、97%の過程が貯蓄を持っていたことになります。(247頁)


かつてはまだ貯蓄に頼れるひとたちがいた。

ところが、……2005年には貯蓄を持たない世帯が23.8%に上りました。(247頁)


貯蓄できないひとたちが増え、貯蓄を切り崩して生活するひとたちも増えた。

以上のことからもよく分かることがある。

保守政治家はよく「国民の生命・財産を守る」と言う。

だが、それは端的にウソだ、ということである。

「国民の生命・財産」など決して守らない、というのがここから分かることだ。

こうして自民党に幻想を抱くひとはさすがに少なくなり、
民主党への支持に変更したひとたちが増えていった。

民主党の得票増の背景には民主党の選挙政策の転換がありました。(251頁)


どういうことだろうか?

民主党は政策をころっと変えたというのか?

……民主党が最初に躍進した98年参院選で、民主党はこう語っていました。
「自民党政権では、構造改革が進まないこともはっきりしました。橋本総理の金看板だった行政改革は、役所の看板の掛け替えに終わり、仕事や権限も減らなければ、税金の無駄づかいもそのままです。規制緩和も、かけ声倒れ。橋本内閣の間に、規制の数は増えています。官僚や既得権益に支えられた自民党では、八百屋で魚を求めるように、真の構造改革は不可能なのです」と(傍点引用者)。(251頁)


なるほど。

民主党は構造改革そのものには賛成だったわけだ。

 また、2001年参院選では、当時代表であった鳩山由紀夫は、「小泉政権では真の構造改革はできない」と訴えて選挙戦を闘ったのです。
 ところが、小沢代表の下で闘われた07参院選では、民主党は面目を一新し、地方の農家に対する「農家戸別所得補償」を前面に出すなど、反構造改革の旗を鮮明にして闘ったのです。(251頁)


なぜ民主党は立場をころっとカメレオンのように変えたのだろうか?

 民主党がこんな急転換をした理由はいくつかあります。……民主党は、自民党との対決点を示すためにも急進化せざるをえなかったのです。
こうした民主党の変身が、構造改革に怒る有権者の票を民主党に振り向けたのです。(251−252頁)


では、民主党は、それまでの自己を反省して、
9条と25条を守る政治に切り替えようとしているのだろうか?

もちろんそうではない。

民主党も賛成した「海賊対処派兵法」を見ると、そのことがよく分かる。

ソマリア沖の海賊対策として制定されたこの法律は、
アメリカに対する「自己弁護」という意味合いを含んでいたからである。

構造改革と自衛隊の海外派兵の拡大を望むアメリカに対して、
「誠意」を示そうとする内容だったからである。

 その点から、海賊対処派兵法を見ると、9条改憲に向けての布石として、重大な問題点が多数あります。第1に、海賊対処派兵法は、ソマリアの海賊への対処ということを宣伝し前面に出しているにもかかわらず、法律の条文にはソマリアという文字はどこにもありません。つまり海賊退治を口実に世界どこへでも派兵できるようになっているのです。
 第2は、ソマリアの海賊退治のために緊急に必要だということが繰り返し言われていたのに、この法律は、テロ対策特措法やイラク特措法と違って、特措法ではなく、恒久法としてつくられている点です。つまり、特措法のように、いちいち国会で延長しなくともよいようにできているのです。
 第3に、この法律は、海賊から日本の船を守るということを前面に出しているにもかかわらず、外国船舶の護衛も可能となっています。また、米軍との共同作戦も可能となっています。この点でも海賊対処派兵法は、海外派兵恒久法、さらに9条改憲のさきがけとしてつくられています。
 最後に、この法律は、海賊船対策という名目で、防衛省が獲得したかった武器使用の拡大を規定しています。(261頁)


自称愛国主義者たちは、これにまったく怒らない。

怒らないどころか、みずからすすんでアメリカに従う。

アメリカ政府に土下座して靴までぺろぺろ舐めるような卑屈な政策。

まったく理解に苦しむ構図である。

日本の右派は、アメリカに対しては従順なマゾヒストになる。

他方でアジア諸国に対してはサディストになる。

自衛隊は誰がどう見ても憲法違反だ。

しかし政府は、自国を守るための「必要最小限度の実力」だと強弁してきた。

それなのにこんどは自衛隊を海外にまで派兵するようになった。

「日本の自衛」とはまったく関係のないイラクにまで派兵した。

これらはすべて法を無視する行為だ。

そして既成事実を着々と積み重ねていった。

他方、ひとびとは既成事実化された「実績」を容認しはじめている。

……いかなる場合も海外派兵反対と答える人(15%から9%へ)、武力行使をしなければいいと答える人(64%から56%へ)の割合が減って、武力行使も含む派兵を是とする人が17%から32%へと増えているのです。(266頁)


これを見ると絶望的な思いになる。

だが著者は希望を捨ててはいないようだ。

自衛隊はれっきとした軍隊ですが、創立以来50数年、1人の人間も殺していません。これは自衛隊が望んでつくった結果ではなく、9条という憲法と市民の運動に規制されてつくられた結果です。(269頁)


わたし自身はこうした見方に賛成するわけにはいかない。

いくら一般読者向けのリップサービスだからといって、
こういう無神経な書き方は賛成できない。

とはいえ、前にも書いたように、
戦後の日本政治史・民主化運動を振り返るのにはいい本である。









テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
渡辺治『憲法9条と25条・その力と可能性』(かもがわ出版)B フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる