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zoom RSS ジェラルド・カーティス『代議士の誕生』(日経BPクラシックス)A

<<   作成日時 : 2010/06/18 14:06   >>

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佐藤文生は、他の政治家と同じように、後援会を組織した。

後援会は、さまざまな団体の支持をとりつけるために奔走する。

ある日、別府市の高級ホテルで、地域の女性たちを集めた大会を開いた。

用意された会場は、同じ自民党議員が社長を務める高級ホテルだった。

支持者をより多く獲得するための重要な機会だった。

参加者は、受付で参加費を形式的に支払う。

形式的にというのは、そのあと、お金は戻ってくるからである。

場合によっては、支払った参加費以上のお金が「戻って」くるという。

なぜなら「交通費」という名目でお金が参加者に戻されるからである。

さらに「お土産」として、
佐藤文生直筆の書を染め抜いた「手ぬぐい」と、以下のものが渡されたという。

・ 佐藤の著書『大分県を考える』
・ 佐藤の経歴を紹介した4ページのパンフレット「佐藤文生のすべて」
・ 『文ちゃんの歌』のレコード
  (ジャケット表にはヨットに乗る佐藤のアップ写真、
  裏には芸能人や著名政治家といっしょに写っている写真、
  内側には『文ちゃんの歌』の歌詞と楽譜が印刷されている)
・ この会合のために発行されたパンフレット
・ 選挙運動についての説明書
・ 夜の催し物のプログラム(夜には別に宴会が準備されている)
・ 大会プログラム
・ メモをとるためのノートと鉛筆


わたしたちにとっては、どれも思わず苦笑いしてしまうものばかりだ。

さて、配布されたプログラムには、
後援会「婦人部」による言葉が記されていたという。

苦笑してしまうほどおもしろいので、ここに引用してみたい。

 「戦後20年、日本人は懸命に働き、日本経済は非常に大きな発展を遂げました。昨今の消費ブーム、レジャーブームには確かに目覚ましいものがあります。しかし一方で、私たちの精神復興はどうでしょうか。私たちの目の前では、低俗な文化が氾濫し、凶悪犯罪が横行し、恐ろしい勢いで交通事故が増えています。とくに私たち母親は、子供の健全な教育についても深く考える必要があります。日本人としての誇りを子供たちに正しく伝えるのは、私たち母親の役目なのです」(248頁)


さらにこう言葉がつづいている。

「婦人が一つになって進んでいくには、互いに絆を深めることが大切です。私たちは積極的な活動を通じて親睦を深め、佐藤文生氏が目指す地域社会づくりを応援します」(248頁)


これ、超ウケる。

いや、これを書いたご本人はまじめなつもりなのかもしれない。

だが、これを読んで苦笑しないではいられない。

さらにすごいのは、佐藤文生による講演の内容である。

これも驚愕すべきものなので、長いのだが、引用してみたい。

市内の高校では、ここ数年驚くほど非行が増えております。シンナーやたばこに手を出す子供が増えているのです。……これはどういうことでしょう。どうしてこんなことになったのでしょう。本当の原因に目をそむけていては、何も変わりません。この20年間に生まれた戦後世代は、戦後の混乱に苦しんでいるのです。みなさんや私が、私たちの誰もが自信を失っているから、苦しんでいるのです。家では子供をどう教育したらよいのか。社会のなかで若者をどう導いていったらよいのか。私たちのこの自信のなさが、若者の非行の原因なのです。〔……〕若者が望んでいるのは強いリーダーシップです。家ではお母さんの強いリーダーシップが、学校では先生の強いリーダーシップが、社会ではわれわれ大人、戦中戦前世代のリーダーシップが求められているのです。日本人の誇りとは何か、日本のすごさとは何か。子供たちはそれをお母さん方に教えてほしいのです。しかし、われわれ世代のお母さん方は、終戦でそれを忘れてしまいました。だからこそ、子供たちは戸惑っているのです。どんなに辛くても頑張ってきた、それが日本の歴史です。日本人の心の中に生まれたその強さこそが、日本の歴史なのです。その強さは戦後生まれたものではありません。神武天皇から連綿と続く日本の歴史が日本人の強さの源なのです。今日みなさんに真剣に考えていただきたいのが、そうした日本の歴史です。〔……〕まず、祖先から受け継いだ貴重な遺産が、万世一系の皇統を戴く日本民族としての誇りであることは、今日この場ではっきりと認めなければなりません。日本のように3000年も続く皇統を戴く国は他にありません。日本の発展の道筋は皇室の下で決まったのです。このような皇室を戴く国は世界で日本だけです〔……〕。
祖先から受け継いだもう一つの遺産は何でしょう。みなさん誰もが思いつくでしょう。素晴らしい日本の文化です。日本舞踊、お茶、生け花、能。お茶や生け花といったものは、アメリカにもイギリスにも、世界のどこを探してもありません。日本固有の優れた精神文化から生まれたものなのです。「もののあわれ」「わび」「さび」といった言葉は世界中のどの国の言葉にもありません。日本だけのものなのです〔……〕。
この素晴らしい歴史を誇りに思い、自信をもって生きること、今の日本には強い政治、強い家庭教育、強いリーダーシップが必要だと認識していただくことが、今日の政治教室の大きな狙いなのです。(256−258頁)


いかがだろうか?

現在の保守系政治家とまったく同じことを述べているではないか。

まず若者の現状を嘆いてみせる。

その原因は「日本人らしさ」が失われたことにあると指摘する。

「日本人はすごいんだ」と言って鼓舞する。

これは現在の政治家たちが使うロジックとまったく同じである。

40年以上も前と彼らは何にも変わっていないのである。

世界は変化し、状況は変化しているにもかかわらず、である。

「日本人としての誇りを取り戻そう」と政治家に言われて、
「そうだ、そうだ」と納得してしまうひとびとがいるというのも驚きである。

このようなことを訴えつづけて、全国各地で自民党議員は当選した。

自民党は、戦後日本の政権を担いつづけてきた。

それで?

さぞかしすばらしい国ができたのであろう。

 勉強の部はこれでおしまいで、夜はお楽しみ会となる。佐藤の友人の地元芸能人が歌や踊りで場を盛り上げ、出席者全員で「文ちゃんの歌」を合唱した。政治の話は一切抜きにして、夜10時まで余興が続いた。(261頁)


街角の選挙運動は、どのように行なわれたのだろうか?

おなじみの「握手」と「名前の連呼」である。

佐藤は選挙戦最初の2日間をかけて別府市内を回った。各校区を一つ一つ選挙カーで縫うように走り、拡声器で「佐藤文生でございます。自民党公認、佐藤文生でございます。どうぞよろしくおねがいします」という同じせりふを際限なく繰り返す。選挙カーが通る時間と場所はあらかじめ町内の世話人に知らせてあり、世話人は選挙カーが通る時間に人を集めて佐藤を出迎える。人が集まっていれば必ず選挙カーを停めて、5分程度、街頭演説をする。別府ではいつも同じことを訴えた。地元出身、唯一の別府出身の佐藤文生です、汚職まみれの旧態依然とした自民党は内部から刷新しなければなりません。党の若返りを実現できるのは私のような若い候補者、最年少候補の佐藤文生だけです。街頭演説が終わると、再び選挙カーに乗り込み、同じせりふを延々と繰り返す。「佐藤文生でございます。自民党公認、佐藤文生でございます……」。夕方には市街地に戻り、メガホン片手にアーケードを練り歩く。集まってきた少数の有権者を前に同じ話を繰り返す。地元から国会議員を、自民党の若返りを図り、「若者と女性に愛される」自民党をつくろうではありませんか。夜9時、1日の選挙運動が終わる。(317−318頁)


民主主義っていったい何なのだろうか?

そういう疑問を抱かずにはいられない光景である。

日本の選挙は、どこも同じように展開されている。

いまもそうだろう。

これは、保守派にかぎらず、革新系の候補もそうだ。

「名前の連呼」と「握手」。

どこが「民主主義の国」なのだろうか?

買収工作もきわめて頻繁に行なわれていた。

たとえば、農村部では特定候補に投票する「お礼」として、極めて少額(普通100円程度とみられる)のお金を渡すことがかなり一般的なようだ。顔なじみになったある候補の運動員は、地元の町でこの候補に投票した2000人の「ほぼ全員」が100円程度のお礼を受け取ったはずだ、と話していた。(339頁)


大した金額ではない。

だが、そこがみそである。

大した金額ではないからこそ、与える側も受け取る側も罪悪感から解放されている。

 こうした「固定票とささやかなお礼」と対照的なのが、「浮動票とあからさまな買収」だ。一般に、買収は政治に関心のない農家が対象になるというイメージがあるが、実際には都市部で横行しているようだ。……都市部では1票当たり500円から1000円、ときには2000円まで出すのが普通になっている。(340−341頁)


こうして選挙活動を展開した佐藤文生は、当選したのだろうか?

結果については、本書をご覧いただきたい。

以前、NHKでドキュメンタリー・シリーズ「民主主義」が放映された。

世界各国のテレビ・ディレクターが製作したドキュメンタリーを集めたものだった。

そのなかのひとつに、日本から出品された作品もあった。

まだ見ていないひとにはおすすめなのだが、
この「民主主義・日本編」は、本書とそっくりの内容なのだ。

本書が書かれてから40年以上も経つ。

しかし、いまも日本の「民主主義」は変わっていない。









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