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zoom RSS 『完訳グリム童話集』全7巻(ちくま文庫)C

<<   作成日時 : 2010/05/26 02:49   >>

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きょうご紹介するのは、第4巻だ。

第4巻に収録されている話はつぎのとおり。

(72)狼と人間/(73)狼と狐/(74)狐とおばさま/(75)狐と猫/(76)なでしこ/(77)かしこいグレーテル/(78)年とったおじいさんと孫/(79)水の精/(80)めんどりの死んだ話/(81)気楽な男/(82)ばくち打ちのハンス/(83)しあわせハンス/(84)ハンスの嫁とり/(85)金の子どもたち/(86)狐とがちょう/(87)貧乏人と金持ち/(88)鳴いてはねるひばり/(89)がちょう番の娘/(90)若い大男/(91)地のなかの小人/(92)金の山の王さま/(93)大がらす/(94)かしこい百姓娘/(95)ヒルデブラントおやじ/(96)3羽の小鳥/(97)命の水/(98)もの知り博士/(99)びんのなかの魔物/(100)悪魔のすすだらけの兄弟/(101)熊の皮を着た男


このなかから、分かりやすいお話を。

「年とったおじいさんと孫」

 むかしむかしあるところに、ひどく年とった男がいました。この人は目がかすみ、耳が聞こえなくなり、ひざががくがくしていました。食事のときにはスプーンをしっかり持っていられなくて、スープをテーブルかけのうえへこぼしました。そればかりでなく、口ヘ入れたスープがすこし流れでました。
 息子とその妻はそれをひどくいやがりました。そこで年とったおじいさんは、とうとうストーブのうしろの、すみのほうに座らされることになりました。ふたりはおじいさんに、素焼きのおわんで食べものを出し、おまけにおなかがいっぱいになるほどは食べさせませんでした。そんなふうにされて、おじいさんはみんなのテーブルのほうをしょんぼりとながめましたが、やがて目がぬれてきました。
 あるときまた、おじいさんは手がふるえて、おわんをしっかり持っていることができませんでした。それでおわんが床へ落ちて、割れました。若いおかみさんはがみがみ言いましたが、おじいさんはなにも言わず、ため息をつくばかりでした。すると、おかみさんは2、3枚の銅貨で木のおわんを買ってきました。それからというもの、おじいさんは木のおわんで食べさせられました。
 あるときみんながそんなふうに座っていると、4歳になる小さな孫が、床のうえで板切れをよせあつめていました。
 「何をしているの?」と父親が聞きました。
 「小さなかいばおけをつくっているんだよ」と子どもが返事をしました。「ぼくが大きくなったら、これでお父さんとお母さんに食べさせてあげる」。夫と妻はしばらく顔を見あわせていましたが、とうとう泣きだしてしまいました。ふたりはすぐに、年とったおじいさんをみんなのテーブルへつれてきました。それからというもの、おじいさんにいつもいっしょに食事をさせ、すこしぐらいこぼしても、なにも言わなくなりました。
(42−44頁)


これほど分かりやすい教訓はない。

でも、これは子どもに聞かせる話というよりは、大人に聞かせる話なのか。

もうひとつ。

これはちょっと長めのお話だ。

「しあわせハンス」

 ハンスは7年のあいだ、主人のもとで働いてきました。さてハンスが主人に言いました。
 「だんな、約束の期間がすぎました。くにのおふくろのところへもどりたいんです。お給金をください」。主人が答えて言いました。
 「おまえはかげひなたなく、よく働いてくれた。働きに見あう給金をあげよう」。そう言うと、ハンスの頭ほどもある金のかたまりをくれました。ハンスはポケットから布きれをひっぱりだし、金のかたまりをくるむと、肩に担いで、家ヘむかって歩きだしました。ハンスが2本の足をかわるがわるまえヘ出しながら歩いていると、馬に乗った人がハンスの目に入りました。その人は威勢のよい馬にまたがって、元気よく楽しそうにハンスのわきを通っていきました。それを見て、ハンスが大きな声で言いました。
 「あーあ、馬で行くのはいいなあ。馬に乗れば、いすに座っているのと同じで、石にはつまずかないし、靴はヘらないし、知らないあいだにさきヘ進んでいくものなあ」。馬に乗った人は、ハンスのことばが聞こえたので、馬をとめて言いました。
 「おや、ハンス、おまえはどうしてまた、てくてく歩いているんだい」。ハンスが返事をしました。
 「歩かないわけにはいかないんですよ。かたまりをうちへ運ばなくちゃなりませんからね。かたまりというのは金なんだけど、こいつを担いでいると、首はまっすぐのばせないし、それに肩へもめりこんでくるしなあ」。馬に乗った人が言いました。
 「どうだい、ハンス、とりかえっこしようじゃないか。おまえに馬をやるから、わたしにそのかたまりをよこさないか」。ハンスが言いました。
 「願ったりかなったりだ。でも言っておくけど、あんたはこのかたまりをうんうん運んでいかなくちゃなりませんぜ」。その男は、馬からおりると金を受けとり、ハンスを馬にのせ、手綱をにぎらせて言いました。
 「速く走りたいと思ったら、舌を鳴らして、『はい、はい』とどなるんだよ」。
 ハンスは馬にまたがり、のんびり馬を進めていると、心底うれしくなりました。しばらくのあいだはそうしていましたが、そのうちにハンスは、もうすこしスピードを出したくなりました。そこで舌を鳴らして、
 「はい、はい」とどなりました。すると、馬が勢いよく走りだしたので、ハンスはあっというまにふり落とされて、畑と街道をへだてるみぞのなかにのびてしまいました。牛を追って通りかかったお百姓が、馬をとめてくれなかったら、馬はどこかへ行ってしまったことでしょう。ハンスは手足がどこも折れていないことを確かめて、立ちあがりました。けれども、すっかりきげんを悪くして、そのお百姓に言いました。
 「馬に乗るなんて、おもしろくもなんともないや。まして、こんなやくざな馬にぶつかった日にゃ、けとばされたりふり落とされたりして、首の骨でも折るのがおちってもんだ。おれはもうこんりんざい馬には乗らないぞ。それにくらべて、あんたの牛はいいねえ。ゆっくりあとからついていけばいいんだから。そのうえ、ミルクとバターとチーズは、毎日まちがいなしときたもんだ。そんな牛がおれのものになるなら、かわりになんでも出すがなあ」。そのお百姓が言いました。
 「そうか。そんなに牛が気に入ったのなら、牛と馬をとりかえてやってもいいぞ」。ハンスは大喜びで承知しました。お百姓は馬にとび乗ると、急いで行ってしまいました。
 ハンスは牛を追ってのんびり歩きながら、うまい取り引きをしたものだ、と思っていました。
 「パンがひと切れあれば、といってパンに困ることはないから、食べたいときにはいつでも、パンにそえてバターとチーズが食べられるというものだ。のどがかわけば、牛の乳をしぼってミルクを飲めばいい。どうだ、このうえ望むものがあるか」。ハンスは居酒屋のところまで来ると、そこに立ちよって、うれしさまぎれに、昼の弁当も晩の弁当も、持っているものをきれいにたいらげてしまいました。そして手もとに2、3枚残っていた銅貨で、ビールをコップに半分もらいました。
 それから、またもや母親の村を目ざして、牛を追っていきました。昼に近くなると、暑さがますますひどくなってきました。ハンスはちょうど、荒れ野にさしかかっていましたが、その荒れ野はこれからまだ1時間もつづくのです。暑くて暑くて、ハンスはのどがからからになり、舌が上あごにひっつきました。
 「こんなことはなんとでもなる。さあ、乳をしぼって、ミルクで元気をつけよう」とハンスは考えました。ハンスは牛を枯れ木につなぎましたが、おけがありません。そこで革のぼうしを下にあてがいました。ところがいくらしぼっても、ミルクは1滴も出てきません。それに、やりかたがへただったものですから、牛がいらいらして、しまいに片方のうしろ足でハンスの頭をけとばしました。それでハンスはふらふらと地面にたおれ、しばらくのあいだは、自分がどこにいるのかさえわかりませんでした。そこへ運よく肉屋が通りかかりました。肉屋は手おし車に子豚をのせていました。
 「いったいどうしたというんだ」と言って、肉屋は気のいいハンスを助けおこしてくれました。ハンスはわけを話しました。肉屋はいつもたずさえているびんをハンスにわたして、言いました。
 「ひと口飲んで元気をつけな。この牛はミルクを出しそうもないな。年をとりすぎているもの。せいぜい車を引くか、肉にまわすかだろうな」。
 「ヘぇー。そうとは知らなかった」と言って、ハンスは頭をかきました。「こんな牛は、うちへ引いていってつぶすにこしたことはない。いい肉がとれるだろう。でも、牛の肉はあんまりうれしくないな。汁気が足りないもの。うん、そんな子豚なら言うことなしだ。そいつの味は牛とはくらべものにならないぞ。それにソーセージもできるしな」。そこで肉屋が言いました。
 「なあ、ハンス、おまえのためを思って言うんだけれど、この豚とその牛をとりかえてやろうか」。
 「あんたみたいに親切な人はいないねえ」と言って、ハンスは肉屋に牛をわたし、子豚を手おし車からおろしてもらい、しばってある綱を受けとりました。
 ハンスはさきヘ歩きながら、なにもかも思いどおりになるなあ、なにかいやなことに出会っても、すぐにまた埋めあわせがつくもの、とつくづく思いました。しばらくして、ハンスは若い男と道づれになりました。その男は、すてきな白いがちょうをこわきにかかえていました。ふたりは、こんにちは、とあいさつを交わしました。ハンスがまず口をきり、自分の運のよいことを話し、いつも得なとりかえっこをしてきた、と言いました。すると若い男は、このがちょうは子どもの洗礼の祝いの席ヘ持っていくんだ、とハンスに話しました。それから、ことばをつづけて、
 「まあ、持ってみろよ」と言い、がちょうの羽をつかみました。「こいつは重いぞ。なにしろ8週間というもの、ヌードルを食わせて太らせたからな。これを焼いて食う人は、口の両端からたれる脂をふきとらなきゃあならないぜ」。ハンスは片手でがちょうを持ってみて、言いました。
 「うん、ほんとに重いや。でもおれの豚も悪くないぜ」。そんな話をしているうちに、若い男はきょろきょろあたりを見まわしたり、ときにはまた首をふったりしていましたが、やがてこんなことを言いだしました。
 「ちょっと耳を貸してくれ。あんたの豚にはどうもうさんくさいところがある。おれが通ってきた村で、村長さんの家畜小屋から豚が1頭ぬすまれたところだった。あんたのがそいつじゃないかな。どうも気になるな。村じゃ人を出して、豚をきがしている。あんたが豚といっしょにつかまったら、それこそひどいことになるぜ。軽くても、暗い穴にほうりこまれるな」。気のいいハンスは心配でたまらなくなりました。
 「そいつはたいへんだ」とハンスは言いました。「なんとか助けてくれよ。このあたりのことは、おれよりずっとよくわかっているんだから。この豚をひきとって、そのがちょうをくれないか」。若い男は答えて言いました。
 「おれも、危ない橋をわたることになるからな。でも、おれのせいであんたがひどい目にあった、というのも寝ざめが悪いし」。そういうわけで、男は綱を手にとると、豚を追ってさっさとわき道へそれていきました。
 ところで、気のいいハンスは心配ごとがなくなったので、がちょうをかかえてまたふるさとへの道をたどりました。歩きながらハンスは、ひとりごとを言いました。
 「よくよく考えてみると、今度のとりかえっこでも、やっぱり得をしたな。まず第一に、うまい焼き肉が食べられる。次に、脂がたくさんたれてくるから、そいつをぬったパンが三月は楽しめる。しまいに、すてきな白い羽根だ。それでおれのまくらをつくってもらおう。羽根まくらをしたら、ゆすって寝つかせてもらわなくてもぐっすり眠れるな。おふくろはきっと喜ぶぞ」。
 ハンスが最後の村を通りぬけると、はさみの研ぎ屋が、道具をのせた手おし車をとめていました。丸い砥石が音を立ててまわり、それに合わせて研ぎ屋は歌を歌っていました。

  「ぶんぶんまわして、はさみを研いで、
  風のふくまま、ふかれていくさ」

 ハンスは立ちどまって研ぎ屋を見ていましたが、とうとうこう言って話しかけました。
 「うまくいってるね、そんなにおもしろおかしく砥石をまわしているところを見ると」。
 「そうともさ」と研ぎ屋が答えました。「芸は身を助ける、って言うじゃないか。一人前の研ぎ屋というのはたいしたものさ。ポケットヘ手を入れるたびに、金がみつかるっていうんだから。ところで、そのすてきながちょうはどこで買ったね」。
 「買ったんじゃないよ。豚ととりかえっこしたのさ」。
 「で、その豚は?」
 「牛ととりかえっこしたのさ」。
 「で、牛は?」
 「馬と交換したんだよ」。
 「で、その馬は?」
 「金のかたまりととりかえたんだ。おれの頭くらいでかかったな」。
 「で、その金は?」
 「うん、それは7年つとめた給金なんだ」。
 「うまくやったね、とりかえっこのたびに」と研ぎ屋が言いました。「このうえは、立ちあがるたびに、ポケットのなかで金がちゃりんと鳴るところまでもっていけたら、言うことなしだね」。
 「どうすりゃいいのかね」とハンスが言いました。
 「おれと同じ研ぎ屋になればいいのさ。この商売には、砥石のほかにはなにもいりゃしない。あとは、ほっといてもうまくいくさ。ほら、砥石ならここにあるんだ。ちょっと傷があるけど、そのかわり、これならそのがちょう1羽にまけとくが、どうするね」。
 「わかりきったことを聞くなよ」とハンスが答えました。「おれはこの世でいちばんしあわせ者だ。ポケットに手を入れるたびに金があるとなりゃあ、もうくよくよすることはなにもないや」。ハンスは研ぎ屋にがちょうをわたし、砥石を受けとりました。研ぎ屋は、わきにころがっていた見ばえのしない重い石をとって、
 「そら」と言いました。「もうひとつ、でっかい石をおまけにあげるよ。ものをのせてたたくにゃ、もってこいのしろものだ。古いくぎなんか、すぐにまっすぐになるぜ。さあ、大事に持っていきな」。
 ハンスは石をかついで、心も楽しくさきへ進みました。うれしくて目がきらきら光っていました。
 「おれは福の皮をかぶって生まれたにちがいない」とハンスはさけびました。「願ったことは、なんでもかなう。まるで日曜日に生まれた子みたいだな」。ハンスは夜明けから歩きつづけていたので、そのうちにつかれが出てきました。それに腹もすいてきました。なにしろ、馬を手に入れたとき、うれしまぎれに弁当をいちどきにみんな食べてしまったからです。ハンスはやっとの思いで足を動かしていましたが、とうとうひと足ごとに立ちどまるようになりました。おまけにふたつの石が重くて重くてしかたがありません。こいつをいますぐにほうりだせたら、どんなに気持ちがいいだろう、と思わずにいられませんでした。
 ハンスは、かたつむりがはうようにして野中の井戸にたどりつき、ひと休みして冷たい水で元気をつけよう、と思いました。でも、しゃがむとき石に傷をつけないように、そばからはなさず、井戸のふちへそっと置きました。それから、かがんで水を飲もうとしたひょうしに、ちょっと石をつついてしまいました。すると石はふたつとも、どぶんと井戸のなかヘ落ちてしまいました。ハンスは石が底ヘしずんでいくのをじっと見ていましたが、うれしくなっておどりあがりました。それからひざまずき、目に涙をうかべて、神さまにお礼を申しあげました。こんなおめぐみまで授けていただいてありがとうございます、こんなうまいやりかたで、気がとがめることもなく、じゃまでしかたがなかった重い石までとりのけていただくなんて、と言ったのです。
 「おれみたいにしあわせな人間は、おてんとさまのしたにふたりとはいないぞ」とハンスはさけびました。そして心も軽く身も軽く、とぶように歩いて、ふるさとのおっかさんのもとに帰りつきました。
(86−104頁)


この主人公の名が、また「ハンス」であることに注意しよう。

お人よしのハンス、超楽観主義者のハンス。

自分の利益を追求しなさいと教える資本主義イデオロギーは、
このハンスという人物をどのように評価するのだろうか?

マヌケなハンス?

ひとのためになることをしなさいと教えるモラリストは、
このハンスという人物をどのように評価するのか?

ハンスは交換するたびにまちがいなくひとびとを喜ばせた。

モラリストも利己主義者もこの話をどう受け止めるのだろうか?

ハンスは騙されたのか?

ハンスは損をしているのか?

でもハンス自身が何より喜んでいるのである。

ところで、この巻に入っている「ヒルデブラントおやじ」という話には、
またスケベな聖職者が登場し、最後に痛い目にあう。

教会の目のとどかないところで、
民衆はこうした話を好んでいたのか、聖職者を告発していたのか。










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