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zoom RSS 『完訳グリム童話集』全7巻(ちくま文庫)B

<<   作成日時 : 2010/05/24 16:53   >>

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『グリム童話』と聞くと、次のような反応をなさる方がいる。

「あ、それって本当は怖い話なのだよね」

『グリム童話』は「本当な怖い話」であるという趣旨の本が以前出版され、
その影響が意外にも大きいためであろうと思われる。

ただし、『グリム童話』は実際に読んでみると、「怖い」。

手足を切り落とす話もあるし、身体を引き裂く話もある。

だから、「本当は怖い」ではなく、「モロに怖い」が正しい。

「モロに怖い」のだから、わざわざ「本当は怖い」などと言う必要はないと思う。

童謡の「花いちもんめ」が「じつは怖い歌」だ、というなら分かる。

「花いちもんめ」の歌詞の内容は、
ただちに恐怖を連想させるわけではないからだ。

でも「本当は怖い」歌である。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


さて、3巻にはどのような話が収録されているのだろうか?

見てみよう。

(48)老いぼれズルタン/(49)6羽の白鳥/(50)いばら姫/(51)みつけ鳥/(52)つぐみひげの王さま/(53)白雪姫/(54)背のうとぼうしと角笛/(55)ルンペンシュティルツヒェン/(56)恋人ローラント/(57)金の鳥/(58)犬とすずめ/(59)フリーダーとカーターリースヒェン/(60)ふたり兄弟/(61)小百姓/(62)蜂の女王/(63)3枚の烏の羽根/(64)金のがちょう/(65)千枚皮/(66)うさぎのお嫁さん/(67)12人の猟師/(68)泥棒とその親方/(69)ヨリンデとヨリンゲル/(70)3人のしあわせ者/(71)6人男、世界をのし歩く


ここにはとくに有名な話はないかもしれないが、
わたしが興味をそそられた話がある。

55番の「ルンペンシュティルツヒェン」だ。

どんな話なのか、実際にお読みいただきたい。

「ルンペンシュティルツヒェン」

 むかしむかしあるところに粉屋がいました。この人は貧乏でしたが、きれいな娘がありました。この粉屋があるとき、たまたま王さまと話をしたことがあったのですが、そのときもったいをつけようとして、王さまにこう言いました。
「わたくしには娘がひとりありますが、この娘はわらを紡いで金にすることができます」。すると王さまは、粉屋にこう言いました。
 「それは、たいしたわざだ。気に入ったぞ。おまえの言うとおり、娘がそんなに器用ならば、明日、わたしの城へつれてまいれ。娘の腕前を試してみよう」。こうして娘が王さまのところへつれてこられると、王さまは娘をわらのいっぱいつまっている部屋へつれていき、糸車と巻き枠をわたして言いました。
 「さあ、仕事にかかれ。夜どおし働いて、明日の朝までにこのわらを金にしてしまわなければ、おまえの命はないぞ」。こう言うと、王さまは自分でその部屋に錠をおろし、娘をそこにひとり残していきました。
 かわいそうに粉屋の娘はそこに座って、すっかり途方にくれました。どうしたらわらを紡いで金にできるのか見当もつかず、だんだん心配になって、とうとう泣きだしてしまいました。すると急に戸が開き、ひとりの小人が入ってきて言いました。
 「こんばんは、粉屋の娘さん。なんで泣いているのかね」。
 「困っているの」と娘は返事をしました。「あたし、わらを紡いで金にしなければならないのだけれど、どうやったらいいのかわからないんです」。すると小人が言いました。
 「何をくれるね、わたしがかわりに紡いでやったら」。
 「あたしの首飾りを」と娘は言いました。小人は首飾りを受けとると、糸車のまえに腰をおろして、ぶん、ぶん、ぶんと、三度まわしました。すると、巻き枠はいっぱいになりました。それから、べつの巻き枠をさして、ぶん、ぶん、ぶんと、三度まわすと、ふたつめの巻き枠もいっぱいになりました。こんなふうにして朝まで仕事がつづくと、わらは残らず紡がれて、巻き枠はみんな金でいっぱいになりました。日がのぼると、もう王さまがやってきました。王さまは金を見ると、びっくりして喜びましたが、心のなかではもっともっと金がほしくなりました。王さまは粉屋の娘を、わらのいっぱい入っている、まえより大きな部屋につれていって、命が惜しければこのわらもひと晩で金に紡ぐように、と言いつけました。娘がどうしていいかわからず泣いていると、また戸が開き、あの小人があらわれて言いました。
 「何をくれるね、このわらを紡いで金にしてやったら」。
 「あたしの指輪を」と娘は返事をしました。小人は指輪を受けとると、また糸車をぶんぶんまわしはじめ、朝までにわらを残らずぴかぴか光る金に紡いでしまいました。これを見た王さまは大喜びしましたが、まだまだ満足せず、もっと金がほしくなり、粉屋の娘をわらのいっぱいつまっている、まえよりもっと大きな部屋につれていって、
 「この部屋のわらも、今夜のうちに紡いでしまうのだぞ。でも、うまくやりとげたら、おまえをわたしの后にしてやろう」と言いました。たとえ粉屋の娘だとしても、これ以上金持ちの妻は世界じゅうさがしてもみつかるまい、と考えたのです。娘がひとりきりになると、またまた小人がやってきて、
 「何をくれるね、今度もわらを紡いでやったら」と言いました。
 「あげられるものは、もうなにもないわ」と娘が返事をしました。
 「それなら約束してくれ。もしあんたがお后になったら、はじめての子どもをわたしによこす、とね」。さきのことはどうなるかわからない、と粉屋の娘は考えました。それに、この急場をしのぐ手立てもほかになかったので、小人の言うとおり約束しました。そのかわりに小人は、もう一度またわらを紡いで金にしてくれました。日がのぼったとたんに王さまがやってきました。そして、すっかり自分の望んだとおりになっているのを見ると、この娘と結婚式をあげました。こうして、美しい粉屋の娘はお后となりました。
 1年たって、お后はきれいな子どもを産みましたが、あの小人のことなどもうすっかり忘れていました。すると小人が、不意にお后の部屋に入ってきて、
 「さあ、約束のものをくれ」と言いました。お后はたいそうおどろいて、子どもさえとらずにおいてくれれば、国じゅうの宝をみんなあげる、と申しでました。ところが小人は、
 「いいや、世界じゅうの宝物より、生きているもののほうが好きなんだ」と言いました。これを聞くとお后は、なげき悲しんで泣きだしました。そこで小人も、さすがにあわれをもよおして、
 「では3日だけ待ってやろう。もしそのあいだにわたしの名前を当てられたら、子どもはとらずにおこう」と言いました。
 さてお后は夜どおし、これまでに聞いたことのある、ありとあらゆる名前を思いだしてみました。それから、使いの者をひとり遠くまでやって、まだほかにどんな名前があるか、ほうぼう聞いて歩かせました。あくる日小人がやってくると、お后はカスパルとか、メルヒオールとか、バルツァーとかいう名前からはじめて、知っているだけの名前を、次から次へとならべたてました。けれども小人は、どの名前を聞いても、
 「わたしは、そんな名前じゃない」と言いました。2日めにはお后は、近所にどんな名前の人がいるか、聞いてまわらせました。そして、世にもめずらしい奇妙な名前を言ってみました。
 「もしかしたら、リッペンビーストっていうんじゃない? それとも、ハンメルスバーデ? それとも、シュニュールバイン?」。けれども小人は相変わらず、
 「わたしは、そんな名前じゃない」と答えるばかりでした。3日めに使いの者がもどってきて、こんな話をしました。
 「新しい名前はただのひとつもみつかりませんでした。ところが、ある高い山のふもとに来て、森のはずれをまわりますと、そこは狐とうさぎがおやすみなさいを言いあうような、へんぴなところですが、そこに1軒の小さな家があって、その家のまえには火が燃えていました。そして、その火のまわりをみょうちきりんな小人がはねまわっていて、1本足でぴょんぴょんとびながら、

  『今日はパン焼き、明日は酒づくり、
  あさってはお后の子をとってくる。
  やれ、ありがたや。だあれも知らぬ、
  おれの名前がルンペルシュティルツヒェンとはな』。

とさけんでおりました」。后がこの名前を聞いてどんなに喜んだか、みなさんにもおわかりでしょう。それからじきに小人が入ってきて、
 「さて、お后、わたしの名前はなんというかな」と聞きました。后はまずはじめに、
 「あんたの名前は、クンツかえ?」と聞きました。
 「いいや」。
 「ハインツかえ?」。
 「いいや」。

  「ことによると、ルンペルシュティルツヒェンかえ?」

 「悪魔がしゃべったな、悪魔がしゃべったな」と、小人は大声でさけび、腹立ちまぎれに右足で地面をどんとふんだものですから、足のつけ根まで土のなかにめりこんでしまいました。すると小人はかんしゃくを起こして、両手で左足をつかむと、われとわが身をまっぷたつにひきさいてしまいました。
(109−117頁)


おもしろい話であろう。

ご存知の方がどれほどいるか分からないが、
この昔話はじつは日本の「大工と鬼六」にそっくりなのである。

知らないひとのために、短い物語なので引用してみよう。

「大工と鬼六」

 むかしあるところに、たいそう流れの早い川があったと。なんべんも橋をかけたことはあるのだが、かけるたんびに押し流されてしまう。「なじょしたら、この川に橋をかけられるベ」と、村の人らはひたいを集めて協議をしたそうな。
 「この近在で一番名高い大工どんに頼んだがよかんベ」
 「うん、それだ、それだ」。
 みんなの考えがまとまって、使いを出してその大工どんに頼みに行ったと。
 とびきり腕のいい大工どんは、「うん」と引き受けたものの、どうも心配でならん。そこで橋かけを頼まれた川へ行って見たそうな。岸につくばんで、
 「なるほど、流れがきつい上に川の幅も広いときた。はてさて、これはとんだ仕事を引き受けたわい」
と、こわいように奔る水を見つめておった。すると大きな泡がプクプクと浮かんで、ぶっくりと大きな鬼が頭を出した。
 「いやあれ、名高い大工どん、お前は何を考えておりゃあ」
と、ものを言いかけたそうな。
「うん、おれは今度ここへ橋かけを頼まれたもんで、なじょしても、がんじょうな橋をかけたいと思ってな、考えておるところだ」。
 鬼は、あきれた顔でこう言った。
 「とんでもねえ話だ。お前がいくら上手な大工でも、ここさ橋はかけられねえ。けれどもお前がその目ん玉をよこすならば、おれが代わって橋をかけてやってもよかんベ」
 「おれはどうでもいいがの」。
大工どんは、目ん玉よこせとはあんまり急な話なので、なま返事をしてその日は家へ帰ったそうな。
 またそのあくる日行って見たらば、なんと、橋が半分かかっており、また次の日、見に行ったら橋が立派にでき上がっておる。向こう岸からこっちまで、見事な腕前だ。大工どんがたまげて見ておると、鬼がぶっくりと出て来て、「どうだ、橋をかけたろう。さあ、目ん玉あよこせ、やい」と、しずくのたれた顔で言うのだった。大工どんは、あわてて、
 「ま、ちょっと待ってくろ。今日はだめだ」
と言いおいて、当てもないのに、ごんごんと山の方へ歩いて行った。「おらはどうしたらよかんベ、おらはどうしたら……」とひとりごとを言いながら、山の中をあっちこっち、ふらふら歩いておると、遠くの方から、子どもらの歌い声が聞えてきた。
  早く 鬼六あ
  目なく玉あ
  持って来ばあ
  ええなあ
大工どんはそれを聞くと、はっと本性にかえって、家にもどって寝た。
 次の日に大工どんがまた橋のところまで行くと、すぐに鬼が浮いて出て、
「やい、早く目ん玉あよこせ」
と、さいそくした。
 「おれの大切な目のことだ、もう少し待ってけろ」
大工どんが頼むと、
 「それほど目ん玉が惜しくって、おれによこすのがいやかい。なら、このおれの名前を当ててみろ。みごと当てたらば目ん玉は許してやろう。だがお前なんぞにとっても当てられまいなあ」
そう言って、鬼はにかりにかりと笑った。大工どんは、よしきたとばかり、
 「お前の名前は、強太郎だ」
とか何とか、出まかせを言ってやった。
 「アハハハ、そんなんでねえぞ。なかなか鬼の名前が言い当てられるもんかよ」。
鬼は子どものように喜んだ。
 「そうか、そんならお前は、鬼のおん吉」
 「うんにゃ、違う」
 「今度こそ当てるぞ、つの兵衛だ」
 「うんにゃ、違う、違う」。
大工どんは、一番しまいに、うんと大きな声で、
 「鬼六っ」
と叫んだ。
 鬼はぽっかっと消えてしまって、それっきり姿を見せんと。

(稲田浩二・稲田和子編著『日本昔話百選』三省堂、122−125頁)


これは岩手県胆沢郡で語り継がれてきた話だという。

いかがだろうか?

展開がそっくりだろう。

遠く離れたドイツと日本の東北で、
それぞれ内容のそっくり似ている物語が語り継がれていた。

じつに興味深い現象ではなかろうか?

もうひとつ。

同じ3巻に入っているのだが、「小百姓」というお話がある。

これは、キリスト教の聖職者がいかにひどいヤツか、
ということが描かれていておもしろい。

中世の昔話を調べてみると、そのテの話が結構あるのだ。

ここでは引用しないが、興味のある方はぜひお読みいただきたい。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


ひとつ書き忘れていたことがある。

この巻にはさして有名な作品はないかもしれないと書いたが、
「白雪姫」は誰もが知る有名な作品だった。

ただ、毒りんごを食べる「白雪姫」の話は知っていても、
多くのひとは王子さまのキスによって「白雪姫」が生き返ると思っていないか?

この本を読むと、そうではない。

「白雪姫」の棺を担いでいた小人が石につまずいて、
棺が傾いたときに「白雪姫」ののどから毒りんごが出てきて、
それで生き返るのである。

「白雪姫」は王子さまのキスで生き返るのではない。









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