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zoom RSS 星川淳『なぜ日本は世界で一番クジラを殺すのか』(幻冬舎新書)C

<<   作成日時 : 2010/03/05 11:47   >>

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今回で、本書の紹介も最終回としたい。

日本人の多くは捕鯨に賛成している。

だが、そんな彼らも、いまではほとんど鯨肉を食べない。

「捕鯨は日本の伝統文化だ」と言うくせに、
カレーやパスタやラーメンに比べてほとんど食べていない。

このことは何度も確認してきた。

では、日本人はいつごろもっとも鯨肉を食べていたのだろうか?

 ……クジラの肉が日本人の食生活のなかでもっとも比率が高かったのは1947〜1948年だ。(153頁)


敗戦直後の食糧難の時期だ。

やがて日本は高度経済成長期に突入していく。

だがそれは公害と環境破壊の拡大でもあった。

現在、マッコウクジラをあまり食用として販売しないのは、総水銀及びメチル水銀の濃度が厚生労働省の暫定的規制値(総水銀0.4ppm、メチル水銀0.3ppm。1973年に当時の厚生省が環境衛生局長通達を出した)を超えているためで、PCBの濃度も高めと分析されている。厚生労働省では、妊娠中もしくは妊娠している可能性のある女性は、マッコウクジラの筋肉(赤身のこと)を1回80グラムとして、食べても1週間に1回までにするよう2005年に指導している。(162−163頁)


鯨肉は化学物質に汚染されている。

 1999年の日本薬学会で、日本で流通している鯨肉の汚染について、日英米の科学者による共同調査の結果が発表された。市販されている鯨肉をランダムに収集した調査で、複数の肉から高濃度の水銀が検出された。とくに沿岸の8クジラ類(イルカ類)に蓄積された水銀の値が高く、魚介類の暫定基準値の数千倍という値を示すものもあった。また、イル力の肉を「ミンククジラ」と偽って表示するケースもあった。この結果を憂慮した科学者たちは政府に対し、市場に流通する鯨肉の汚染について、消費者への警告を要望した。
 しかし政府は何の対策も講じなかった……。(163−164頁)


わたしは思う。

どんなに汚染されていても、
あれほど「反捕鯨」に反発してみせたのだから、
捕鯨賛成派は鯨肉を食べて「伝統文化」であることをみずから示してほしい。

そう思う。

いや、本当はそうは思わない。

いくら暴論を撒き散らすひとたちだって、
健康被害にあえばかわいそうであるにちないない。

だから捕鯨賛成派には素直に自分の矛盾を認めてもらいたい。

2002年に朝日新聞が実施した世論調査がある。

「あなたはクジラの肉をどのくらい食べますか(回答カードから1つ選択)」
という問いに対して、以下のような結果が得られたという。

○ 時々食べる 4%

○ ごくまれに食べる 9%

○ かなり前に食べたきり 53%

○ 食べない 33%

○ その他・答えない 1%


グリーンピース・ジャパンの世論調査(2006年)でも似た結果が出ているという。

○ かなり前に食べたきり 62.6%

○ 食べない 19.3%


いずれにせよ、80%以上の人が鯨肉を自分が食べるものと考えていない。

当然だろう。

したがって現在は鯨肉の在庫が余って仕方がない状況にあるという。

そこで捕鯨船はなんと、帰港途中にクジラの肉を捨てているらしいのだ。

……持ち帰れるはずの肉・皮・内臓を捨ててきた可能性も高い。在庫量を抑えるためだったのか、冷凍庫に入りきれなかったのか、人員配置の限界で処理しきれなかったのか、グリーンピースの証拠映像にも母船から捨てられる大きな塊が写っている。これは、捕獲サンプルを尊重するという“調査捕鯨”のルールに違反する疑いがある……。(166−167頁)


何という無駄なことをしているのだろうか?

「モッタイナイ」という日本語が国際社会で使われるようになったと、
一時期多くの日本人は満足げに語っていたが、これはどうしたことか?

……「鯨肉食は日本の食文化だ」と、日本人が自主的にクジラを選んで食べたがっているように主張するのは実態とちがう。戦後、多くの日本人がクジラの肉に親しんだのと同じころ、やはり学校給食に出た脱脂粉乳を、日本固有の食文化だと主張する人はいないだろう(たしかに美味ではなかったし)。(170頁)


おお、捕鯨賛成派に言ってみてほしい。

「脱脂粉乳は日本の伝統文化だ!」と。

彼らの口から聞いてみたい。

日本人の大半がすでに鯨肉を食べていないことは、明らかだ。

それなのに、「日本捕鯨協会」の英語版ウェブサイトには、
こんなことが書かれているという。

「日本人に日本文化の一部である(鯨肉食の)伝統を捨て去れというのは、オーストラリア人にミートパイを食べるのをやめろといい、アメリカ人にハンバーガーを食べるのをやめろといい、イギリス人にフィッシュ&チップスなしで暮らせというのに等しい」(170頁)


おお……。

わたしはあまりの恥ずかしさに顔が紅潮してきてしまう。

日本人にとって鯨肉食は、アメリカ人にとってのハンバーガーと同じ???

やめてくれえ……。

日本人が本当にバカであると思われてしまうではないか。

恥ずかしい。

それでも日本政府は必死に捕鯨を継続しようとしている。

ほかにも魂胆があるのだろうか?

おもしろいことに、……20世紀初頭にも、政府の肝煎りで、ほぼ同様の鯨肉普及キャンペーンが行なわれた。(171頁)


ほう、どういうことか?

……満州事変から太平洋戦争にかけては軍用缶詰の大増産が行なわれた。
 「西欧列強なにするものぞ!」という時代の空気と、実際に国際連盟を脱退して昭和の15年戦争へ突き進んだ威勢は、どこか現在の国策捕鯨を取り巻くものと通じる。だぶついた“調査捕鯨”の“副産物”を学校や自衛隊の給食にまわそうとすることにも、同じ危うさを感じるのは杞憂だろうか。愛国心を盛り込んだ新しい教育基本法を盾に、「愛国者なら鯨肉を食べろ」と強制される日がこないともかぎらない。

あなたはそんなにクジラの肉が食べたいですか?(172頁)


これはさすがに著者の冗談だろうが、
冗談に聞こえないところがいまの日本の怖ろしい状況を物語っている。

結局、反捕鯨派に反発する連中の心情というのは、
自分で食べたいわけでもないが、食べるなとも言われたくない、
という子どもじみた反発なのだろう。

「食べるな」と欧米から言われることに対しては強い反発を感じる。だから立場は「反・反捕鯨」=「捕鯨支持」。しかし、自分はとくに食べたいわけではない。食べるとしてもごくたまに、ちょっとあればいい。ときどき懐かしくは思うけれど、なくて困るわけではない。でも、日本のどこかにきっとクジラを食べるのが好きな人たちがいて、そのなかには文化的にクジラがなくてはやっていけない農山漁村の善男善女が含まれ、婚礼の膳や正月料理にクジラがないのはクリスマスにケーキがないこと以上に重大な文化の欠如で、彼らのためにも「捕鯨は必要」(でしょ……)という思考の展開なのだ。(190頁)


それならば、反捕鯨派との間で対話の余地は大いにある。

それより、日本人にはまず何より、
自国政府が行なっている不正を批判する責任があるはずだろう。

と同時に、自分たちの捕鯨賛成論に誠実な反省を加えることであろう。

……汚染の少ない鯨肉ほしさに“調査捕鯨”を隠れ蓑にした南極海の密猟を公然と行なっている……。(194頁)


政府のつく「嘘」を批判する責任は、まずその国の国民にあるはずだろう。

以上のように、著者は日本の捕鯨に強く反対している。

だが、著者は、クジラの肉を一切口にするべきではない、とは言っていない。

本当の意味で伝統文化に根ざした持続可能な捕鯨をめざすのなら、まず何よりも日本の海の健康を取りもどすことに全力を注ぐべきだろう。海そのものや河川水系に流れ込む有害物質を限りなくゼロに近づけていくことに、もっともっと真剣に取り組むべきだろう。(204頁)


なるほど。

捕鯨の問題は、環境問題でもあるのだから。

そのうえで将来、近海にクジラたちがもどってきたら、伝統的かつ限定的な沿岸捕鯨を見直せばいい。もともと鯨肉の国内需要はさほど大きいわけではないのだから、慎ましい沿岸捕鯨と「寄り鯨」とで十分まかなえる。(204頁)


ごく理性的な判断と言ってよいだろう。

日本政府は、太平洋やカリプ海の島興園、アフリカ諸国などにIWC加盟や捕鯨問題での日本支持を持ちかける際、かならず安保理常任理事国入りの支持もセットで“ご相談”しているようだが、客観的に見れば品のない下策だろう。(208頁)


品がないどころか、これは税金の無駄遣いにほかならない。

反・反捕鯨派がぎゃあぎゃあ騒ぐおかげで、
捕鯨推進団体には多額の税金が毎年じゃぶじゃぶとつぎ込まれつづける。

その裏で天下りした元役人たちは、ほくそ笑んでいるにちがいない。

……2006年にカリブ海の小国セントクリストアファー・ネーヴィスで開かれたIWC総会で日本の立場を支持した33カ国のうち22カ国が、1994年以来、総額564億円もの「水産無償資金協力」を受けていたことがグリーンピース・ジャパンの調査で明らかになった……。アフリカ諸国では会議に参加した11カ国中9カ国、太平洋諸国では6カ国中5カ国、そして中南米諸国では8カ国中8カ国が資金を受け取っている。しかも33カ国のうち、国民が商業捕鯨に賛成しているかどうかの世論調査データが存在する国は11カ国で、日本とグレナダを除いた9カ国では商業捕鯨に反対が多数を占める。……やはり金で買ったものといわれてもしかたがない。(209頁)


このような行為を繰り返してきた日本政府を、
国際社会のいったいどこの誰が信用してくれるというのだろうか?

それでもあなたは日本政府を支持するだろうか?

それでも日本の捕鯨に賛成できるひとはいるのだろうか?

以上で本書の紹介を終えたい。











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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ご無沙汰をしております、船頭です(o^-')b
今回の記事は、読みごたえがありました!
自分の無知も思い知りましたし・・・
日本人も大多数は鯨の肉を食べなくても困らないようですし、財政の厳しい状況の為に、いっその事捕鯨をスパッとやめてしまえばよいかと思いました。
そうすれば、どれだけの生活困窮者が救える事でしょう。
あのロシアだって、経済不安に陥った時に軍事費をスパッと切ったのに・・・
船頭
2010/03/06 01:38
◆船頭さま

お久しぶりです。

そうですか、どうもありがとうございます。参考にしていただけたようで、何よりです。はじめて知ることもあったでしょう。ここでも「ナショナリズムは危険だ」という教訓をあらためて噛みしめておきたいところです。

早く日本人の多くが問題の本質を見極められるようになってほしいと願うばかりです。船頭さんのまわりにも単純な「反・反捕鯨派」がいるでしょうから、そうしたひとたちに手厳しい批判を加えていっていただきたいと思います。
影丸
2010/03/11 03:46

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星川淳『なぜ日本は世界で一番クジラを殺すのか』(幻冬舎新書)C フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
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