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zoom RSS 斎藤貴男『安心のファシズム』(岩波新書)A

<<   作成日時 : 2010/02/09 11:56   >>

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大嫌いだったひとにいつの間にか自分が似てしまう。

そんなことが、じつはわたしたちの身の周りでよく起きている。

北朝鮮や中国が大嫌いだというひとは、
じつは北朝鮮や中国のような政治体制を日本で実現しようとしているひとたちだ。

これは紛れもない事実である。

アメリカ政府はテロリストと戦うと宣言しているが、
アメリカこそ世界中でテロを繰り返すテロの常習犯である。

「欧米が日本の捕鯨を非難するのは人種差別だ!」とわめき散らすひとは、
じつは「人種差別主義者」である。

さて、いまやケータイ電話は持っていて当たり前の時代である。

そんなケータイ電話も、以前はずいぶんと嫌われていたアイテムだった。

〈……ある女性雑誌は、「こんな男は大嫌い!」を特集する中で、「携帯デンワを持っている男」を巻頭ページにかかげるほどだ。「ほんとは全然、忙しくないもんだから、持っていても鳴る気配がない。自分でかけるだけでしかもたいした用事じゃないの。“ゴクロウさん”って感じよね」。隣のカットには、「ヒマさえあればケータイデンワで「なんかデンワ入ってない」と聞いている」とまで書かれている(クリーク 1991年5月20日号)。かたや若者向け雑誌も、中年男性をターゲットに非難する。「誰もが心の中で思っていること。携帯電話・ポケベル野郎は“社会迷惑”だ!」。小見出しには、「携帯電話野郎はハズカシイ! 情けない! ポケベルオヤジが進化して」と、ダメ押しが並ぶ(週刊プレイボーイ 1991年7月31日号)。ただし怒っている割には結びがわびしく、「見かけたら、ぜひ指さして“ダッセー!”のサインを送ってあげよう!」。本当は欲しくてたまらないといったところだろう。〉(61頁)


研究者・川浦康至の論文からの孫引きだが、
斎藤貴男はこのような論文まで読んでいるのかと思うと感心する。

この記事を書いたひとは、いまは間違いなくケータイ電話を持っていると思う。

「ダッセー!!」のサインをこの記者に送って差し上げたい思いである。

「携帯電話野郎」にこれほどの反発を見せていたひとは、
じつは「携帯電話」がほしくてたまらなかったのである。

つまりは嫉妬、である。

そしていまでは、ほとんどのひとがケータイを持ち歩いている。

電車のなかでは、ケータイ画面を直視しているひとだらけ。

テレビCMなどでしきりに繰り返される「つながってるネ♡」のメッセージは、若者たちの寂しさ、孤独感に訴えかけていると同時に、ケータイとは個人が国家やNTTと直接結ばれる、比喩でも制度上のイメージでもなく、電気通信の最新テクノロジーによって、文字通りの管理下に置かれるのだという現実を、図らずも物語っている。(68頁)


こうしてひとびとは見事に家畜化されていく。

……GPSが一般的になれば、「ワイヤレスCRM」と呼ばれるマーケティング手法が、この国の社会を席巻することになるだろう。CRMとはカスタマ・リレーションシップ・マネジメントの略で、「顧客に関する情報を一括して管理し、それを解析することによって個別的なアプローチを行い、長期的視点から良好な関係を築くことを目指す経営手法」……のことである。具体的には年齢や性別、職歴、学歴、収入、家族や友人関係などの属性と、購買歴や趣味、嗜好傾向、購買後のクレーム等の消費行動についての情報を管理して、顧客1人ひとりの特徴に合わせて商品やサービスを提案するのだ。(75頁)


家畜化されたひとびとは、権力や権威に従順になる。

だから彼らは、権力や権威に服従しないひとたちに不安を覚える。

「自己責任論」を振りまわすひとたちは、だから「家畜」なのである。

国家の家畜、「国家畜」。

権力や権威に従順なひとびとが増えたことによって、
日本社会は着々とファッショ化している。

野田教授〔関西学院大学教授(精神病理学)〕は幾多の実例を見てきた。日の丸・君が代の強制に異論を唱える教師に、校長がたとえば、次のように伝えていたケースがあった。
「担任のあなたが国歌斉唱の際に不起立だと、学校に傷がつく。父母からもすでにクレームが来ています」
「あなたのために他の先生方も損害を被る。あなたは責任が取れますか。学校全体の信用失墜をあなた1人で回復できるのですか。お願いですから起立してください」
脅しと泣き落としのコンビネーション。同僚への迷惑を強調するのがミソである。
校長によっては、こんな話術を駆使する者も。特に男性教師に対して、
「女房、子どもを泣かせるな。男なら男らしくしろ。苦しいのはお前だけじゃない、みんな辛いんだ」
「俺も辛いが、この社会で生きていくためには適応するしかない。だから、お前も耐えろ」(99頁)


日本のファッショ化は、こうして進行していく。

権力が「上から」が露骨に特定の価値を強制してくるというより、
「ひとりだけ目立ったことをするな」と言ってじわじわと従わせていくのである。

日の丸・君が代の強制はこうして見事に実行されていく。

この校長には、自分が重大な人権侵害をしている自覚がまったくないだろう。

ただ周りに合わせようとしているだけ。

そして誰も責任をとろうとしない。

無責任な連中がファッショ化を進めていく。

戦前とまったく同じである。

日本人は何も反省してなどいない。

ファッショ化に知識人が大きく関わってきたことは、絶対に見逃してはいけない。

遠山敦子文部科学相が「新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」中央教育審議会(会長=鳥居泰彦・前慶應義塾塾長)に諮問したのは、2001年11月……。(101頁)


「新しい時代にふさわしい」というが、
その中身は復古的でお粗末なものであった。

……2004年6月、長崎県佐世保市の公立小学校で、小学6年生の女児が同級生の女児にカッターナイフで切りつけられ、死亡する事件が発生した。直後に同市内で講演した自民党の安倍晋三幹事長は、痛ましすぎる惨劇さえ利用した。「大切なのは教育。子どもたちに命の大切さを教え、私たちが生まれたこの国、この郷土の素晴らしさを教えていくことが大切だ」と述べて、だからこそ教育基本法改正が必要だと強調したのである。(106頁)


バカではなかろうか?

旧教育基本法のせいで子どもが殺人に走ったのか?

ここまで国家権力が戦前の価値に復帰してきたのに、
日本人の多くは抵抗しなかった。

その背景には、すでに多くの日本人が「家畜化」されてきたことが挙げられる。

それには意外なことに税制が大きく関わっていた。

1947年の所得税法改正以来続けられている、源泉徴収と年末調整という2つの制度の組み合わせによる、日本独自の所得税徴収システムのことだ。
サラリーマン(給与所得者)の給与は、概算された所得税額があらかじめ天引き(源泉徴収)された上で支払われている。年度末には確定した税額との過不足分が精算されることになるのだが、年収2000万円以下のサラリーマンは、支払った医療費が高額だったり、住宅を取得したりといった格別な事情がない限り、税務署に対して自ら確定申告を行う権利を許されていない。(107頁)


この所得税徴収システムは、どこから来たものなのだろうか?

源泉徴収も年末調整もいずれも、ナチス・ドイツの方法論を真似たものだったと言われる……。(108頁)


なるほど。

では、諸外国ではどうなっているのだろうか?

 アメリカをはじめ、大方の先進諸国には、源泉徴収はあっても年末調整はない。……
 個人として納税することの意味を深く考えることのない、考えさせてもらえない戦後のサラリーマン税制は、自立心や独立心を欠き、一方で協調性や長いものに巻かれろ式の服従性には富んだ、大勢順応型の“会社人間”を大量に生み出してきた。(108−109頁)


こうして権威や権力に黙々と従う家畜が大量に生産された。

群れから離れようとするものは、「防犯カメラ」で監視される。

多くの場合、警察の用語に倣って、“防犯カメラ”の名称が用いられるのが常である。目的の一部だけを抽出するよりは、機能の全体を表現した“監視カメラ”の方が中立的だと思われる……。(121頁)


おっしゃるとおり。

言い直そう。

家畜の群れの秩序を乱すものは「監視カメラ」でチェックされる。

では、この家畜監視システムを進めてきたひとに、
どのような人物がいるのだろうか?

たとえば、杉並区監視カメラ専門家会議のメンバーには、
元最高裁裁判官まで入っていた。

 なお三好委員は最高裁長官時代に米軍用地の強制使用をめぐる憲法訴訟の裁判長として国側を勝たせ、退官後は元号法制化や新憲法の提唱などを進めてきた国民運動ネットワーク「日本会議」の会長に就任したことで知られる。(143頁)


安全や安心を確保するには、なるほど、家畜から自由を奪ってしまえばよい。

話は簡単だ。

ここで著者は、ザミャーチンの小説『われら』から、ある一節を引用する。

〈   飛行機の速度=0
 なら、飛行機は動かない。
    人間の自由=0
 なら、人間は罪を犯さない。それは明白である。人間を犯罪から救いだす唯一の手段は、人間を自由から救い出してやることでる。〉(川端香男里訳、岩波文庫、1992年)(156頁)


こういう社会はどのような社会なのだろうか?

もちろんこうした社会には名前がある。

それをわたしたちはふつう「ファシズム」と呼ぶ。










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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「国家畜」がいいですね。
山路 独
2010/02/11 06:19
◆山路独さま

お久しぶりです。コメントありがとうございます。

あら、気に入ってくださいました? 「社畜」という言葉はすでに知られていますが、「国家畜」も広まっていくといいなあ、と思いまして。
影丸
2010/02/14 12:51

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