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zoom RSS 野矢茂樹『新版・論理トレーニング』(産業図書)

<<   作成日時 : 2010/01/26 09:54   >>

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わたしたちは深刻な状況に直面している。

深刻な状況とは、右傾化と学力低下である。

歴史修正主義者の支離滅裂さ。

ネット右翼や自称愛国主義者の傲慢さと幼稚さ。

右傾化と学力低下にみまわれた日本は危機的な状況にあると言ってよい。

そんな基礎学力の低い右派の方々におすすめの本である。

この本を読んで論理の基本を身につけていただきたい。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


本書には、いくつもの例題・練習問題・演習問題が掲載されている。

そのうちから、分かりやすいものを取り上げてみよう。

問題のあとに解答を示すので、解答をすぐに見たくないひとは、
当ページをスクロールせず、しばらくご自分で考えてみていただきたい。

【問】 次の導出に対して、複数の観点から、反論を試みよ。

 日本人は働きすぎだ。というのも、欧米と比較してみると、われわれの労働時間の方がずっと長いからだ。
(68頁)


え? こんな単純な文章に反論できるの?

そう思ってしまったひともいるかもしれない。

だが、この文章はよく見ると論理性に欠けている。

野矢先生の解答を見てみよう。

【解答例】
 欧米と比較して日本人の労働時間の方がずっと長いとしても、日本人が働きすぎだということにはならないかもしれない。それは、次のようなことも可能性として考えられるからである。

@ 欧米の労働時間が少なすぎるのかもしれない。
A 労働時間が長くても労働の負担は軽いかもしれない。

それゆえ、欧米以外の国との比較も行なうべきであるし、また、労働内容も調べるべきである。
(182頁)


ここで「ほら、日本人はちっとも働きすぎじゃないんだよ」と早とちりする
新自由主義者や企業経営者が出てくるかもしれない。

しかし、論理の欠落は、事実の否定を意味しているわけではない。

つまり、上の文章に論理的欠陥があるとしても、
だからといってただちに「日本人は働きすぎではない」
という企業経営者に都合のよい結論が導き出せるなるわけではない。

あくまで、上の文章には論理上の穴がある、というだけである。

くれぐれもご注意を。

こういうふうにていねいに説明しないと、
すぐネット右翼のみなさんは我を忘れて興奮なさるから、困る。

さて、では次の問題に移ろう。

【問】 次のBの主張がAの主張に対して両立可能であるか両立不可能であるかを、その理由を説明しつつ、答えよ。

 A「あのパーティーで全員に名刺を配ってた人がいたって。」
 B「そのパーティーには出ていたけど、ぼくは誰からも名刺をもらわなかったぞ。」
(114頁)


これはどうだろうか?

ちっともむずかしい問題ではないので、すぐに答えが出たひともいるだろう。

この問題の解答はあえて載せないことにする。

次は、少々高度な問題である。

【問】 批判Bが立論Aの論証に対する批判として不適切である点を指摘せよ。

 立論A「高校においていっさいの校則を設けず、高校生を自由放任にすることは、むしろ教育の放棄でしかない。高校はたんに勉強だけを教えるところではないはずであるから、その生活態度に関しても、校則という形で教えるべきことを教えなければならない。」

 批判B「いまの校則には実に下らないものがある。髪が肩にかかってはいけないとか、あるいは、ソックスは白で三つ折りにしなければいけないという校則があるかと思えば、ソックスは折ってはいけないという校則があったりする。いったい、そんな校則が教育であるとはとても考えられない。」
(158頁)


いかがだろうか?

Bのような言い方はよく世の中で見られるものなのではないか?

テレビにご出演のコメンテーター諸氏を見ていると、
このテのレベルの主張を得意げに述べておられるだろう。

けれども、この批判Bは論理的なものとは到底言えない。

じつは批判Bは「異論」にさえなっていない、と野矢先生は断定する。

野矢先生の解答を見てみよう。

【解答例】
 校則という形での規制の是非が問題であるのに、下らない校則があることを指摘したのでは批判にならない。たんに校則をよいものにしようとか、よい校則もある、と答えられるだけである。
(200頁)


立論Aは、いっさいの校則を設けないことがよいことなのか? と問うている。

しかし批判Bは、こんなにひどい校則が存在している、と指摘するにとどまっている。

これでは批判になっていない。

「日本は戦争責任を果たすべきではないか?」と問う意見に対して、
「ひどいことをしたのは日本だけでない」と右派がご立腹されるのも、
到底論理的なご意見ではなく、批判にさえなっていないということが、
ここからも十分にお分かりいただけると思う。

次は、よくあるミスコン批判である。

【問】 批判Bが立論Aの論証に対する批判として不適切である点を指摘せよ。

 立論A「美人コンテストとは女性の外見に序列を与え、さらにはそれを商品化さえするものにほかならない。しかもそれはしばしば男性の観点から女性を選別する品評会となっている。このような女性差別を助長するコンテストは廃止すべきである。」

 批判B「女性差別が美人コンテストを生み出すというのはナンセンスである。たとえば江戸時代には美人コンテストなどはなかった。しかし、その男尊女卑意識は言うまでもなく現代よりもはるかに強かったのである。」
(158−159頁)


批判Bは、ちょっと気をきかせた批判に見えるかもしれない。

納得してしまったひともいるかもしれない。

だが、やはりこれも批判になっていない。

では、この批判Bの欠陥はどこにあるのだろうか?

「現代が問題にされているのに、江戸時代を持ち出すのがおかしい」(?)

いや、そうではない。

もっと別のところに明確な論証の欠陥がある、と野矢先生はおっしゃる。

【解答例】
 美人コンテストは女性差別を助長すると主張しているのであって、女性差別が美人コンテストを生むとは言っていない。それゆえ、江戸時代には女性差別があったが美人コンテストはなかったと言われても、もし美人コンテストがあったらもっと女性差別はひどくなっただろう、と答えられるだけである。
(200頁)


おっしゃるとおり。

差別やナショナリズムに絡む言説には、
批判になっていない批判がしばしば見られるので、
わたしたちは没論理の穴に落ちてしまわぬように気をつけよう。

では、次の問題へ。

【問】 次の立論に対して批判せよ。ただし、批判する箇所を、引用ないし手短かにまとめる形で提示した上で、批判を述べること。

 「セクハラ」が騒がれ、さらにはそれが訴訟沙汰になっているが、レイプのような厳然たる事実が示される場合と異なり、セクハラを法的に規制するというのは理解できない。というのも、ある言葉や行為が相手にどのような感情をもたらすかはまったく主観的なことがらだからである。親愛の情をこめたちょっとした冗談やふるまいが、セクハラとして騒がれる。その多くの場合に、騒がれた本人にはけっして嫌がらせの意識はなく、ただ当惑するだけである。そもそもどのような言葉も相手を傷つける可能性をもつ。「元気がないね、どうしたの」と声をかけても、相手と場合によっては不快感をもよおさせるかもしれない。それを法的に規制するというのは、一種の言葉狩りであると言えるだろう。
(159頁)


これもよく巷で聞かれるご意見である。

とくに素朴な脳みそをお持ちの男性諸君から聞かれることが多い。

これは、
「日本はいつまでアジア諸国に謝罪しなければならないのだ」
といった右派によく見られる「居直り」にとても似ている気がしないだろうか?

ともかく、上の主張も論理性を著しく欠いている。

解答例を見てみよう。

【解答例】
 「言葉や行為が相手にどのような感情をもたらすかはまったく主観的」と言われる。しかし、主観的だからといってそれが許されるということになるわけではない。主観的という意味では、恐喝を恐れるかどうかや名誉毀損などもある程度主観的であると言える。
 「本人にはけっして嫌がらせの意識はない」という点も問題にされているが、本人にその意識がなかったとしても、結果に対して責任をとらねばならない場合もある。過失致死などは、本人には殺人の意図はなかったのだが、罰を受けねばならない場合である。
 セクハラを法的に規制することが言葉狩りであるとして、そこからセクハラを法的に規制すべきではないという結論を出そうとしているが、ある種の言葉を公的な場所で控えるよう規制することが必要になる場合もあるだろう。少なくとも、すべての規制をよくないものと結論するにはなお議論が必要である。
(200頁)


若者諸君は、中高年から理不尽な非難を受けることがあるだろう。

あるいは、友だちとの間で論争になることもあるだろう。

そうしたとき、このような緻密な論理を身につけておけば、
多くの論敵を論破し論難することができるようになる。

本書では、実際に出版されている本のなかから文章を取り上げ、
それらの豊富な実例を使って、
それらがいかに論理的にみておかしいかを解説している。

取り上げられた本の著者にとっては、はなはだおもしろくない話であろう。

そこがまたこの本のおもしろいところである。

本書では、「論文の書き方」についても解説されている。

世のなかには、驚くほどの「論文の書き方」に関する誤解が広まっている。

後日、この問題も取り上げたいと思う。










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