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zoom RSS 島崎藤村『破戒』(新潮文庫)

<<   作成日時 : 2009/12/15 13:17   >>

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どんな批判があるにせよ、こういう古典文学は必読だろう。

主人公の瀬川丑松は、自分が被差別部落出身であることを隠していた。

父親の「隠せ」という教えを守っていたのである。

しかし、彼の出自に周囲は疑惑の目を向けはじめる。

丑松は何気ない会話の端々にも神経を尖らせるようになる。

「瀬川君、何を君は御読みですか」
 と唐突(だしぬけ)に背後(うしろ)から声を掛けた人がある。思わず丑松は顔色を変えた。見れば校長で、何か穿鑿(さぐり)を入れるような目付して、何時の間にか腰掛のところへ来て佇立(たたず)んでいた。
「今――新聞を読んでいたところです」と丑松は何気ない様子を取装(とりつくろ)って言った。
「新聞を?」と校長は不思議そうに丑松の顔を眺めて、「へえ、何か面白い記事でも有りますかね」
「ナニ、何でも無いんです」
 暫時(しばらく)二人は無言であった。校長は窓の方へ行って、玻璃(ガラス)越しに空の模様を覗いて見て、
「瀬川君、どうでしょう、この御天気は」
「そうですなあ――」
 こういう言葉を取交しながら、二人はいっしょに講堂を出た。並んで階段を下りる間にも、何となく丑松は胸騒ぎがして、言うに言われぬ不快な心地(こころもち)に成るのであった。
 邪推かは知らないが、どうもこの校長の態度(しむけ)が変った。妙に冷淡(しらじら)しく成った。いや、冷淡しいばかりでは無い、可厭(いや)に神経質な鼻でもって、自分の隠している秘密を嗅ぐかのようにも感ぜらるる。「や?」と猜疑(うたぐり)深い心で先方の様子を推量して見ると、さあ、丑松はこの校長と一緒に並んで歩くことすら堪え難い。どうかすると階段を下りる拍子に、二人の肩と肩とが触合(すれあ)うこともある。冷たい戦慄(みぶるい)は丑松の身体を通して流れ下るのであった。(245−246頁)


主人公が闘っていた相手は「世間」である。

他愛のない会話のなかで差別と偏見に栄養を与えている「世間」である。

この腐りきった日本人の「世間」は、いまも差別を再生産している。







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