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zoom RSS 野中広務・辛淑玉『差別と日本人』(角川oneテーマ21)

<<   作成日時 : 2009/12/14 10:13   >>

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インドの悪名高い身分制度に「カースト制」がある。

誰もがこれを理不尽で許しがたい差別であると非難するだろう。

「差別はよくない」と誰もがいうだろう。

しかし、カースト制に反対してみせる日本人は、「部落差別」をしつづけている。

実際、国連からは「部落差別はカースト制度」と指摘されているのに、
多くの日本人はいまだに身分差別を密かに温存させている。

たとえば、興信所を利用して結婚相手の身元を調査するといったことは、
いまでも行なわれていることだろう。

わたしたちの身のまわりで。

吐き気のする行為である。

結婚相手の「家柄」を気にしたり調査したりするのは、
まさに「カースト制」を支える差別的精神にほかならない。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


野中広務は、引退した元自民党国会議員である。

彼は、被差別部落出身であることをカミングアウトしている。

辛淑玉は、在日コリアンであり女性である。

この本は両者の対談である。

わたしは政治家としての野中広務に対して厳しい批判を持っているが、
この本は多くのひとに読んでもらいたいものである。

「日本はすばらしい国だ」「日本人はすばらしい」などと、
日ごろからバカ丸出しで言いふらしている右翼気取りのひとたちは、
この本を読んで日本のどこがすばらしいのかを言ってみていただきたい。

言えるものならば。

本書には部落差別や朝鮮人差別についての簡単な解説も載っているので、
初心者にとっても接しやすい本になっていると思う。

野中の経歴、彼の体験してきた出来事もつづられている。

野中のライバルである部落解放同盟の小森龍邦の言葉が最後に登場する。

これは辛淑玉による熟考された構成であるように推測されるが、
実際はどうなのだろうか?

野中は19歳まで兵隊に行き、
20歳になって大阪の吹田にあった鉄道教習所に就職した。

そこで順調に出世していったのだが、
ある日偶然次のやりとりを耳にしてしまったという。

野中 ……会議室のところで僕よりも給料もポストも下の先輩が、僕の昇級に不満を持っているのか、こう言った。「なんであいつだけ特待生みたいに昇級するんだ」って。塀ひとつ隔てた部屋に僕がいることは、その先輩は気づいていない。するとその先輩に地元の後輩がこう言うわけ。
「野中さんは大阪におったら飛ぶ鳥落とす勢いだけど、地元に帰ったら部落の人だ」(66頁)


この後輩というのは、野中が親切に面倒をみてきたひとだったそうだ。

その後輩に裏切られたわけだ。

このとき野中は、4日間苦しみもだえ七転八倒したという。

野中は2人の子どもを亡くしている。

長男が病院に運ばれたとき、
医者から「もうこれ以上無理ですから楽にしてあげましょうか」と言われた。

野中 ……あとになって、「楽にしてあげましょうか」というのは「死なせてあげましょうか」という意味だったのかと思って愕然とした。そんなふうには思わなかったから。
辛 思わなかった?
野中 そう。それがずうっと後悔として残っている。実は、僕は臓器移植法案の発起人になっていたんだけれども、採決の4、5日前から、死んだ長男が毎晩出てくるんですよ。(77頁)


勉強不足のくせに野中は臓器移植法案の発起人になっていた。

野中は鉄道教習所を辞めたあと、地元に帰って政治家になる決意をする。

辛 ……私は講演とかで日本全国を回るんだけども、部落があって、しっかりとした解放教育があって、運動もちゃんと行われているところの在日の子どもと、そうでないところの在日の子どもは全然違う。(84頁)


差別との戦いは人間解放のための戦いである。

辛 阪神淡路大震災の時、……「朝鮮人の密集地」と、「被差別部落」の指定を拒んだ地域、そうした、改善が遅れた地域が壊滅的な状態になっているということでした。
 ……震災の時の在日の死亡率は日本人の1.35倍以上。(106頁)


阪神淡路大震災のときに要職に就いていた野中は、
そのときのことをこう述懐している。

野中 「関東大震災の二の舞は絶対にしてはいけない」。これは当時、警察庁長官だった國松孝次(くにまつたかじ)さんが、最初に兵庫県警に徹底して言うたこと。彼は兵庫県警本部長をしておったので、兵庫のことと、長田のことも一番よく知ってる。(110頁)


最近、またとんでもない本が出版されていることを知った。

関東大震災のとき、
在日韓国・朝鮮人が虐殺されたことはよく知られている史実だが、
この事実をも捻じ曲げようとする本が出版されているのである。

歴史修正主義者の低脳もここまでくると、犯罪であろう。

さて、そんな野中広務だが、
オウム真理教に破壊活動防止法(破防法)適用を村山首相に進言したのは、
野中自身だったと証言している。

 オウム真理教関係者によるさまざまな犯罪が明るみに出ると同時に、インターネットでは、教祖である麻原彰晃は「部落民だ」「朝鮮人だ」という言説がまことしやかに流れた。これは、何もオウム関連の事件に限ったことではない。凶悪犯罪が起きる度に、都市伝説のように流される。これは、マスコミが「犯人は外国人風」と報道するのと同じである。外国人とは一体何をさすのか。国籍なのか、肌の色なのか、言語なのか。私は“外国人風”に見えるだろうか。つまり、「日本人」以外の者がやったと言いたいのだ。日本人はいつも善良で、被害者だと思いたいのだ。そして、彼らが言う「日本人」には、部落民も、日本国籍を取得した人も、アイヌも、ウチナンチュも、ハンディのある人も、セクシュアル・マイノリティも入っていない。
 どこまでも徹底して自分たちと他者とを分け、そして、あらゆる問題について、自分たちの社会の問題だということから逃げようとする。そのいけにえとしての部落民であり、朝鮮人なのだ。
(114−115頁)


いまでもそうだ。

大きな事件が起きると、
その容疑者は「在日朝鮮人だ」「部落民だ」という破廉恥なデマが、
ネット上の掲示板にいくつも書きなぐられる。

このことが日本人の救いがたい腐敗を何より如実に示している。

野中は、戦後補償にも大きく関わってきた。

だが、あの「アジア女性基金」をつくったのも野中だった。

また、戦傷者に対する補償もさらに必要だと野中は考えたが、
在日コリアンたちの存在はそこから見事に切り捨てられていく。

辛 在日の石成基(ソクソンギ)さんなどは、もし日本人だったら生涯で8000万円くらいの軍人恩給がつく障害になっていたのに、結局それもなく死んでいったんですよね。
 私、こういう言い方をするとすごくきついかもしれないけども、日本の遺族会っていうのはなんて卑怯なんだろうって思うのね。つまり日本人さえよければいい。「日鮮同盟」とか調子のいいことを言って朝鮮人を引っ張り込んでおきながら、いざ補償する段になったら朝鮮人を全部切ったわけですよね。もちろん台湾人も切った。そのまま亡くなってった先輩たちがいた。(117−118頁)


石成基さんというのはどういう人物なのかは、
本書を直接読んでいただきたい。

国旗国歌法の成立でも、野中は中心的な役割を果たした。

次に、1998年に自殺した新井将敬のことに話が及ぶ。

ここであの差別の権化・石原慎太郎が出てくる。

辛 そうそう、新井将敬のポスター3000枚に、真っ黒いシールで「北朝鮮から帰化」と書かれたものを貼った。同じ選挙区だったので脅威に感じたのでしょう。すさまじいまでの差別事件でした。確か、彼の秘書が捕まったけど、その後も石原さんは、日本人の血ではないものが国政に関わっていいのか、と執拗に言い続けていた。(130頁)


この事件は有名だと思うが、知らないひとのために解説を。

新井将敬(元衆議院議員) 1948(昭和23)年大阪市生まれ、16歳のときに日本国籍を取得。1983年の衆議院議員総選挙に東京2区から初出馬するも落選。この選挙で対立候補であった石原慎太郎陣営から新井の出自を誹謗する黒シールを選挙ポスターに貼られるという事件が起こり、石原を告訴している……。
石原は当初は「秘書が勝手にやった」と発言していたが、民族的出自を誹謗したことに関しては「選挙民は立候補した人のパーソナルヒストリーを知る権利がある」として恥じることがなかった。
(133頁)


野中は、日本のため、アジアのために尽力したつもりでいるらしい。

しかし、わたしたちはそう考えていないし、
アジア諸国のひとびともそう考えてはいない。

辛 ……今はおとなしくしていても、日本がいつ暴走するかわからないという、ある種の恐怖感は確かにあるわけですね。(142頁)


すでに暴走しはじめている、と言った方が正確だろう。

野中 ……劣化ウラン弾の件。アメリカが劣化ウラン弾を訓練で使った後、射爆場にしている鳥島に全部放っておいたんですね。
 ……
 およそ1500発。そこに米軍政府から1年後日本に通知があった。(143頁)


そして、最近の辺野古をめぐる問題だ。

何と日本政府は、反対住民に対して自衛隊を差し向けたのである。

辛 ……2007年の5月、自衛隊の掃海母艦「ぶんご」をそこに突きつけたでしょ。
……
……自衛隊を市民運動に対して持っていくという発想が、私にはもう一線を越えていると思ったのね。(145−146頁)


これに対して野中は、
「ああ、そりゃそうだね。でも知らないんだ」という簡単な返事で済ませている。

 2007年5月17日夜から18日未明にかけ、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」が辺野古沖に姿を現した。海底への調査機器設置作業を「支援」するという名目で、政府が艦砲を装備した自衛艦を沖縄へ派遣したのだ。(146頁)


米軍普天間基地の移設問題についても言わねばならぬことがあるが、
こうした米軍や自衛隊の行為を何ひとつ批判しようとしない日本の「右派」とは、
いったい何なのだろうか?

次に、あの麻生太郎のことにも話が及ぶ。

当ブログ「フォーラム自由幻想」にも、
麻生太郎の支持者と思しきひとがコメントを書いてきたことがあったが、
麻生太郎も石原慎太郎と同様の差別主義者であることはよく知られている。

1945年までに麻生系の炭鉱に連行された朝鮮人は1万人を超える(厚生省勤労局「朝鮮人労務者に関する調査」福岡分統計)。賠償は今に至るまで行われておらず、遺骨さえまだ遺族の元に戻っていない。また、麻生炭鉱は部落民を一般の労働者と分け、部落民専用の長屋に入れて奴隷のように酷使した。
 ……ソウル大学の学生が公式に麻生氏に公開討論会を申し入れたが、彼は一切応えなかったという。
(163頁)


こんな麻生太郎に、
拉致被害者の遺骨を返還せよと北朝鮮政府に要求する資格が、
あるはずもなかろう。

それにしても、韓国の大学生たちの要求から逃げ回る麻生太郎は、
何と卑怯なひとなのだろうか? と思わずにはいられない。

麻生と野中といえば、次の麻生発言エピソードが有名だ。

〈麻生太郎が、3月12日の大勇会の会合で「野中やらAやらBは部落の人間だ。だからあんなのが総理になってどうするんだい。ワッハッハッハ」と笑っていた。……〉(164頁)


野中は事実確認に回ったそうだが、証言者も出てきて、事実だったそうだ。

野中 ……実際そう思っているんでしょ。朝鮮人と部落民を死ぬほどこき使って、金儲けしてきた人間だから。(164−165頁)


麻生太郎を支持してきたひとたちも、だから、卑劣な差別主義者である。

次に、ふたりの話題はオバマ大統領へ。

辛 ……黒人大統領って言われていますが、彼は白人の母親とケニア人(黒人)の父親との間に生まれた子ですよね。ダブル(かつてはハーフと言われた)ですよ。にもかかわらずマスコミがずうっと黒人大統領、黒人大統領って言い続ける。
 たとえば私たちもそうなんですけど、お母さんとお父さん、どちらかだけが朝鮮人でも朝鮮人と言われる。おじいちゃん1人が朝鮮人というだけでも朝鮮人と言われる。つまり、白人とか日本人というのは純血主義で、ちょっとでも「違う血」が入ったら「あっち」なんだみたいな、そういうメディアのいやーな感じがとてもしたんですね。
 それと3つ目は、多くの白人の人たちは、オバマさんのことを怖がっていないということなんですね。なぜなら、彼は傷ついてないから。オバマさんはインドネシアやハワイで育って、アメリカ黒人の歴史的な傷つき方をほとんどしていない。文化的にもない。ダブルだということもあって白人が投票しやすい。もっと言うならば、仕返しされる心配をしなくていい。安心して投票できる人だから大統領になったんだなって気がしたんですね。(176−177頁)


人種差別を支える「純血主義」は、いまも多くのひとびとが信奉している。

在日外国人の参政権問題で反発しているネット右翼が典型だ。

ところで、野中はどのような政治家が嫌いだったのだろうか?

先の麻生太郎はもちろんそのひとりだろうが、ほかに誰がいるのか?

野中 そうそう。そういう連中が、いま若手で何もかもムチャクチャにしてるんですよ、渡辺喜美とか中川昭一とかさ。(184頁)


うん、ここはわたしと意見が一致しそうだ。

政界を引退した野中は、今後どのような活動をしていこうとしているのか?

彼が重要視しているのが、
日本軍が敗戦に伴って中国に未処理のまま遺棄した、
毒ガス砲弾などの化学兵器の問題である。

……最近のより詳細な調査では30万〜40万発と推定される。化学兵器禁止条約の発効により、日本が原則的に2007(平成19)年(最大で5年延長可)までに処理する義務を負った。(186頁)


このような犯罪行為を日本政府がこれまでずっと放置してきたことにも驚く。

現在も被害者を生み続けているこの問題は、
ただちに解決されなければならないだろう。

野中広務は、いまでも家族といっしょに外出することができないという。

孫の学校行事にも参加できないのだそうだ。

野中が被差別部落出身の人間であることは知られており、
彼の孫もひどい差別を受けてきたのだという。







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