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zoom RSS 水野和夫『金融大崩壊』(NHK出版生活人新書)

<<   作成日時 : 2009/08/17 09:00   >>

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1929年の世界大恐慌からちょうど80年目の昨年、2008年。

「リーマン・ショック」を皮切りに、金融大恐慌が世界中に広がった。

金融大恐慌のキッカケは、ネット右翼以外のひとなら誰でも知っていると思う。

そう、サブプライムローン問題である。

米国の住宅バブルが崩壊し、それにつられて証券化商品の価格が暴落。

先進諸国の金融機関に巨額の損失が発生し、信用収縮が起きた。

そこで貸し渋りなどがあちこちで起き、世界的に貿易の減少が進んでいった。

アメリカ国内の景気は急速に減退し、株価は暴落し、世界連鎖不況に陥ったのだ。

この金融危機の原因をつくったのは、アメリカの投資銀行である。

@ ゴールドマン・サックス

A モルガン・スタンレー

B メリルリンチ

C リーマン・ブラザーズ

D ベアー・スターンズ


彼らは、世界に対して何の責任も果たさず、高額な報酬を手に逃亡した。

そして、これらのアメリカの5大投資銀行はすべて市場から消えた。

本書は、このサブプライム問題と構造的問題についてとても分かりやすく解説している。

読んでみて意外だったのは、次のような著名人の名前が出てくることである。

・ イマニュエル・ウォーラーステイン

・ ジャン=フランソワ・リオタール

・ フェルナン・ブローデル

・ スーザン・ストレンジ


ネット右翼の諸君は知らないだろうし読んだこともないだろうが、
いずれも世界の名だたる思想家のひとたちばかりである。

「教養」のあるひとたちならこれらの名前を見て、「お!」と思うにちがいない。

この著者はちゃんと勉強しているひとなのだなあ、と思った。

 著者は、証券会社のエコノミストとして、1980年の入社以来28年間、市場と付き合ってきました。1980年代のレーガノミックス、1995年以降の「強いドルは国益」、そして2007年以降のサブプライムローン問題から世界金融危機と、日本はいずれもアメリカに振り回されてきたというのが実感です。(3頁)


経済の面から見ても、一貫して対米従属政策が行なわれてきた。

言うまでもなく、対米従属をつづけてきたのは、自民党である。

自民党の悪口を言う前に、資本主義の歴史を大雑把にまとめてみよう。

 16世紀に誕生した資本主義では、資本と国家と国民の三者の利害が、根本のところで一致していました。(40頁)


資本・国家・国民の三位一体を経済学では「国民経済」と呼んでいた。

 ところが、サブプライムローン問題は、資本が国家と国民に対して離縁状を叩きつけた象徴的な出来事でした。(41頁)


グローバリゼーションのもと、資本は国境をやすやすと越えていった。

だから、企業が繁栄することが同時に国民生活の向上につながる、
とはもうすでに言えなくなっているのである。

ところが、ナショナリスト・愛国主義者というのは愚かなので、
まだ企業の発展と国民の生活向上は一体であるという幻想にとりつかれている。

だから、不況に苦しむ企業がまずは復興していかないと国民生活も豊かにならない、
という自民党政治家や企業経営者の主張はまったくの「虚偽」である。

わたしたちは「虚偽」に騙されないようにしよう。

資本側がとった行動は、資本と国家と国民の三位一体の関係に亀裂を入れるものでした。(41頁)


この動きを加速させ、正当化したのが、市場原理主義というイデオロギーである。

 市場原理主義に基づいて「市場が決める値段が正しい」ということをつきつめていけば、本当に利潤極大化を実現するには、途中で引き返せない道を歩んでいくしかありません。一瞬でもバブルの領域に入らないと、利潤が極大化したかどうかがわからないのです。
 それはまるで目を閉じて山を登っているようなものです。ここは9合目だと思っていても、そこで引き返してしまったら、本当に9合目だったかどうかがわかりません。ひょっとしたら、引き返した時点は5合目だったかもしれないのです。もしそうなら、残りの半分の利益が得られなかったことになります。したがって、前へ前へと進み、頂上に登り詰めてバブルに一瞬でもタッチし、下り始めるところまでいかないと、利潤が極大だったかどうかが確認できないわけです。(47頁)


アメリカで起きた住宅バブルもこれとまったく同じ構造である。

このバブル発生の経緯を、著者はとても分かりやすく説明してくれる。

たとえば、日本の住宅バブルのことを思い出してみよう。

1980年代半ば、日本ではファミリー向けのマンションがよく売れました。マンションを購入する人の平均的な姿は、4人家族で3ないし4LDK、3000万円弱といった値段で、およそ年収の5倍以内におさまっていました。4人向けマンションの需要が一段落すると、次に30代の3人家族をターゲットにし、面積を狭くして2LDK。しかし、住宅価格は値上がりしているので平均価格は5000万円に近づきました。さらに次は、新婚世帯向けの1LDKで値段を下げて売り出し、そして最後は大学生向けのワンルームです。毎月のローンを支払うのは地方に住んでいる両親でしたから、つまり、すでに一戸建てを持っている人たちが新たな購買層として開拓され、加わったことになります。(48−49頁)


ここで住宅市場は飽和状態になる。

あとは高校生などをターゲットにでもしないと需要の開拓はできない。

こうして90年代になって日本のバブルがはじけたのだった。

その後、高層マンションの開発や「リート」などの新手法も進められたが、
その背後でどす黒い欲望を抱いていたのもやはり「資本」であった。

ちなみに、「リート」(不動産投資信託)については著者はまったく触れていない。

ただし、アメリカの住宅バブルは日本のバブルとは規模がちがった。

アメリカでは、日本とちがって、世界中から資金を集めて投資したからである。

 そこで、高度な金融工学の手法を使い、サブプライムの住宅ローン担保証券を、格付けの異なる住宅ローン担保証券や住宅ローン以外の証券と合わせるなどして、新たな証券をつくることが行われました。……この証券は「債務担保証券(CDO=コラテライズド・デット・オブリゲーション)」と呼ばれます。(52頁)


アメリカでも、富裕層の購買意欲にかげりが見えはじめていた。

そこで、新たなターゲットとして「サブプライム層」にねらいをつけたのである。

ここで著者は、グリーンスパン前FRB議長にも厳しい批判を向けている。

 グリーンスパンでもバブルを止めることはできなかった。彼は「バブルははじけてみないと、バブルだとわからない」と言い、仮にバブルだとわかったとしても、「かなりの景気後退をもたらす政策を容認してくれる有権者は現代の民主主義社会にはいない」と言いきっています。彼はむしろ、バブルを止めなかったからこそ、投資家たちからは神様に祭り上げられた、資本家と一緒に踊ったから資本の神様だったということなのです。(67−68頁)


日本にも、グリーンスパンを神様のように褒め称えていた連中がいたはずだが、
彼らもまったく「おとしまえ」をつけることなく、説明責任も果たさず、姿を消している。

資本・国家・国民の三位一体構造は、もう崩壊した。

これまでの資本主義はもう終わった。

冷戦崩壊後の90年代に資本主義の勝利を謳ったものの、資本主義も自滅した。

そして著者はこうまとめる。

そして、それは中産階級の「夢」の消滅であり、「中産階級」の消滅でもあるのです。(69頁)


では、そもそもアメリカ金融帝国はどのようにしてできたのだろうか?

筆者によると、まず近代的資本主義システムは、1975年に終わったという。

資本主義は市場を海外へと拡大していくことで発展してきた。

この間、市場は拡大していきましたが、73年のベトナム和平のパリ協定、75年のサイゴン陥落で、事実上、世界最強の軍事大国が敗北したことによって、膨張主義による資本拡大の時代は終わっていったのです。いわば、バスコ・ダ・ガマの「インド航路」開拓によって幕を開けた大航海時代からの資本主義が、75年に終わったのです。(78−79頁)


世界の長期金利も、74年をピークに下がりはじめる。

そして、このころから、企業の利潤率も上がらなくなっていくのである。

すると、企業が利潤を最大化しようとすると、実物投資ではなく、
キャピタルゲインで儲ける、つまり金融市場で資産を増やす以外になくなる。

そこで70年代に登場するのが、新自由主義である。

この段階で、保守層はこれ以上低所得層の面倒をみるのは嫌だと言い始めたのです。そのとき使われたのが、「努力すれば報われる」という新自由主義的な考え方です。(77頁)


こうして新自由主義イデオロギーが普及するにともなって、
「自己責任論」がひとびとの心を蝕んでいくことになる。

さらに企業は、労働分配率を下げることにも成功するのである。

実際、日本でも労働分配率は見事に低下している。

つまり、企業の利益の分け前は、労働者には与えないということだ。

利益は、役員と株主でがっぽりと抱え込むことにしたのである。

だが、新自由主義も当初はうまくいかなかった。

アメリカは経常収支の赤字に苦しみつづけ、円高・ドル安がつづいたからである。

アメリカは日米構造協議などを通じて経常収支の改善を図ろうとしたが、
うまくはいかなかった。

そこで登場するのが、1995年に就任したルービン財務長官である。

彼が、アメリカの政策を大きく転換していくことになる。

ルービンは、クリントン政権時の財務長官である。

ここが重要だ。

わたしたちはともすると、アメリカの共和党政権が新自由主義で、
民主党政権はそうではないと思い込んでしまうところがある。

だが、実際はそうではない。

クリントン政権も立派な新自由主義だったのであった。

では、ルービンの何が画期的だったのだろうか?

それは、「強いドルは国益である」と述べたからだ。

 さて、「強いドルは国益である」というルービン財務長官による考え方がインパクトを持ったのは、それまでの経済学の常識に真っ向から反対するものだったからです。(86頁)


通常、経済学の常識では、「経常赤字の増加は成長を妨げる」と考えられてきた。

ところが、ルービンはアメリカの経常収支の赤字を容認したのである。

そこにはどのようなロジックが存在していたのだろうか?

まず、「アメリカのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が強い」ということから出発します。だから外国はドルをほしがる。ドルが強くなって、アメリカは消費大国として世界からどんどん物を安く買うことができ、国民は豊かな生活を享受する。経常赤字以上に資金を外国から流入させれば、今後、発展が期待される新興国に投資ができ、それは将来にわたってリターンを生むだろう。つまり、「ファンダメンタルズが強いから、アメリカは経常赤字になる」というのがアメリカの主張です。まさに、従来の常識を覆したのです。(87頁)


ルービンは、ゴールドマン・サックス出身であり、
いわば投資銀行の考え方をアメリカ政府の方針に変えたのだった。

こうして彼が実行したのは、資本収支の大幅な黒字化であった。

ルービンが世界中の資金がアメリカに集まるような政策を行なった結果、
対米直接投資が急増していくことになった。

新自由主義の全盛の時代を迎えたわけだ。

この事態を著者は、次のように表現している。

そして、犬の尻尾(金融経済)が頭(実物経済)を振り回すことになるのです。(88頁)


それを支えたのは、IT化と時価会計システムである。

日本でも、「金融ビッグバン」と称して簿価会計から時価会計に移行した。

時価会計はそのときの企業の体力がより正確にわかるといわれ、日本も導入することになりましたが、その半面、決算時点での成績に企業経営が振り回され、長期の計画が立てづらくなったり、雇用や設備投資を控えるなどの影響も出てきます。(85頁)


あの「ホリエモン」が「企業の価値は時価総額で決まる」と言っていたのを思い出そう。

こうして企業は株価を上げることに夢中になっていった。

ところで、著者はその物静かな風貌には似合わず、
ここであの竹中平蔵をさり気なくおちょくっている。

そこがおもしろい。

小泉政権は新自由主義を採用していましたが、その中心に立つ竹中平蔵経済財政・金融担当相はマネーサプライを増やせという発言をしています。アメリカがとった新自由主義政策の核心部分、すなわち、貨幣はマネーサプライで増やすのではなくて、金融市場で株式時価総額や証券化商品で増やす時代に入ったのだということが、日本に伝わっていなかったのではないかとさえ思います。
 マネーサプライを増やすために、日銀は99年2月から2000年8月までゼロ金利政策をとり、01年3月から06年3月まで量的金融緩和政策へ移行し、実質的にゼロ金利が続いていきます。そして、それはほとんど効果を上げませんでした。むしろ喜んだのは海外の投資家たちで、日本では金利がゼロで資金を調達できるということで、日本から海外にお金が流れ出ていきます。いわゆる「円キャリートレード」です。このお金がアメリカが金融資産を増やすのに使われました。
 日本のとった政策は「オウンゴール」と呼ぶことができると思います。日本経済が不況を脱して前へ進もうと思って、ボールを蹴り出したつもりが、自陣のゴールにボールを入れてしまい、相手に得点を与えてしまう……。それがゼロ金利政策と量的緩和政策だったのです。(97−99頁)


いかがだろうか?

竹中平蔵は、新自由主義者のくせに、
アメリカの新自由主義が変化していたことを理解できていなかった、というのだ。

さらに著者は厳しい竹中批判をほのめかしているのだが、
興味のあるひとは直接読んでみていただきたい。

著者の言いたいことはこうだ。

「竹中平蔵は日本の金融資産を増やす絶好のチャンスをみすみす逃した愚か者だ」

つまり、竹中平蔵は新自由主義者としても出来がわるい、というわけだ。

著者はさり気なくおもしろいことを言っている。

では、日本経済の生き残る道はどこにあるのだろうか?

そして、日本経済はどのように進んでいくのだろうか?

著者はいくつかの見通しと処方箋を示しているが、
すでに記事も長くなってきたので、いくつかだけ記しておきたい。

 さらに、株主の資本を使ってどれだけ利益が得られたかを示す数値、つまり「株主資本利益率(ROE)」を見てみると、ここ数年、日本は10%程度で、この不況下でさらに下がっています。一方、同時期の欧米は15〜20%程度です。(194頁)


10%では、おそらく投資家は満足してくれない。

優良企業ほど外国の投資家が多いため、欧米に投資すれば得られる15%よりも低いと、株主が逃げ出してしまいかねません。もたもたしていると、M&Aの株主交換で合併・吸収されてしまいます。(194頁)


そこで企業はどうするか?

株主資本利益率を上げるために、人件費をさらに下げる圧力がかかる。

労働分配率を下げて、株主資本利益率を上げていこうとするだろう。

大企業でも人件費のカットが進んでいくだろう。

著者は挙げていないのだが、
安倍政権で実現しようとした「ホワイトカラー・エグゼンプション」が、
おそらく名前を変えて復活するだろう。

右派の諸君もそろそろ勉強して気づくべきだろう。

右翼系政治家は、きみたちの生活のことなど何とも思っていないのである。

彼らが腰を低くして忠実に仕えるのは、アメリカ政府と資本だけである。

国内の格差はますます拡大していくだろう。

そこで、著者はいくつかの提言を示す。

最優先は年金制度改革。

それから、中小企業支援。

メーカーの製品の規格づくり。

アジア各国との関係改善(そのための歴史認識問題の解決)。

円高。

食料自給率の向上。

など。

以上、読んでみるとよく分かるのだが、
本書は、よくある「サブプライム問題」に限定した解説書ではない。

経済構造を見据え、資本主義システムを歴史的視点で捉えている。

その点で、ほかの「サブプライム問題」解説書とは一線を画すものだといってよい。

なかなかおもしろい本であった。









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