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zoom RSS 安田節子『自殺する種子』(平凡社新書)D

<<   作成日時 : 2009/08/02 01:32   >>

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今回が、この本の紹介の最終回である。

「自殺する種子」の開発が象徴的であるが、
先進国の強欲な種子会社の目的は、先端技術による世界の農業の支配だ。

では、具体的にどのような企業が利益を独占しようとしているのだろうか?

 多国籍ケミカルメーカーだったモンサント社、シンジェンタ社、バイエル社、デュポン社等が、いまでは世界の種子産業のトップを占めています。(78頁)


本書に「世界の種子会社トップ10」が掲載されているので紹介したい。

ざっとこんな感じになっている。

【世界種子会社トップ10(2006年)】

1 モンサント社(米国) $4,028
2 デュポン(米国) $2,781
3 シンジェンタ(スイス) $1,743
4 グループ リマグレイン(フランス) $1,035
5 ランド・オ・レイクス(米国) $756
6 KWS AG(ドイツ) $615
7 バイエルクロップサイエンス(ドイツ) $430
8 デルタ&パインランド(米国、のちにモンサント社が買収) $418
9 サカタのタネ(日本) $401
10 DLF-Trifolium(デンマーク) $352

(左は企業名、右は種子売上高〔単位は100万ドル〕、80頁)


ちなみに、先日わたしが観たテレビ番組によると、
日本の企業「サカタのタネ」はGM作物には手を出していない、とのことだった。

 モンサント社はじめこれらの企業がバイオ技術をわがものにして開発した遺伝子組み換え作物は、もっぱら自社の除草剤とセット売りの除草剤耐性作物である理由がここにあります。モンサント社は、自社の除草剤「ラウンドアップ」に耐性を持つGM大豆や菜種などを「ラウンドアップレディ」という名前で商品化。バイエル社は、自社の除草剤「リバティ」(日本での商品名「バスタ」)に耐性を持つ、「リバティリンク」菜種を商品化するという具合です。(79頁)


遺伝子組み換え技術は自社製品の独占販売に使われていることが、よく分かる。

これはまるで、セコムに入らないとセコムから泥棒が派遣される、
といったような、およそ普通では考えられないような暴挙なのではないだろうか。

あるいは、火災保険に入らないと保険会社から放火されるというのと、
ほとんど同じことなのではないか。

なお、モンサント社はGM品種では約90%を支配しています。(80頁)


人間の遺伝子に特許権を設定することが不当であるのと同じように、
自然に特許権を設定して利益の独占を図るのも不当であろう。

もちろん、なかには倫理を失わない研究者もいるという。

 米国の生物学者ヨーナス・ソークは、小児麻痺(ポリオ)予防のためのソークワクチン(不活性ワクチン)を開発しましたが、その製品管理を問われて、「特許はいりません。あなたは太陽に特許を与えることができますか」と答えたそうです。(89頁)


そうだろう。

彼のお蔭で、治療は広がっていくのである。

これこそ、知の公共性である。

93年に発効した「生物多様性条約」では、「生物多様性の保全と自国遺伝資源に関して主権的権利を有すること、その利用から生ずる利益を衡平に分配すること」が規定されました。特許や育種者の権利(植物新品種保護=PVP)等知財強化を推進する先進国からは、反対の声も多く、途上国が強く主張して難航のすえ合意されました。なお、米国はいまだ「生物多様性条約」を批准していません。(89頁)


アメリカ政府の背後には、アグロバイオ企業が控えている。

 現在特許ラッシュになっているのが、気候変動対応遺伝子です。ETCによれば、干ばつ、高温、寒冷、洪水、塩性土壌などの環境ストレスに耐性を持つ遺伝子組み換え作物を商品化するために、種子とアグロケミカルの企業は何百もの植物遺伝子の特許を溜め込んでいます。(113頁)


特許とは、自然の排他的な私有化にほかならない。

これは「海賊行為」に等しい「強盗」である。

「生物的海賊行為」と言われるものがどのように行なわれているのか?

その事例を見てみよう。

バスマティ米
 パキスタンとインドで何百年にもわたって栽培されてきた香りのよい高級米バスマティを、米国のライステック社が本国に持ち帰り、バスマティと半矮性品種を掛け合わせたハイブリッド3品種を作り出して米国特許を取得しました。そしてこの変種を「バスマティ米」として売り出したのです。このことは、輸出用のバスマティ米を耕作する数百万の農家が特許料を支払わなければならなくなったり、種子の保存ができなくなることを意味します。インド政府や世界中から米国政府に抗議が殺到し、特許商標庁は2001年8月、バスマティ米の特許の大半を取り消しました。欧州委員会では、原産地保護名称法のもとに、バスマティ米をその地域の特産物として保護することで合意に至りました。(87頁)


読んでいてもわが目を疑うほどだが、これは実際に起きたことである。

メキシコ黄豆
 メキシコ黄豆(アヤウアスカ)は南米先住民が利用してきた薬効植物です。1994年、米国の種業者POD-NERSがメキシコにて黄豆を購入。……この豆の特許を99年に取得しました。その後、黄豆を米国で販売するメキシコの食品会社2社を、POD-NERSの特許権の侵害に当たると告訴しました。特許取得した黄豆の遺伝子は、既存のさまざまなメキシコ黄豆と同一であることが証明されました。その結果、米国で黄豆を販売することは特許侵害となり、メキシコからの出荷は中断されました。メキシコ農民は得ていた輸出収益の90%を失ったのです。(87−88頁)


これも、信じられない話であるが、事実である。

 この事例は生物的海賊行為の教科書的事件として非難され、2000年にカナダのETCグループが特許を不当なものとして再審査を申し立てました。8年後の08年4月29日、米国特許商標庁は特許請求の範囲内のすべてを拒絶する決定を下しました。(88頁)


これでひとまずメキシコ黄豆の特許を勝手に取得するという暴挙は防げた。

しかし、8年もの間、米国企業は特許で利益を独占してきたし、
その間のメキシコ農民たちの損害は賠償されることもなかったという。

このような「暴挙」を進めてきたのは、WTOのTRIPS協定である。

驚くべきことに、アグロバイオ企業は、イラク戦争も金儲けに利用したという。

どういうことか?

アメリカ軍がイラクを占領したあと、「指令81」なるものが出されたという。

 イラクで「指令81」が発令されたのが、2004年4月26日でした。占領下のイラクで、連合軍暫定当局のブレマー行政長官が発令した100の指令のうち、「指令81」は特許や植物品種保護などに関する指令で、アグロバイオ企業が望んでいる農民の種採りの禁止を、イラクで実現させるものでした。それまでイラク憲法では、生物資源の私的所有は禁止されていました。この指令により、米国が課した新しい特許法による種子の独占的権利システムが、イラクに持ち込まれたのです。(201−202頁)


この話は恥ずかしながらまったく知らなかった。

チェイニー副大統領(当時)がイラク戦争で私腹を肥やしたことは知っていたが、
ここまで露骨にアメリカは行動していたのである。

これを「大強盗」と呼ばずに何と呼ぶべきなのか、わたしは知らない。

このようなことをしていれば、アメリカがテロの標的になるのも当然であろう。

そして、このアメリカの戦争をいち早く支持したのが小泉純一郎だったことも、
わたしたちは忘れるべきではないだろう。

最後に、遺伝子組み換え技術の不気味さを示す事例を挙げたい。

……さらに、イスラエルでは、遺伝子組み換え技術を駆使して、羽のない肉用鶏を作出したそうです。羽をむしる工程が省けるわけですが、肌むき出しの鶏の写真を見たとき、慄然としました。(125頁)


「羽のない肉用鶏」。

技術はここまで来ているのである。

わたしもその写真を見たことがあるが、
羽がまったくなく、真っ赤な肌を露出させた鶏は、未知の生きものだった。

このような技術が人間に応用されない保証はない。

野心的な研究者なら、遺伝子組み換え技術で、
臓器移植用に「脳のない人間」を作り出すことを考えるのではないか。

いや、すでに考えられているのかもしれない。

わたしでさえ考えつくことなのだから、
どこかの研究者がすでに考えついていたとしても不思議ではない。

なぜなら、人間がこれまで家畜に行なってきたことは、
その後、人間にも応用してきたという歴史があるからである。

以上、世界の農業・畜産の現状を見てきた。

これでよく分かったのではないか。

経済は、民間企業の自由競争に任せれば自動的にうまくいく、
という市場主義者たちの「思い込み」は、もうとっくに破綻している。

労働力と自然を徹底的に収奪するのが、資本主義の正体である。

人間と自然をどこまで破壊しても、資本主義は自らの運動を止めることはできない。

止めるのはわたしたち人間である。







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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
 人類を含むすべての生物の生存基盤である地球の一部に囲いをつけて、「ここは俺の物」宣言をするようなカネゴン(金権亡者)達。「どっちが偉い?」と金儲けを競うカネゴン(金権亡者)達は、自分たち以外の物質的・精神的な全ての物を占有対象物とみます。
 彼らは、「どっちが偉い?」的物差し以外、人間を測る物差しがない、自分の利益しか考えない野蛮人なのです。
 世界全体の利益から物事を考えられる私たち文明人が、辛抱強く教育していくしかないのでしょう。
山路 独
2009/08/02 07:40
こんにちは、船頭です(*゚ー゚)v

日本ではまだ、遺伝子組み換え食品に対する抵抗感を持っている人が大多数ですが、アメリカは遺伝子組み換え食品が当たり前なのですね。
以前、テレビのインタビューでアメリカ人が大豆に関しての質問で、有機栽培よりも遺伝子組み換え食品の方が健康にいいような事を言っていたのにはびっくりしました。
そんな価値観が日本にも蔓延しない事を祈るばかりです。

それに、アメリカと付き合いが浅い国ほど豊かな農業が営まれているという事も興味深いです。
キューバや、ボリビアなどのアメリカが独裁国家として危険視している国が食料自給率が高いという現実を、今の政治家はどう考えているのか知りたいものです。
船頭
2009/08/04 12:44
◆山路独さま

おっしゃるとおりで、いまこそ、私的所有の論理を徹底的に批判していかなければならないでしょう。企業は、自分たちで作ったわけでもないものにまで特許権を設定して、利益を独占しようとします。「所有」という観念にとりつかれた「我利我利亡者」ですね。彼らの暴挙に対して、わたしたちもがんばって声をあげていきましょう。
影丸
2009/08/05 15:48
◆船頭さま

大事なご指摘だと思います。忘れてはならないのは、日本の食糧自給率の低さ、日本の農業の破壊をもたらしたのは、戦後ずっと政権を担ってきた自民党である、という紛れもない事実でしょう。
影丸
2009/08/05 15:50

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