フォーラム自由幻想

アクセスカウンタ

zoom RSS 森岡正博『33個めの石』(春秋社)@

<<   作成日時 : 2009/05/06 02:21   >>

トラックバック 0 / コメント 2

サブタイトルは「傷ついた現代のための哲学」。

「哲学」とは書いてあるが、軽く読めるエッセイ集である。

誠実な著者による、誠実な文章に触れることができる。

こういう本は、ありそうでなかなかないので、おすすめ。

さて、「33個めの石」とは、何のことなのだろうか?

それを説明する前に、触れておくべき事件がある。

2006年10月2日、米国のペンシルベニア州で、銃を持った男が小学校に侵入し、女子児童10人を殺傷して、みずからも自殺するという事件が起きた。この小学校は、アーミッシュというキリスト教再洗礼派の人々が住む地域にあり、被害者の児童たちも、アーミッシュの家庭の子どもたちであった。(8頁)


これは日本でも大きく報道された。

しかし、日本でまったく報道されなかったことがあった。

彼らは、なんと、子どもたちを無残に殺害した犯罪者とその家族とを「赦(ゆる)す」と宣言したのである。犯罪者に復讐したり、恨んだりするのではなく、その罪を赦すと言ったのである。彼らの態度は、米国の人々に静かな感動を呼び起こした。(8−9頁)


「犯罪者とその家族を赦す」。

なかなかできることではないと思う。

その翌年には、また別の事件があった。

2007年4月16日に、米国のバージニア工科大学で、学生による銃乱射事件が起き、32人の学生・教員が殺された。乱射した学生は自殺した。この犯人は、乱射の動機をしゃべったビデオと、みずからの写真を、NBCテレビに送付しており、その映像が全世界に流された。(22頁)


32人ものひとが殺害されたという悲惨な事件である。

これも日本で大きく報道された。

しかし、その後のことについては、やはりほとんど報道されなかった。

バージニア工科大学事件の次の週に、被害者の追悼集会がキャンパス内で行なわれた。キャンパスには、死亡した学生の数と同じ33個の石が置かれ、花が添えられた。実は、犯人によって殺されたのは32人である。「33個めの石」は、事件直後に自殺した犯人のために置かれたのである。(26−27頁)


これが「33個めの石」である。

追悼集会に参加したある学生は、こう述べたという。

「犯人の家族も、他の家族たちとまったく同じくらい深く苦しんでいるのです」


これを読んで、「日本だったら」と考えてしまうのは、わたしだけではないだろう。

日本で同じような事件が起きたときに、われわれは「33個めの石」を、はたして置くことができるであろうか。この小さな希望の石を、われわれの社会は許容するだろうか。(27頁)


日本人は、「33個めの石」を置くことができるか?

そこで著者は、日本で起きたある事件を取り上げる。

2005年4月25日、JR福知山線で脱線事故が起き、死者107人、負傷者500人以上を出した。脱線の直接の原因は、遅れたダイヤを取り戻すために、運転士が速度超過で列車を走らせたことである。(28頁)


JR西日本で「日勤教育」という苛酷な業務指導が行なわれていたことは、
報道されてよく知られていることだと思う。

その実態は「日勤教育」という名の「いじめ」であった。

事故後1周年となる2006年4月25日に、JR西日本は福知山線列車事故追悼慰霊式を執り行なった。そのときの慰霊の対象は、事故で亡くなった乗客106人であり、死亡した運転士は含まれなかった。(28頁)


運転士も含めるべきだという意見も遺族のなかにあったそうだが、
その意見は少数派だったために結局は取り入れられなかったという。

バージニア工科大学の事件とは異なり、
運転士は意図的に乗客を殺そうとしたわけではない。

それでも運転士は遺族たちからは追悼・慰霊されなかった。

日本で殺人事件が起きれば、なおさらだろう。

「犯人を死刑にしろ」の大合唱だ。

こういうことを書くと、必ず間抜けな連中が「落書きコメント」を寄せてくる。

「お前の子どもが殺されてもそう言うのか」と。

反発するだけなら誰にでもできる。

知性の堕落だ。

そう思う前に、考えてみるべきであろう。

なぜアメリカには「33個めの石」を置こうとするひとがいるのか?

反発するのはそれからでも遅くはない。

ほかにも、さまざまなテーマを本書は取り上げている。

自殺、宗教、脳、戦争、ロボット、生命倫理、監視カメラ、恋愛など。

考える入口にするには、とてもよい本だと思う。








テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
アメリカの家族は、(絶対ではありませんが)例えどんなに酷い犯罪を犯した身内がいても、その身内を庇うといいます。
日本は、完全にその逆で「世間さまに申し訳ない」という感じで、罪を犯した身内を切り捨てますね。
宗教的な側面が大きいのかもしれませんが、それでも日本のそれは『いじめ』を通り越して、『リンチ』だと感じます。
普段から、なぁんにも考える事ができないから、みのもんたみたいなアホに扇動されて(もいなくても)、平気で『死刑』を叫べちゃうようです。
これは、本を読まない人が増加しているのとリンクしている気がします。
自分も、この本を読みたいと思います。
船頭
2009/05/07 04:45
◆船頭さま

コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり日本は「リンチ」ですね。「集団リンチ」。日本にはテレビとネットだけで過ごしているひとがものすごくたくさんいるでしょうからね。

ぜひこの本を読んでみてください。数時間もあればあっという間に読めると思います。
影丸
2009/05/14 08:37

コメントする help

ニックネーム
本 文
森岡正博『33個めの石』(春秋社)@ フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる