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zoom RSS 湯浅誠『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)@

<<   作成日時 : 2009/03/12 17:37   >>

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遅すぎた感はあるのだが、話題の本をやっとここに紹介する。

著者の湯浅誠は、マスメディアにもしばしば登場するので、
知っているひとも多いだろう。

NPO法人「もやい」の事務局長であり、
「反貧困ネットワーク」事務局長で、「年越し派遣村」の村長だったひとだ。

彼の活動には本当に頭が下がる思いだ。

「もやい」とはどういう意味なのだろうか?

〈もやい〉とはもともと、嵐のときに小さな漁船同士を結びつけて、転覆しないようにつながり合うことを指す。(137頁)


この本は、必読書である。

日本の現実を知らないひとには、相当に衝撃的な内容だと思う。

すでに多くのひとが読んでいるかもしれないが。

わたしの教え子の家では、家族全員でこの本をまわし読みしたらしい。

それ以来、テレビ画面に映る麻生首相や小泉元首相に向かって、
厳しい批判を投げつけるようになったのだという。

とても教育水準の高いご家庭である。

こうしたご家庭が日本全国に増えることを切に願うばかりである。

日本で格差が拡大しているということは、数年前から言われていた。

「ジニ係数」などという専門用語が多くのひとに知られるようになった。

日本は、すでに貧困層を多く抱える社会である。

一億層中流社会と言われたのは、もう昔の話だ。

今や、全労働者の3分の1(1736万人)が非正規であり、若年層(15〜24歳)では45.9%、女性に至っては、5割を超えている(53.4%)。(21頁)


これは異常な数値である。

自然にこうなったのではないことを忘れてはいけない。

これは企業と政府によって作り出された現実だ。

いまや日本の全労働者の3分の1は正社員になれないのである。

女性にいたっては、半数以下のひとしか正社員になれないのである。

どんなに努力しても、半数以上の女性は非正規しか仕事がない。

では、非正規雇用のひとたちの生きている現実とは、どのようなものなのか?

いわゆるフリーターの平均年収は約140万円であり……、国税庁の発表では年収200万円以下の給与所得者が2006年、1022万人に達した……。もはや「まじめに働いてさえいれば、食べていける」状態ではなくなった。(21頁)


小泉純一郎と竹中平蔵のカップルは、
よくもこんな状況に日本をしてくれたものである。

ただし、わるいのは政治家や企業だけではない。

郵政解散選挙のときに自民党に投票したひとたちのせいで、
こんな日本になってしまったのである。

国民が不勉強だったせいで、こうなってしまったのである。

そうして作られた現実が、これである。

働いていないから食べていけない、のではない。

働いているのに食べていけない、のである。

実際に生活保護基準以下で暮らす人たちのうち、どれだけの人たちが生活保護を受けているのかを示す指標に「捕捉率」がある。政府は捕捉率調査を拒否しているが、学者の調査では、日本の捕捉率はおおむね15〜20%程度とされている。20%として約400万世帯600万人、15%とすれば約600万世帯850万人の生活困窮者が生活保護制度から漏れている計算になる。(28頁)


500万人以上が生活保護から漏れている。

これほどのひとたちが、生活保護の水準以下で生活しているのだという。

では、なぜ政府は調査を拒んでいるのだろうか?

自分の国の恥部が明らかになってしまうからであろう。

隠しておきたい現実が露わになってしまうからであろう。

それでは北朝鮮政府とどこがちがうのか、と言いたくなる。

それにしても、驚くべきデータだ。

……年間を通じて働いているのに年収200万円未満という人が1000万人を超えている。高齢者や無職を含めれば、所得のもっとも低い20%の人たち……の平均年収は129万円、年収200万円未満が総数4753万世帯の18.9%、898万世帯を占める……。(33頁)


年間200万円に満たない収入で生活しなければならないひとびとが、
日本にはこんなにもたくさんいるのである。

こうした日本の現実を著者は「すべり台社会」と呼んでいる。

いったん安定した地位からすべり落ちると、
そのまま貧困層に落ちていってしまうからだ。

真っ当な先進国ならば、本来セーフティネットが整備されていて、
そういうことにはならないようになっているはずなのだが。

著者によると、貧困の背景には「「五重の排除」があるという。

 第一に、教育課程からの排除。この背後にはすでに親世代の貧困がある。
 第二に、企業福祉からの排除。雇用のネットからはじき出されること、あるいは雇用のネットの上にいるはずなのに(働いているのに)食べていけなくなっている状態を指す。……
第三に、家族福祉からの排除。親や子どもに頼れないこと。頼れる親を持たないこと。
第四に、公的福祉からの排除。若い人たちには「まだ働ける」「親に養ってもらえ」、年老いた人たちには「子どもに養ってもらえ」、母子家庭には「別れた夫から養育費をもらえ」「子どもを施設に預けて働け」、ホームレスには「住所がないと保護できない」――その人が本当に生きていけるかどうかに関係なく、追い返す技法ばかりが洗練されてしまっている生活保護行政の現状がある。
そして第五に、自分自身からの排除。何のために生き抜くのか、それに何の意味があるのか、何のために働くのか、そこにどんな意義があるのか。そうした「あたりまえ」のことが見えなくなっている状態を指す。(60−61頁)


「五重の排除」によって貧困に陥れられたひとたちは、
もうそこから這い上がることもできない。

だから日本では自殺が多い。

日本社会で9年連続3万人超の自殺者が出ていることはよく知られているが(2006年で3万2155人)、遺書を残した1万466人の中で「経済・生活」を理由としている人が、28.8%の3010人いることから、全体としても3割の約1万人が生活苦を理由とした自殺ではないかと推計されている。「はよ死ねってことか」と書き残して餓死した52歳の男性、「貧乏人は死ぬしかねえべ」とつぶやいた鈴木氏と、実際に逝ってしまった1万人を分けるものはほとんどなく、両者は紙一重である。(65頁)


ここに出てくる「鈴木氏」というのは、
筆者が本書のなかで紹介している生活苦に悩むひとである。

ところが、日本人の多くは、彼らに対して冷酷である。

「苦しいのはあなただけではない」と言う。

「甘えるな」などと言う。

「自分の力でなんとかしろ」と言う。

つまり日本の社会は彼らに「早く死ね」というメッセージを送っているわけだ。

また、自殺するひとにこう言うひともいる。

「命を大切にしなさい」と。

「命を粗末にしてはいけない」と。

 「どんな理由があろうと、自殺はよくない」「生きていればそのうちいいことがある」と人は言う。しかし、「そのうちいいことがある」などとどうしても思えなくなったからこそ、人々は困難な自死を選択したのであり、そのことを考えなければ、たとえ何万回そのように唱えても無意味である。(65頁)


たとえて言うなら、こういうことだ。

ひとに足を踏まれて「痛い」と苦しむひとに向かって、
「痛いのはあなただけではない」と足を踏み続けるひと、である。

「夢を持とう」などというひともいる。

日本のバカな歌手たちは、どいつもこいつも「夢を持とう」と歌っている。

坂本龍一はどこかで、こうした能天気なひとたちを「反吐が出る」と言っていたが、
わたしもまったく同感である。

2006年6月8日、生活保護を廃止された68歳の男性が、
打ち切った北九州市小倉北区福祉事務所で割腹自殺を試みた。

7月24日には、秋田市で生活保護申請を二度続けて却下された37歳の男性が、
市役所前で練炭自殺し。

11月15日には、函館市で49歳の男性が首吊り自殺をした。
(65頁参照)

2007年3月末、福岡県八女市で68歳の男性が焼身自殺。

6月10日には、またもや北九州市小倉北区で61歳の男性が首吊り自殺。
(66頁参照)

これらは、ほんの氷山の一角にすぎない。

年間3万人以上が自殺しているということは、
毎日100人近くのひとが自殺していることになるのだから。

では、どうすればよいのだろうか?

……犯罪や児童虐待にも共通することだが、自殺もまた貧困問題と密接に結びついている。そこで求められていることもまた「貧困ラインの上まで家族の収入を増やすこと」……だろう。(67頁)


そうだ。

対策はハッキリしているのである。




つづく






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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
早く死ね。といって死ぬ人間より言われると逆に死にたくなくなる人の方多い思いますが、素直な人が増えたのかもしれませんね。
EIR
2009/03/14 16:48
上記 の素直というのは悪い意味でのです。追記して置きます。
EIR
2009/03/14 16:53
◆EIRさま

はじめまして。コメントありがとうございます。

せっかくコメントをくださったのに、おっしゃりたい意味がよく分かりません。自殺するひとが増えたことを、「素直」なひとが増えたって言うのでしょうか? しかも「素直」というのは「悪い意味」で? どういう意味? 自殺をしなければいけなくなったひとのことをそのように形容なさる意図が、わたしにはまったく分かりません。素直だと自殺するけど、素直じゃないと自殺しないものだ、ということですか? そういう問題ですか? 自殺問題って??
影丸
2009/04/08 16:09
自殺したくなる人の気持ちがまったくわかりません。
国全体が貧困国であるような国民だって生きてます。
なぜ自殺するのですか?そんなに自分がかわいそうですか?
自殺するなら思いっきり献血でもしてからにしてください。
電車に飛び込むなんて論外です。迷惑です。
生きたくても生きられない人もいるんです。
ZZZ
2010/03/10 23:31
◆ZZZさま

あなたのような凡庸なご意見を、わたしたちは一体何度聞かされてきたことでありましょうか? あなたのような他人の痛みを理解できないひとの暴言をわたしたちは一体何度聞かされなければならないのでしょうか? うんざりします。ほんとにうんざりします。記事にも書きましたが、あなたのおっしゃることは無意味です。その意味を受け止めていただきたいと思います。

ひとつ言えるのは、あなたのようなひとがいるから自殺者が増える、ということです。「自殺したくなる人の気持ちがまったくわかりません」とおっしゃるなら、せめて自殺問題について書かれた本を何冊かお読みください。過労自殺したひとたちの遺書なども読んでください。そうすれば、あなたのコメントは暴言である、ということがお分かりいただけると思います。
影丸
2010/03/11 04:29

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