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zoom RSS 木村晴美+市田泰弘「ろう文化宣言」

<<   作成日時 : 2008/12/17 04:20   >>

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自分の無知を痛感させられる読書体験というのがある。

これもわたしにとってはそのひとつであった。

「ろう者とは、日本手話という、日本語とは異なる言語を話す、言語的少数者である」――これが、私たちの「ろう者」の定義である。


このように書き出される「ろう文化宣言」は、
聴者の「思い込み」や「無知」に反省を迫るものである。

これは、「ろう者」=「耳の聞こえないもの」、つまり「障害者」という病理的視点から、「ろう者」=「日本手話を日常言語として用いる者」、つまり「言語的少数者」という社会的文化的視点への転換である。


「ろう者」は、「障害者」ではない。

「ろう者」は、「言語的マイノリティ」なのである。

たとえば、アイヌが「障害者」などではなく
「民族的マイノリティ」であるのとまったく同じ意味で、
「ろう者」は「文化的マイノリティ」なのである。

ろう学校では歴史的に、音声言語の教育が最大の目標と考えられてきた。……ろうの子どもたちに、一度も聞いたことのない音を発音させ(=発語)、相手の話を唇の形から読み取らせる(=読話)という、気の遠くなるような方法で、音声言語を習得させ試みが長く続いた。


この教育理念によって「手話」は長いこと弾圧されつづけてきた。

しかし「手話」は、子どもたちの間で使われつづけた。

じつは、ここでいう「手話」とは、聴者が連想する手話とはちがうのだ。

わたしたちが思い浮かべる手話は、「シムコム」といわれているものである。

「シムコム」(simultaneous communication: sim-com)は、
「音声言語を話しながら手話の単語を並べる」ものである。

これは「ろう者」が自然に使用している「日本手話」とは別の人工的な言語だ。

日本手話とろう文化を尊重する立場からの現状批判は、どうしても痛烈なものとならざるをえない。その矛先は、日本手話とろう文化を脅かす、あらゆるものに向けられる。その最大の標的が、日本語を話しながら手話言語を並べるコミュニケーション、シムコムである。シムコムは、二つの言語を同時に話そうとする試みであるが、同時に二つの言語を話すことは所詮無理なことであり、日本語手話のどちらか(あるいはその両方)が中途半端になる。とりわけ、日本語の音声が聞こえないろう者にとっては、きわめて不完全なコミュニケーション手段だと言わざるを得ない。


このように、「シムコム」を厳しく批判する。

シムコムには熟達しているものの、日本手話は理解することも表現することもできない手話学習者が手話通訳者になり、その数が増えてくると、さすがに、通訳者がろう者の手話が読み取れないことや、逆に通訳者の手話をろう者が理解できないことが、問題視されるようになった。


通訳者が駆使する「シムコム」を、わたしたちは手話だと思い込んでいたのだ。

「ろう」は「文化」であると名乗るひとたちにとって、
自らの存在を脅かすのが「人工内耳」である。

デフ・コミュニティーを揺るがすもうひとつのトピックは、人工内耳(cochlear implant:内耳埋め込み)である。蝸牛に電極を差し込むこの機械は、聞こえない耳を聞こえるようにするものとして、医者や教育者、ろうの子どもをもつ親や、中途失聴者から大きな期待を寄せられている。だが、……中途失聴者と違って、先天性のろう者にとって「ろう」は突然ふってわいた災難ではない。「ろう」は生まれ落ちた時からずっと自分自身の一部なのであり、まさに「自分自身であることの証し」でる。そうした人にとって、「ろう」は決して治療すべき「障害」ではない。


先ほど「アイヌ」と「ろう」の類似性を指摘したが、
アイヌはかつて日本人によって野蛮人と見なされ、同化を強制された。

これとまったく同じことが「人工内耳」という技術によって行なわれることになる。

「ろう者」は健聴者から「障害者」と見なされ、「人工内耳」によって同化を迫られる。

そこでは「ろう」は克服されるべき「障害」と見なされているということだ。

ちなみに、この「『障害』ではない」という表現には批判もあるようだが、
社会の「善意」に潜む「暴力性」について深く考えさせられる話であろう。

この宣言は、最後に次のような言葉で結んでいる。

手話に関わる聴者にも、また手話を知らない一般の人々の中にも、デフ・コミュニティーからの声に耳を傾ける人々が、少しずつ増えてきている。ろう者自身も、自信と誇りを取り戻しつつある。ごく近い将来、ろう者と聴者が本当の意味で出会い、対等な立場で向き合うことのできる日が必ず来ると、私たちは確信している。


(現代思想編集部編『ろう文化』所収、青土社)




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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
障害者ではないというんなら、障害者としての福祉は一切受けずに生活してください。
1聴覚障害者
2010/08/05 20:55
◆1聴覚障害者さま

よくそんなことが言えますね……悲しくなってきます。

もしあなたが本当に聴覚障害者なら、福祉の意味をまったく理解していないのではないか、と申し上げたい。福祉は「お恵み」ではないのです。もしあなたが障害者の名を語った健常者なら、卑怯なマネはおよしなさい、と申し上げたい。

自分とは異なる他者と向き合うことすら拒否する。これは、あまりに自己中心的で幼稚な態度ですよ。
影丸
2010/09/04 13:42

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