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zoom RSS 斎藤貴男『メディア@偽装』(マガジンハウス)

<<   作成日時 : 2008/12/12 00:26   >>

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今年(2008年)の6月、秋葉原で無差別殺傷事件が起きた。

加藤智大(ともひろ)容疑者は、工場で働く派遣労働者だった。

大手メディアは積極的に報道しようとしないらしいが、
彼の職場はトヨタ系の工場だったという。

やはりトヨタはタブーなのだろうか?

このような事件のあとに決まって出てくるのは、
保守派の「論客」たちによるお決まりの、そして退屈な「妄想」だ。

「苦しい立場にいるのは加藤容疑者だけではない、彼は甘えている」

「犯人は甘えている」

このような主張が何度もメディアで流された。

しかし、わたしにはこの主張をまったく理解することができない。

こんな「分析」で納得するひとが、世の中には、いるのだろうか?

そもそもひとは「甘え」によって「殺人」を犯すのだろうか?

保守派の主張に従うと、そういうことになる。

「甘え」ている加藤容疑者は何人ものひとを殺害したが、
多くのひとは苦しい境遇のなかでがんばっているのだ、という。

ということは、「甘え」が原因でひとは殺人に走り、
多くのひとは「努力」してひとを「殺さない」ようにしている、ということになる。

そんな理屈がどうして成立するのだろうか?

保守派の理解では、こういうことだ。

世の中のひとたちには、それぞれに苦しいこと、つらいことがある。
しかしそれでもがんばって生きている。
心の「甘え」でついついひとを殺しそうになることもあるけど、
日々努力してひとを殺さないようにがんばって生きているのだ、と。

そうなのか?

わたしには、まったく理解できない。

そして、もっとワケが分からないのは、保守派の「重鎮」の発言だ。

次の発言を読むと、思わず苦笑してしまう。

秋葉原事件と、その前後にも発生した通り魔事件を特集した週刊誌の記事〈「甘えてる」人生の達人が若者を叱る〉で、作家の佐藤愛子さん(1923年生まれ)は、「戦前の教育を復活せよ」と述べていた。
〈つまり親や先生が子供を叱り鍛えて、強い精神力をつけさせるしかありません。(中略)
 私の一族はサトウハチローはじめ不良の一族でしたが、我が家の不良は「自分は悪いやつだ」という自覚を持っている不良でした。
 しかし、この頃の事件を起こす若者は不良じゃないんですね。いきなりプッツンする。そして、その罪を親や社会のせいにする。秋葉原の無差別殺人は格差社会に原因があるというような識者の意見らしいですが、それを信じるなら、私は彼に訊きたい。「君はどれだけ努力したのか?」と。昔は自分が認められないと、「畜生! 今に見ていろ」という負けん気が生まれたものです)


ほらね、この自称・作家さんは、たしかに「甘えている」と断定している。

彼女が「人生の達人」なのかどうかは知らないが、
努力が足りなかったから殺人に走ったという「ご理解」のようである。

それで出てきた提案が「戦前の教育を復活せよ」である。

とほほ。

まず戦前の価値観を復活させたら、
彼女のような女性には発言の自由などなくなるのだということが分かっていない。

彼女が「自由」に好き勝手な発言ができるのは、
戦前の価値観が否定されて「言論の自由」が生まれたからである。

次に紹介する発言も、相当なアホである。

 同じ特集で、こちらも作家の曽野綾子さん(1931年生まれ)は、「“死にたい人”には重労働を」。
〈こんな日本を救うには、18歳になったら国民すべてに1年間、合宿で奉仕活動をさせたらいい、と私はずっと思っているんです。もちろん合宿生活ではテレビ、携帯電話は一切禁止ね。農業、漁業、林業などの末端を体験させ、実人生とのつながりを感じさせる。(中略)「死刑になりたかったから殺した」なんていうのは論外です。そういう人を集めて重労働をやらせる組織を作って下さい。どうせいつかは死ぬんなら、せめてそれまで人様の役に立つようなことをしてもらえばいい〉
 失礼ながら、お二人には現代の日本で金もコネもない家庭に生まれ育った若者が直面させられている過酷さがまるでわかっていない。戦前の教育が特権階級の出身でない子どもたちにもたらした運命や、腐敗した権力が国民に奉仕活動や強制労働を課すことの意味も何もかも。(15−16頁)


この種の発想は保守派の「お約束」であるが、
何人ものひとを殺害した行為に対して発した言葉が、「論外」である。

およそ作家とは思えない貧弱でお粗末な表現力である。

こういう「論客」が右派メディアで重宝されているというのだから、
日本の右派の知的レベルも推して知るべしである。

斎藤貴男は両者の発言を「裕福なお婆様のお喋り」と断じている。(17頁)

わたしも同意したい。

佐藤愛子も曽野綾子も、以前から相当なバカだとは思っていたが、
やっぱり相当なバカだった。

ちなみに、曽野綾子というひとは、
加藤容疑者よりもはるかに多くのひとを殺害した人物は、匿って守った。

アルベルト・フジモリのことである。
彼は国際手配されていた、れっきとした殺人罪の容疑者である。

これは、刑法103条に規定された犯人蔵匿罪に当たる。

刑法103条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する


曽野綾子は罪を犯したことになるので、
若者を安易にバッシングする前に、豚箱に入っていただきたいと思う。

お二人とも、戦前の価値観に対するノスタルジーがおありのようだ。

ちなみに戦前は小学生による殺人や幼女レイプが横行し、エリート教育を受けた旧制高校生が我が物顔で暴れまわる時代でもあった……(菅賀江留郎『戦前の少年犯罪』築地書館、2007年)。(17頁)


保守派の連中は、日本を、そういう犯罪が横行する時代に戻したいらしい。

客観的事実として、
戦前の教育が行なわれていた時代は犯罪がきわめて多く、
右派の嫌いな戦後民主主義教育が普及するにつれて犯罪は激減している。

とにかく、保守派の連中のひどさは、眼を覆うばかりだ。

安倍ブレーンの誉れ高い京都大学の中西輝政教授(国際政治学)が、やはり少子化問題を論じた際にも、他人の人生を虫ケラ扱いしていた。「70年代のイギリスを見れば分かるとおり、ぎりぎりまで来て『コンドームが買えない』貧困層が増えれば自然に少子化は回復に転ずる」(『WiLL』2006年4月号)(36頁)


この発言の主である御仁は、核武装論者である。

長崎市長を射殺した容疑者と30年来の交友がある人物としてマスコミに登場していた弁護士が、「新しい歴史教科書をつくる会」の長崎支部長で、「日本会議」長崎の副会長でもあったという事実。(46頁)


なるほどね。

海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」が沖縄・辺野古沖に出動して新基地建設に反対する住民を威嚇している事実。(49頁)


政府にたて突く市民に対しては、自衛隊を出動させて弾圧する。

これは戦前の話ではなく、現在の、現実の話である。

弱肉強食を標榜する構造改革の日本は、絶えず世襲政治家によって統治されてきた。あらかじめ恵まれた生まれ育ちの者だけがスタートラインに立つことができ、それ以外は初めから分を弁えた生き方に導かれるしかない、競争社会という名のイカサマ、封建時代への回帰を象徴する権力構造……。(61頁)


先ほどの佐藤愛子に言われるまでもなく、「今に見ていろ」である。

虐げられてきたものたちは、決して黙ってはいない。

ところで、本書によって「白虹事件」というのをはじめて知った。

この事件によって「不偏不党」という「原則」ができたというのだ。

今日でも新聞ジャーナリズムの王道とされる客観報道の、「不偏不党」は基本だと多くの人々が受け止めている日本社会。そのルーツが、実はこんなところにあったというのである。要は権力との軋轢をできる限り避けながら、穏健な紙面作りを心がけましょう、という。(93頁)


詳細(「ようさい」とは読みません)は、本書を。

次に、とても重要な出来事を取り上げたい。

ほんの数年前の早朝に福岡市で発生した事件だ。

 53歳の母親が難病で障害を負った27歳の次女の首を電気コードで絞めて殺害。自らも手首を切り、腹を刺して自殺を図ったが、死にきれなかった。
 7月に福岡地裁で言い渡された判決は懲役5年の実刑。(169頁)


懲役5年!

障害者を殺害すると、懲役5年ですむのである。

メディアが報道する「凶悪な」殺人事件では、世間から「死刑にしろ」の大合唱。
しかしこの事件に対しては、犯人に対する憎悪は起きない。

世論というものは、かくも無責任なものである。

次に、福岡県筑前町で中学2年生の男子生徒が首を吊った事件だ。

〈(両親との)話し合いの中で学校側は、この教諭がクラスの生徒を成績に応じ、イチゴの品種になぞらえて“ランク付け”していたことも明らかにした。
 優秀な生徒を「あまおう」「とよのか」と呼び、成績の悪い生徒を「出荷できないイチゴ」と呼んでいたという。両親は「生徒を人間として扱っていない証拠だ」と憤った〉
 とんでもない教師だ、と誰もが言う。報道が事実ならその通りだが、敢えて書こう。生徒をモノ呼ばわりして格付けしたがっているのは、1人この教師だけなのだろうか?
 違う。というよりも、小泉政権が加速させ、今また安倍政権が継承発展させるという教育改革とは、むしろ彼のような教師をこそ培養してきた。以下のような発言の数々をご存知か。
「大学経営は民間会社の経営と同じです。よい原材料を仕入れ、委託加工して製品に仕上げる。卒業証書という保証書をつけて企業に送り出す。欠陥商品の場合は、ある自動車メーカーがそうであったように、社会的制裁を受ける。だからアフターサービスが必要だ」
 全国54大学と野村證券、モルガン・スタンレー証券など日米の金融資本が結集して設立された「21世紀大学経営協議会」が2005年5月に開いた総会での、高橋宏・首都大学東京理事長(元日本郵船副社長)による挨拶だ。同協会のHPに動画が流れている。
 2004年10月に福井市で催された東海北陸ブロックPTA研究大会では、来賓に招かれた山本雅俊・福井県副知事が、「東海北陸の生徒数は120万人で、うち1万4000人の不登校児がいる。彼らは不良品だ」と述べている。山本氏は世界最大の化学メーカー・デュポン社の日本法人で社長を務めた人物で、前年の8月、民間出身の副知事として華々しくデビューしていた。(189頁)


教育に競争原理を導入せよと言ったひとに、
この事件に対してまったく責任がないとは言わせない。

教育は、イチゴの生産と同じではない。

教育は、ロボットの製造ではない。

企業経営者が教育に口をはさむと、ロクなことにならない。

戦時中もかくやと思わせる思想・言論統制。21世紀の日本全国を覆いつつある恐怖の最先端を東京都に突っ走らせている元凶は、そして言うまでもなく石原慎太郎知事である。
 この大衆作家出身のタレント政治家は、他人の子どもを己に仕える臣民に仕立て上げることこそ教育だと信じ切っている。もっと言えば、都政を私物化して恥じようともしない。
 中村委員長の答弁があった都議会予算特別委員会でも、石原都知事は気に食わない質問の主を罵倒しまくった。3月15日には共産党の村松美枝子都議の質問にのらりくらりと答え、「時間を稼いでいる」と指摘されると、「黙って聞け」。翌16日にはやはり共産党の大山とも子都議を、「あなた方の、何かの一つ覚えみたいな発言を訊いていますと……」と小馬鹿にし、「質問に答えて」と促されて、「答えてるんだ、黙って聞け、この野郎。失礼じゃないか貴様」と絶叫した。
 何という無惨だろう。品位や知性のかけらもない、ただ単にくだらない、最低最悪の手合いに、仮にも一国の首都が支配されている狂気が、いったいいつまで続けられるというのか。(206頁)


この品位も知性もない御仁が、日本の教育についてえらそうに自己主張するのだ。

もうたまらない。

2004年、東京都中野区立の小学校の入学式で、
日の丸・君が代の強制について批判する挨拶をした元PTA会長が、
辞任に追い込まれたという。

さすがにこれに対しては、東京弁護士会が「警告書」を出したという。

元PTA会長は言う。

この間、保護者会で事件の経緯を話したり、ビラを配ろうとすると、何人もの方に席を立たれてしまいました。親しかった親御さんから、『(日の丸・君が代の強制を批判した)あんな挨拶はおかしい。100人いたら100人がそう思うわ』と言われたこともあります。辛かった」
 ……ファシズムの時代には、権力以上に、大衆の同調が恐ろしい。(207頁)


この親御さんによると、
日の丸・君が代の強制を批判すると、
「100人いたら100人」がおかしいと思うらしい。

「空気」を乱すな、ということのようだ。

「周りに迷惑をかけるな」ということか。

ご本人は、洗脳されていることも、これが人権侵害なのだということも、
まるで理解できないようだ。

まさに戦前と同じ「空気」である。

本書では、ほかにも重要な問題が取り上げられている。

プリンスホテル事件

NHK番組改変事件(安倍晋三と中川昭一らによる言論弾圧事件)

映画『靖国』上映中止事件

などなど。

また、ドキュメンタリー作家・森達也との対談も掲載されている。




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内 容 ニックネーム/日時
曽野・佐藤にも勝るとも劣らないバカといえば金美齢、個・上坂冬子、そして櫻井よしこでしょうか。

加藤事件関連で言えばこの桜井も品性や知性を疑うドアホな発言をしていたようですね。

この際、櫻井よしこについてははっきりさせておきたい
funnyarome.blog82.fc2.com/blog-entry-237.html
正確に言えばこのブログ主が引用した、
こちらのブログ

「kojitakenの日記」にkojitaken氏が書いたエントリ(http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20080810/1218343896)にある通り、テレビ番組に出演した櫻井が、秋葉原で起きた事件の原因が日本国憲法にあると主張した件だ。櫻井いわく「現憲法が権利ばかり主張して義務をおろそかにする風潮を生み出した」

・・・・・、
怒りや呆れを通り越して笑ってしまいますね。
かつて桜井が共著を出した和田秀樹氏は「テレビの大罪」で「テレビなどのメディアで多く騒がれる話題は珍しいことだから」と指摘しました。
実際その通りでテレビなどで騒がれることは統計などで見ればとても珍しいことだから、
この加藤事件で言えば若い世代の犯罪率は現在ホント少なくて「殺人を犯さないのは日本の若者だけ」と言われるくらいだそうです。

それに対して戦前はホント酷い時代で犯罪も多く治安も悪くそれこそ戦争という最悪な事態に突入したという・・・。

曽野や桜井でいえば少し前の「週刊ポスト」で初のアホ対談をしましたね。
同じ週刊誌で言えば「週刊現代」でも「女は子供を産んだら会社をやめろ」とドアホな発言を行い、今週号で金などがドアホな擁護意見を出していましたね。
クウガ555
2013/08/28 15:17
◆クウガ555さま

こちらにもコメントをくださり、ありがとうございます。

右派の頭のわるさは凄まじいですね。彼らによれば何でも憲法9条のせいですからね。殺人事件も拉致事件もすべて9条のせい。「日本人は権利ばかり主張する」と彼らはよく言いますが、その「権利」のイメージはじつはまったくの間違いであるというのは、法学部なら大学1年生で習うくらいの基本なのですけどね。この国の首相(安倍晋三という名の大馬鹿もの)にいたっては、芦部憲法も知らずに改憲を主張しているのですから、日本の保守派・右派は世界の笑いもの・恥さらしです。
影丸
2014/05/12 00:55

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斎藤貴男『メディア@偽装』(マガジンハウス) フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
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