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zoom RSS ジョン・ダワー『増補版・敗北を抱きしめて(上)』(岩波書店)

<<   作成日時 : 2008/10/28 09:14   >>

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日本人は「敗戦」後の世界をどのように生きてきたのか?

豊富なエピソードで戦後日本の歴史を描く作品である。

ピュリッツァー賞など多くの賞を受賞している。

印象的なところを拾ってみたい。

まずは、アメリカによる日本占領統治を批判するところから。

すなわち、日本占領のもっとも悪質な点のひとつは、帝国日本の略奪行為によってもっとも被害を受けたアジアの人々――中国人、朝鮮人、インドネシア人、フィリピン人――が、この敗戦国でまともな役割、影響力のある立場をなんら獲得できなかったことであった。これらのアジアの人々は、目に見えない存在となってしまった。「太平洋戦争」におけるアメリカの勝利にすべての焦点があったために、日本帝国の陸海軍人を打ち負かすうえでアジア人たちが成し遂げた貢献は、なかったかのごとくに見えなくなってしまった。これと同じ消失のメカニズムによって、戦争中だけでなく植民地時代にアジアの人々に対してなされた数々の犯罪にいたっては、いっそう容易に、まるでなかったかのようにみなされた。(11頁)


このことは、日本人の意識にも影響を与えた。

日本はアメリカに負けたのであって、アジア諸国に負けたとは誰も思っていない。
だから日本人は、アジア諸国のひとびとの日本に対する抵抗運動を評価できない。

降伏後、保守派にとって最優先の課題は、社会の激変を避け、天皇中心の「国体」を不変のままに維持し、日本経済を立ち直らせることであった。そして彼らは、軍国主義、政治的抑圧、軍事侵略の「根本的」原因を云々するようなことはすべて拒否し、あの戦争は帝国軍隊内部の、無責任で謀略的な連中がもたらした逸脱だったのだといい、そうである以上、構造的・制度的改革は不必要であると説明した。(86頁)


戦争責任からの逃避、無責任ぶりのあらわれ、である。

保守派は、「自己保身」がお上手である。

日本本土じたい、基本的な食糧を朝鮮、台湾、中国に依存していた。真珠湾攻撃の前の時点で、日本人が消費する米の31%、砂糖の92%、大豆の58%、塩の45%がこれらの地域からの輸入に頼っていた。(95頁)


わたしはこのような事実を、学生時代に飲み屋のおじさんから教えてもらったのだが、
多くのひとは、とくに若いひとは案外知らないのではないだろうか。

あるホテルでネズミが大量発生したが、支配人は毒入りのエサをまくのをあきらめざるをえなかった。人間が拾って口にしてしまうからである。(101頁)


それほど飢えていたということである。

1948年になっても、ある雑誌の記事には「今の日本で違法生活をやっていない人間は、刑務所に服役中の者だけだ」という笑えない冗談がのっていた。(102頁)


闇市を利用しないひとはいない、という時代だったからだ。

厳密に言えば、いまの日本人にもほぼ、あてはまりそうである。

作家の坂口安吾が言ったように、人々はこれほどまでに利己的な世界を見たことがなかった。ほんの数ヵ月前には、お国のために喜んで死ぬ――戦中のうっとりさせるような決まり文句では、桜の花のように清く美しく散る――と言っていた人間たちが、いまや同胞から容赦なく金を巻き上げているのであった。(166頁)


さすが無節操の「日本人」である。

敗戦直後の変化を象徴的に示しているのは、映画だった。

そしてついに、主人公の男がヒロインの女にキスするシーンを大写しにした松竹の『はたちの青春』が公開されると、その翌日からまさに映画の歴史は変わることになった。うっとりと見ほれた観客には内緒であったが、キスの瞬間の情熱は、じつは消毒済みであった。恋人同士の唇の間に、オキシドールをしみこませた小さなガーゼが目立たないようにつけてあったのである。この偉大なる事件について、男優の大坂志郎は、思い出すのは消毒液の味ですといい、相手女優の磯野道子は、ただ目を閉じて自分の仕事をしただけですと、淡々と述べている。(175頁)


「キスの味」は「消毒液の味」だった、と。

敗戦国ドイツで採用された直接統治の軍事支配と違って、日本の占領は、すでに存在している日本の政府組織をつうじて「間接的に」行われた。そのため、降伏以前の日本の政治体制のなかでも、もっとも非民主的であった制度を支持することにならざるをえなかった。官僚制と天皇制である。(262頁)


戦後の日本統治のために、天皇制と官僚制度が利用されたという事実は、
きわめて重要である。

彼らは戦争責任をまったく果たしていないのだから。

日本の軍事組織は消滅し、抑圧的であった内務省も解体されたが、官僚制は本質的に手つかずのままであり、天皇も退位しなかった。アメリカの植民地総督は、自分たちが出した指令を遂行するのに現地のエリート官僚層に頼りきっていたのだ。その結果、SCAPの庇護を受けた日本の官僚は、戦争に向けて国家総動員を進めていた絶頂期よりも実際にははるかに大きな権限と影響力を獲得したのだった。(262頁)


やがて朝鮮戦争をきっかけにして、消滅したはずの軍も復活することになる。
日本の「再軍備」である。

イギリスのアジア問題専門家も同様に、日本人を見下す傾向があった。たとえば、名門の王立国際問題研究所は日本の降伏に先立って、大きな影響力を持つことになる報告書を提出した。そのなかで、日本人を、当時普通に使われていた表現であったが、「従順な家畜」と呼び、さらに「民主的な制度を運営する日本人の能力について深刻な不安」を表明している。占領がはじまって間もない頃、東京にいた英国代表は、完璧な英語の使い手として有名だった前註英大使、幣原喜重郎が組閣した機をとらえて、本国の外務省に向けて次のように打電した。日本人は「現代の世界で、アフリカの部族と同じくらい自己統治の能力を欠いているが、彼らよりはるかに危険だ」と。(271頁)


すごい差別意識。

「アフリカの部族と同じくらいに劣っている日本人」。

「アフリカの部族よりも危険な日本人」。

アフリカの部族のひとたちに失礼である。

……きのうまで愛国主義者だった日本人は、一夜にして占領軍への密告者、あるいは情報提供者に変貌してしまったようにもみえる。……
 ……日本人とは、風向きに応じて方向を変える風見鶏のようだ――多くの人々がそのように感じていた。(293頁)


無節操で無責任な日本人。

次のエピソードは、またすごい。

当時、マッカーサーに日本人女性たちから多くの手紙が届いたという。

その内容に驚く。

手紙の送り主の多くは、マッカーサーを受け容れることと、家父長的な権威を受け容れることや民主主義を受け容れることとの違いをはっきりと区別してはいなかった。この点をもっとも露骨に表したのが、マッカーサー元帥宛てに女性たちが送った独特な一節を含んだ手紙であった。その内容を分析した人が困り果てた結果、「あなたの子供を産みたい」カテゴリーと名付けることになった種類の手紙である。ここにいたっては、現実に性的な関係があったかどうかは別として、少なくとも願望のレベルでは、彼女たちは征服者を文字通り、性的に受け容れたのである。(295頁)


「あなたの子供を産みたい」。

さらに厄介だったのは、日本人の占領軍への対応の仕方が例を見ないほど無邪気で、親切で、浅薄だったことである。たとえば原爆が投下された長崎においてさえ、住民は最初に到着したアメリカ人たちに贈り物を準備し、彼らを歓迎したのである(贈り物はガラス・ケース入りの人形で、放射能の影響を調査に来たアメリカの科学チームの責任者に贈呈された)。またそのすぐ後にも住民たちは、駐留するアメリカ占領軍人とともに「ミス原爆美人コンテスト」を開催したのである。ある漫画はデモクラシーを積極的に受け容れて、「デモちゃん」「クラちゃん」という二人の主人公を登場させた(これと対照的な、保守派的な言葉遊びは、デモクラシーを「でも、苦しい」と読み替えた)。(305頁)


さすが権力・権威に従順な日本人である。

それにしても「ミス原爆美人コンテスト」というのはすごい。

5月12日には、世田谷区下馬の住民によって小規模ながら、「米よこせ区民大会」が開催された。これが後に第二のメーデーである「食糧メーデー」に発展していくものである。この集会には思いもかけず野坂参三が参加し、おそらく「愛される」革命という新しい思想に心を奪われていたからであろう、自分たちの要求を直接天皇に持っていく以外にないと、驚くべき発言を行ったのである。野坂の発言は他の演説者たちからも支持を受け、またその他の決議と一緒に「国民の声」としてまとめられ、天皇裕仁に届けられることになった。(338頁)


もっとも無責任だった天皇を批判することができなかった日本人。

しかし5月半ばのこれらのできごとは、思想的に見れば奇怪な矛盾のかたまりであったことは明らかだ。その最大の理由は、民衆の抗議運動が天皇へ上奏する形をとったことにある。(342頁)


天皇にお願いをするという形をとってしまったのである。

アメリカの植民地になってアメリカに媚び、象徴天皇制のもとで天皇に媚びる。

さすが愚かな日本人である。

下巻につづく












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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
書名はかねてから知っていたもののまだ手にとったことがありませんでした。すばらしい本ですね。ご紹介に感謝いたします。
katsuko
2008/10/29 08:56
◆katsukoさま

はじめまして。コメントありがとうございます。
ええ、こうしたおすすめの本をこれからもご紹介していきますので、ご参考になさってください。
影丸
2008/10/31 01:26

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