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zoom RSS アンドレ・レノレ『出る杭は打たれる』(岩波現代文庫)

<<   作成日時 : 2008/10/01 19:14   >>

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これは一般的にはあまり知られていない本かもしれない。

しかし、隠れた好著である。

フランス人司祭であったアンドレ・レノレは、
日本に来て下請けの労働現場で実際に働いていた。

そこで彼は、歪んだ日本の現実を目撃することになる。

この本に書かれているのは、すべて実話である。

彼は、労働組合運動に身を投じ、企業と闘っていくことになる。

しかし、彼は日本において、「出すぎた杭」だった。

「出る杭は打たれる」

あのヘルデル・カーマラ師〔第三世界の社会改良を説いたブラジルの司教〕もこう言っている。「貧しい人を助けようとすると聖人あつかいされ、かれらがなぜ貧しいのかを説明しようとすると共産主義者あつかいされる。」(5頁)


これは日本でも同じであろう。

現場の入口には、連続無事故○○日目と書いた大きな看板がかかげられている。みんな、その数字はウソだと知っている。しかし、抗議する者はだれもいない。(48頁)


建前では「安全」「安心」を掲げる企業だが、
実際にはそんなものはどうでもよいと考えているのが企業の本音だ。

それにしても、この国では労働者のデモはおどろくほど少ない。それは大手の労組がこぞってだらしなくなり、たいした要求もかかげなくなったからである。むしろ国の方が、ILOや西洋の労働組合から圧力をうけて、会社に残業時間をへらせとか、有給休暇をふやせとか、社員をちゃんと休ませろとか要求しているしまつだ。企業内組合が労働者にむかって休むことの必要性を力説するようになったのは、国がそれを要求しているからにすぎない。(180頁)


まったくである。

女性差別でもそうだ。

日本で女性差別などを是正する政策がとられたのは、
国際社会からの圧力があったからであって、
日本人自身が主体的に勝ち取ったものではなかった。

日教組だって、相当にだらしない。
中山元国交相にあんなことを言われても、おとなしくしている。

ストライキをしてでも徹底的に闘うという姿勢は見られない。

カフェイン抜きのコーヒーなんて、コーヒーではない。

それと同じように、
闘わない労働組合なんて、労働組合ではない。

ところで、次のエピソードは怖ろしい。

JOC〔青年カトリック労働者同盟〕のある若いメンバーが、
三菱自動車に入りたいと思った。

採用試験では、30分の筆記テストが課せられた。

しかしその内容は、「私生活や思想についての調査」にほかならなかった。

 「次の言葉を見て、あなたの心にうかんだことを書きなさい。
 労働・上司の命令・父親・一番不満に思うこと・ヘルメット・愛・残業・お父さんが教えてくれたこと・権利・兄弟姉妹・転勤・義務・社員寮……」

 この人は採用された。本心を隠すことができるほど頭がよかったからである。(223頁)


日本では「労働者の権利」は守られていない、などと書いたら、
彼は「不採用」になっていたにちがいない。

「ヘルメット」から「学生運動」や「労働運動」を連想して、
そのことを書けば、まちがいなく彼は「不採用」になっていた。

これは企業による思想調査である。

これが日本の「一流企業」と言われているところのやっていることである。

こんな試験問題を作成しているひとのことを想像すると、
あまりのバカバカしさに思わず笑ってしまうほどである。

また、ある労働者は富士電機に入社した。

彼は入社にさいして、次のような誓約書に署名させられたという。

 「貴社の社員として、私は以下の六項目をかならず守ることを誓います。
 一 工場の規則や与えられた命令は厳格に遵守し、業務は誠実に遂行します。
 二 私の業務の種類や内容や場所に関するあらゆる命令に従います。
 三 業務中に発明や発見がなされた場合、私はその特許権など一切の所有権を会社に無償で譲渡します。
 四 業務のさいにえた秘密は、在職中も退職後も絶対に守ります。
 五 私の不注意によるものであろうとなかろうと、私が会社に損害を与えた場合はかならず弁償します。
 六 会社の規則に従い、たとえ解雇されても苦情は申し立てません。」(224頁)


企業は労働者をほとんど人間扱いしていないことが分かる。

ほとんど無条件の服従を強いられた「奴隷」である。

現在でも、内部告発をした社員に対して、
不当な配置転換をしていじめる企業がある。

三菱重工のニュースが先日報道されていた。

これが日本の企業の姿である。

大企業では、活動家の数は少なく、組合活動も弱い。少なくとも、組合活動はいわゆる自由主義体制なるもののなかに完全に統合されてしまっている。現代がわたしたちに投げかける大きな問題に立ちむかうための新しい思想は、けっしてそこには期待できない。(226頁)


日本の労働組合は、労働者の権利を守ってはいない。

だから今では、労働組合の組織率は、きわめて低い。

日本型の資本主義の特徴として、よく言われるのが、次の四つだ。

@ 終身雇用制・年功序列型賃金制度
A 法人資本主義
B 政官財の癒着
C 企業内労働組合


このうちのCが、ここでは問題になっているわけだ。

会社でのひとの入れ替わりの激しさ(10年間で70人もの労働者が入っては去っていった)を見れば、これは日本人が一生をささげたがるような未来のある会社ではない。しかし、日本にはこんな会社がなおもたくさん存在している。そして、日本人の70%はこうした中小企業で働いていることも忘れてはならない。つまり、言ってみれば労働組合もないような会社で働いているのである。(254頁)


労働組合もないようなところで、
泣き寝入りさせられている労働者が一体どれほどいるのだろうか?

こうした労働者の人権を何とも思っていない企業風土は、
戦前の日本社会の風土とどこか変わっているのだろうか?

30年代のいまわしいファシズムは、まさしく日本のこうした文化的土壌から生まれたのではないか。そして、服従がなかば自然な態度としてそなわるかぎり、ファシズムはいまでも日本人の大多数の意識のなかに、漠然としたかたちで残る。(119頁)


上からの服従を強いられたひとは、自分よりも下の人間を服従させようとする。

こうして「弱い者いじめ」が日本にはびこる。

たとえば、自分の部下に対して威張っている連中を見てみよ。

たとえば、子どもに対してえらそうに説教をしている連中を見てみよ。

彼らは、上司の前では羞恥心をかなぐり捨ててひれ伏すのである。

彼らは、子どもの見ていない会社内では、
気持ちの悪い笑顔を振り撒き、周囲に媚びるのである。

教会は、労働運動やその活動家たちが抑圧されているときに、だまっていていいはずがない。会社は破廉恥にも4人の活動家を放りだした。社内にやっかいの種をかかえるくらいなら、4人を解雇して、賃金だけ18年間払いつづける方がましだと思っている。会社なら何をしても許されるというわけでもあるまい。
 もし教会まで一般の社会と同様に沈黙していたら、社会の秩序こそが最高の善といった欺瞞を許すことになる。事実、日本の社会は正確な時計の針のように回転している。それはみごとである。万事がスムーズに、予定どおり進行しているように見える。しかし、そこには生きていることのよろこびもなければ自由もない。これを見れば、日本はいつでも新しい帝国主義・全体主義の時代に入っていけそうだ。(126頁)


筆者がこのような診断を下したのは、1970年代の日本だったが、
あれから日本が変わったとは誰も言えないだろう。

本書の巻末には、ルポライターの鎌田慧が解説を寄せている。

残業は、日本人とフランス人とのあいだに横たわっている深い溝である。それはフランス人ばかりか、欧米にたいする限りなき挑戦であり、まして無給残業(サービス残業)などは、アンフェアな輸出競争力となって、欧米の労働者の雇用と労働条件にたいしての犯罪行為ともいえる。(275頁)


しかし日本の労働者は、依然として長時間労働をつづける。

そして、そこで受けたストレスは、
弱い者いじめに向けられるのである。













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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
パソコンの調子が悪いので、携帯からのコメント失礼いたしますm(__)m

本書は、何年か前にお勧めいただいて読みました。
現代にも通ずる話しにして、いかにして闘うのか、参考にしようと思いつつ、怠惰なまま敵前逃亡(退職)してしまいました。

いろいろと転職を重ねてみて、振り返りますと、この日本という国は、子供たちに「無限の可能性」という幻想を植え付け、ものごころが世間の風に晒されてぽっきり折れた暁に犬のように飼い馴らすという残酷な国なのではないかと感じるくらいに、犬のように従順な人々を多くみたものでございます。

端から見られれば、自分もきっと、その犬の中の一人だったに違いありません。

なかなか闘うべきだと気付く事ができない人々が、虐め合いながら狂っていくのが、手に取るようです。
それは、無差別殺人や、過労死、うつ病及び自殺の多さをみるまでもなく、通勤電車に押し込められる人々の様子を聞くだけでも、「嗚呼、地獄絵図だなぁ」と感じます。

SENDO
2008/10/04 01:52
◆SENDOさま

コメントどうもありがとうございます!

そうでしたね。ずいぶん前に紹介したことがありましたね。
日本の異常さにほとんど気づかず、ショッピングとレジャーと恋愛ゲームでごまかしているひとたちの何と多いことでしょう、とわたしも思います。自分だけは正常だと思い込んでいるひとこそが、もっとも信用できないひとでしょうね。

SENDOさん、これからも一緒に闘っていきましょう。
影丸
2008/10/08 19:52

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