フォーラム自由幻想

アクセスカウンタ

zoom RSS 堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)

<<   作成日時 : 2008/08/31 21:36   >>

トラックバック 0 / コメント 0

いま話題の新書である。

相当に売れているのではないだろうか?

アメリカの実状を知らないひとにとっては、衝撃的な内容だと思う。

おすすめだ。

世界第1位の経済大国アメリカ。

しかしその実態は、見るも無残な姿をさらけ出している。

アメリカ農務省のデータによると、2005年にアメリカ国内で「飢餓状態」を経験した人口は3510万人(全人口の12%)、うち2270万人が成人(全人口の10.45%)、1240万人が子どもである。(27−29頁)


世界で最も「豊かな国」と言われるアメリカで、
なんと全人口の1割を越えるひとが「飢餓状態」を経験したという。

途上国の生活実態ではないのである。

経済大国アメリカで起こっている現実なのである。

アメリカ内国歳入局の発表によると、2006年度の時点でおよそ6000万人のアメリカ国民が1日7ドル以下の収入で暮らしているという。
「イラクや北朝鮮で非情な独裁者が国民を飢えさせていると大統領は言いますが、あなたの国の国民を飢えさせてるのは一体誰なの?と聞きたいです」(29−30頁)


貧困層がこれほどたくさんいる一方で、
巨万の富を稼いでいる富裕層も一部にいる。

……ウォールストリートのCEO(最高経営責任者)たちは500億円を超えるようなボーナスを、石油メジャー会社のCEOは400億円を軽く超える退職金を受け取り、格差は広がる一方だ。(30頁)


アメリカ国内の格差は、世界の格差の縮図のようである。

ある移民労働者はこう言う。

「時給5ドルのマクドナルドで働ければいい方ですが、私のような不法移民は普通の店では雇ってもらえません。家の近くの工場が内緒で雇ってくれています。時給2ドルでね」(56頁)


時給2ドル。

工場経営者は、労働者の不利な立場につけ込んで、
これほど不当な低賃金で働かせ、
搾取をしているのである。

搾取はれっきとした「泥棒」である。

別の移民労働者は、次のように言う。

学校が休みの間、ポップコーンを製造する工場の清掃係として働くマリアは、自分の置かれている境遇は皮肉だとため息をつく。
「だってメキシコで私の父親を失業に追い込んだのはアメリカのトウモロコシなんですよ、それで今はその娘がポップコーン工場の床をモップがけしているんですから」
 1994年。NAFTA(北米自由貿易協定)によって農産物貿易の関税が取り払われ、膨大な補助金に支えられたアメリカ産トウモロコシのメキシコへの輸出量は3倍以上に急増した。アメリカの大規模経営農家で栽培された大量の安価なトウモロコシにあっけなく市場を奪われたメキシコの貧農たちは、職を追われ農地を手放し、家族を連れてアメリカに密入国する者がその年だけで70万人を超えた。(57頁)


これを見ても分かるだろう。

なぜ労働者は国境を越えて移動するのか?

原因を作っているのは、先進国なのである。

先進国が途上国の産業を破壊するから、
仕事を失った人々が仕事を求めて海外へ移動するのである。

アメリカは、医療の問題も深刻である。

マイケル・ムーア監督の『シッコ』で、
アメリカの医療制度の欠陥については、
ずいぶんと知られるようになった。

1999年末、アメリカ国内の主要医療機関は患者の最も大きな死亡原因の一つが「医療過誤」であることを明らかにした。
 ……
 国立医療研究所(国立科学アカデミーの一部門)が1999年11月に発行したレポートによれば、医療過誤により毎年アメリカの病院で死亡する患者の推測数は4万4000人から9万8000人だという。(88頁)


衝撃的な数字である。

これは年間平均にすると、7万1000人が医療過誤で死亡していることになる。

年間7万人以上のひとが、医療ミスで死亡しているわけだ。

医療過誤という人為ミスだけが問題なのではない。

アメリカの医療サービス・レベルは、世界ランキング中37番目。
乳幼児死亡率が43番目だという。
この乳児死亡率の高さは、先進国のなかで第1位だそうだ(89−90頁参照)。

なぜこのような悲惨な状況になってしまったのか?

それは、公的な医療保険制度がアメリカには存在していないからである。

逆に言うと、公的医療保険制度がなくなって、
民間主導の医療保険制度になってしまうと、アメリカのようになってしまう、
ということである。

ところが、市場原理主義者たちは、日本の医療市場にすでに狙いをつけている。

現在、在日米国商工会が「病院における株式会社経営参入早期実現」と称する市場原理の導入を日本政府に申し入れている……。(93頁)


これまで、アメリカの要求をほとんどのんできた日本政府は、
このような要求も受け入れる可能性がきわめて高い。

だって、日本はアメリカの植民地だもの。

例えば、盲腸の手術の国際比較には、びっくりしてしまう。

日本の盲腸の手術代は、4〜5日入院しても、
約30万円を超えることはないという。

しかし、ニューヨークだとどうなるか?

なんと1日で「243万円」!

ロサンゼルスで1日「194万円」!

アメリカは、このような悲惨な状況にある(66−67頁参照)。

これ、言っておきますが、脳の大手術ではありませんよ。

盲腸の手術代ですよ。

こんな国では、盲腸の手術も受けられない。

普通の市民にそんな大金が支払えるだろうか?

2004年5月に「USAトゥデイ」紙が発表した調査結果を見てみよう。

 調査を行ったのは超党派団体の「公的サービス共同支援」という機関で、インターネットで全米の大学生にアンケートを実施した。その結果、彼らの多くが9・11同時多発テロの年に入学しているにもかかわらず、一番怖いものがテロ攻撃と答えたのはわずか13.4%、31.2%が「仕事が見つからないこと」、32.4%が「これ以上借金が増えること」だと答えた。(126頁)


テロよりも、生活の破壊が恐怖の対象になっている。

もうアメリカ国民も気づいていい。

ひとびとの生活を破壊しているのは、ほかならぬ政府なのだ、と。

テロリストよりも政府の方が怖ろしいのだ、と。

「アメリカ帰還兵ホームレスセンター」のデータによると、2007年現在、アメリカ国内には350万人以上のホームレスがおり、そのうち50万人は帰還兵だという。……
 ……2004年に「ニューヨーク・タイムズ」紙が発表した記事によると、イラクに駐留している兵士の6人に1人が深刻な精神障害を抱えており、その数字はすぐに3人に1人という割合になるだろうと予測されている。(139頁)


帰還兵たちの問題については、
このブログでも書いたことがある。

「テロとの戦い」などと威勢のよいことばかりを言う連中は、
この深刻なトラウマの問題を解決することができない。

英国の医療雑誌「ランセット」によると、2007年8月現在の時点でイラクにおける米兵の死者数は3666人、そのうち5%にあたる188人が自殺しているという。(140頁)


兵士の自殺の問題についても、このブログで書いたことがある。

自殺は、殺意が自分自身に向けられることだが、
この殺意が他人に向けられるケースを考えれば、
戦争は国内犯罪の増加にもつながるという点も見えてくる。

アメリカの実態をレポートしているこの本では、
日本のことにも触れている部分がある。

……日本でも「個人情報保護法」が成立した時、社民党の保坂展人議員が衆院法務委員会でNTTドコモデータ社の法務部に対し質問をしたところ、同社が顧客の携帯位置情報を令状なしで警察に提供していることが明らかになっている。(173頁)


NTTは、大学生たちにも人気の高い就職先企業だが、
その「一流企業」のNTTのやっていることは、一体何なのだろうか?

これは紛れもなく監視国家づくりであろう。

こうしたことを分かっていて、学生諸君は就職しようとしているのだろうか?

世のなかのひとたちは、こうしたことを知っていて、
それでもNTTは立派な企業だと思っているのだろうか?

日本でも2007年6月、日本共産党の志位和夫委員長が、自衛隊の「情報保全隊」による大規模な国民監視活動を詳細に記録した内部文書を独自に入手したとして、国会の記者会見でその内容を公表した。
 発表されたのは情報保全隊が2003年12月から2004年3月の間に作成した2種類の文書であり、内容は自衛隊イラク派兵反対の運動など、個人や団体による幅広い運動の情報だった。(174頁)


この問題は、大々的に報じられたので、
覚えているひともいるだろう。

自衛隊は、国民を守るのではない。

自衛隊は、国民を監視する組織なのである。

自衛隊は、
消費税反対の運動をした市民たちまで監視していたというから、
驚きである。

中国や北朝鮮の悪口ばかり言い立てているひとびとは、
こうした自衛隊の行動を批判しない。

右派・ナショナリストたちは、
日本を中国や北朝鮮のような監視国家にしたいからである。

さて、アメリカに話を戻そう。

アメリカの格差構造は、市場原理によってもたらされた。

市場原理は、戦争のあり方まで変えている。

なんと戦争までもが、「民営化」されはじめているのである。

「もはや徴兵制など必要ないのです」
「政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです。大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちをその資金力でバックアップする。これは国境を超えた巨大なゲームなのです」(177−178頁)


アメリカの貧困層が、どのように戦争に駆り出されているのか?

その具体的な様子は、本書を読んでみていただきたい。

軍が各地の高校で展開しているリクルート活動などについて、
詳しく書かれている。

貧困層は、大学の奨学金を得るために入隊する。

移民労働者は、永住権を手に入れるために入隊する。

そして、戦場に送られていく。

富裕層は、安全で快適な部屋で、
酒を飲みながらゲラゲラ笑っているのである。

現在イラクでは、基地建設から兵士たちの食事から健康管理まで、すべて民間企業に外注されている。それどころか兵士そのものまでが傭兵会社に発注され、民間の「社員」が戦闘に従事したとして、戦争請負会社のブラックウォーターUSA社は2007年12月現在、イラク政府から業務停止命令を受けている。(190頁)


イラク戦争で明らかになったのは、
この「傭兵」の問題である。

そして、日本人の「傭兵」までいたという事実である。

日本はこれまで格差の少ない社会だと言われてきた。

しかしそれはもう過去の話である。

2006年7月に公表された対日経済審査報告書(OECD)のデータによると、「OECDにおける相対性貧困率ランキング」において、日本はアメリカに次いで第2位になっている。(198頁)


有名な話だが、知らないひともいるかもしれない。

日本は、すでに格差の大きい社会なのだ。

貧困率の高い社会なのだ。

この傾向を加速させたのが、
一連の「ネオ・リベラリズム(新自由主義)」に基づいた経済政策だった。

あの小泉フィーバーのとき、
「小さな政府」論を主張していたひとびとは、
いまごろどうしているのだろう?

きちんと「おとしまえ」をつけてもらおうではないか。

最後に、筆者は、気になるデータを載せている。

2006年度に「国境なき記者団」が発表した「世界168か国における報道の自由度ランキング」で、日本は51位になっている。(200頁)


北京オリンピックのニュースでは、
中国の報道規制がいかに厳しいか、
中国ではいかに言論の自由が存在していないか、
という批判的論調の報道が目立った。

多くの日本人も、中国の閉鎖性・後進性を非難していた。

なるほど。

報道の自由は大切である。

しかし、そのように中国批判を展開する日本人の姿が、
哀れなほどに滑稽に見えてしまうのは、わたしだけだろうか?

日本は、「報道の自由度ランキング」で51位だという。

50位のイスラエルよりも下である。

日本における報道の不自由さ、
報道規制なども同時に批判するのでなければ、
中国を批判する資格などありはしない。












テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書) フォーラム自由幻想/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる