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zoom RSS 斎藤貴男『機会不平等』(文藝春秋)

<<   作成日時 : 2008/06/27 17:08   >>

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「機会の平等」と「結果の平等」という考え方がある。

「機会の平等」は、チャンスさえ万人に平等に開かれていれば、
結果として生じる所得格差は各人の努力の成果であるとして、
これを容認するものだ。

「結果の平等」は、所得格差を不公正であるとして、
所得再分配などを通じて格差を是正するべきだという考えだ。

「機会の平等」は、アメリカ型。

「結果の平等」は、ヨーロッパ福祉国家型。

そう説明される。

斎藤貴男は、数少ない良心的なジャーナリストのひとりだ。

本書は、「機会の平等」を目指す日本が、
「機会の平等」どころか「機会の不平等」になっている現実を
痛烈に告発する本である。

1999年12月17日、午後6時。東京・千代田区にあるオフィスビルの大ホールで、大手不動産会社・住友不動産が、“運動会”スタイルの大忘年会を開催した。
「皆さん、今年一年お疲れさまでした。今夜は思う存分楽しんでください」
 高島準司社長の挨拶で火蓋が切られた“運動会”は、初めのうちこそカラオケや男女混成チームによる綱引きなどでお茶を濁していたものの、次第に乱痴気パーティーの様相を呈していく。……
「それではお待ちかね、ラブラブ・パン食いきょーそー!」(74頁)


な、な、なんだ?

「ラブラブ・パン食いきょーそー」???

これが日本の「一流企業」と呼ばれる企業で行なわれていることだ。

そこで「大セクハラ運動会」が繰り広げられていたのである。

これを断われずに犠牲になった女性の多くは、派遣社員だったという。

「一流企業」の代表格である銀行でも、
派遣社員たちは「セクハラ」の犠牲になっているという。

詳細は本書を直接読んでほしい。

気分がわるくなるが。

大手人材派遣会社「テンプスタッフ」……に登録された女性派遣スタッフ9万人分のリストが流出し、インターネット上で販売された。……リストにはスタッフたちの氏名や住所、スキル(技能)に関わる個人情報だけでなく、容姿についてのABC三段階評価までが含まれていた。


Aは「華があり、すれ違った時、『あ、美人だな』と思うような人(受付向き)」
Bは「普通」
Cは「ちょっと」

だそうである(86−87頁参照)。

以前、日本航空でも同様の事件が発覚して問題になった。

もうひとつ、日本の代表的な「一流企業」の事例をご紹介しよう。

……東芝は警備・公安畑の警察出身者を積極的に採用し、労務担当者に登用してきた。京浜地区の7工場だけで少なくとも8人、中には盗聴法(通信傍受法)をめぐる99年の国会審議で争点の一つになった「緒方靖夫・日本共産党国際部長宅盗聴事件」に直接関与した元警察官も含まれている……。
 東芝のベテラン社員が憤る。
「会社に逆らう人間は尾行や張り込みで監視されます。組合など完全に労務の下請け機関になってしまっている。……」(127頁)


日本の企業には人権などない、ということがよく分かる。

労働組合も労働者の味方ではないのだ。

また、「市場化される老人と子ども」という章では、
次のような証言を筆者は得ている。

「母親は家庭にいて、子供を見るべきだ。健全な家庭生活のためには、女性の労働を促す学童保育など必要ない。」
 公の席でこう言い放った保守系市議もいたと、横浜市の学童保育関係者たちは口を揃えた。(182頁)


さすが「保守系政治家」だ。

保守系ということは、自民党の議員なのだろうか。

信じがたい時代錯誤。

日本の格差は、所得格差だけではない。

正社員と非正規雇用労働者との間の差別構造まで生まれている。

そして、非正規のひとたちは、どんな不利益を被ろうとも、
すべて「自己責任」とされてしまうわけだ。

このようないびつな「不平等」は、自然にできてしまったのか?

もちろんそうではない。

まず、細川護煕首相(当時)の私的諮問機関「経済改革研究会」(座長=平岩外四・経団連会長=当時)が93年11月にまとめた、規制緩和に関する中間報告書(いわゆる平岩レポート)である。それまでの行財政改革論や、アメリカからの構造改善要求が強硬だった時期と異なり、国内の指導層がアメリカ型の経済社会システムをはっきり志向したという意味で、この報告書は今日に至る“改革”の起点として特筆されるべきだろう。
 ……報告書は、経済的規制の原則自由と、安全の確保や環境保全などの社会的規制も自己責任原則を適用し最小限に抑えるべきとの主張を展開。(198−199頁)


この「平岩レポート」によって、「自己責任」路線が明確に敷かれていくことになる。

この研究会で中心的な役割を果たしたのは、一橋大学商学部の中谷巌教授(58歳、後に多摩大学教授、三和総合研究所理事長)だったと言われる。(199頁)


おお、あの中谷巌か。

98年8月には、小渕恵三首相(当時)の諮問機関として「経済戦略会議」(議長=樋口廣太郎・アサヒビール名誉会長)が設置されている。……
 ……ここでも一橋大学の中谷教授が中核的な役割を果たした。慶応大学総合政策学部の竹中平蔵教授、東京大学経済学部の伊藤元重教授ら、個人的にも思想的にも中谷教授に近い経済学者も参加。……
 目標は〈健全で創造的な競争社会〉の実現である。〈規制・保護や横並び体質・護送船団方式に象徴される過度に平等・公平を重んじる日本型社会システムが公的部門の肥大化・非効率化や資源配分の歪みをもたらしている〉とする現状認識の下、〈小さな政府〉〈努力した人が報われる税制改革〉〈創造的な人材を育成する教育改革〉などの方策を数多く提案した。
 注目すべきは、アメリカ合衆国を改革のモデルとして明示したことである。(200−201頁)


「努力したひとが報われる社会」……よく言ってくれたものである。

竹中平蔵というひとは、こう考えているわけだ。

所得の高いひとは相当の努力をしたひとであり、
所得の低いひとは努力をしてこなかった怠惰なひとたちである、と。

なるほど、パリス・ヒルトンはわたしなどよりもずっと所得が多い。

これは、パリス・ヒルトンが人並みならぬ努力をしてきたからであって、
わたしの所得が低いのはわたしの努力が足りないためである。

そういうことか?

わたしの「自己責任」なのか。

竹中平蔵は、日本マクドナルドと個人的に深い結びつきをもっている。

日本マクドナルドの藤田田社長が所有する「フジタ未来経営研究所」の顧問と、
日本財団(旧・日本船舶振興会)系の「東京財団」の理事長などを務めていたという。
(213頁参照)

そして、このコネを使って日本マクドナルドの未公開株を取得して、
「濡れ手に粟」のぼろ儲けをしたことでも知られている。

かつて衆議院議員・保坂展人(社民党)は、
この件に関して「質問主意書」を提出しているほどだ。

興味のある方は、
国務大臣の未公開株保有問題に関する質問主意書」をご覧いただきたい。

他人には、「自己責任」や「自助努力」を強いていながら、
自分はコネを使ってぼろ儲けする。

国民には「自己犠牲」を強いていながら、
自分たちは危険な地域にまったく行かない、
戦争が大好きな政治家たちとそっくりではないか。

いやはや、大した連中である。
















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