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zoom RSS 山本周五郎『赤ひげ診療譚』(新潮文庫)

<<   作成日時 : 2005/09/18 16:44   >>

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人なみの名誉慾を抱いたひとりの青年医師・保本登。

彼がこの物語の主人公だ。

べつに特別欲深いわけではない、将来の出世を期待する、ごくふつうの青年だ。

その主人公が、「赤ひげ」の運営する診療所に赴任してくる。

貧しく、社会の底辺で生きる人びとを、無料で診察しているボロボロの診療所だ。

しかし、彼は自分の希望でやってきたのではなくて、
親の配慮から送られてきたのであった。

はじめは、「赤ひげ」に反撥していた主人公。

それが、やがて「赤ひげ」の人間性にふれ、社会の底辺で生きる人びとの姿にふれ、
1年で診療所を辞めることになっていたところ、この診療所に残る決心をする。

「赤ひげ」は、幕府の財政難から経費を半分にまで削減させられ、
そのことに怒りを隠さない。

「無法には無法を」と去定(赤ひげ)は呟いた、
「残酷には、残酷をだ、――無力な人間に絶望や苦痛を押しつけるやつには、
絶望や苦痛がどんなものか味わわせてやらなければならない、そうじゃないか」


幕府の姿は、「自己責任」の名のもとで、
「福祉」を切り捨てようとする今の政府に重なる。

長屋でつつましく暮らす貧乏な家族が、ある日、一家心中をはかった。

長屋の住民たちによって必死に止められたが、
小さな子どもたちだけは、命を落としてしまった。

一命をとりとめた母親が、主人公の登に語りかける。

「――こんなこと云っては悪いかもしれませんが、
どうしてみんなは放っといてくれなかったんでしょう、
放っといてくれれば親子いっしょに死ねたのに、どうして助けようとなんかしたんでしょう、
なぜでしょう先生」
登は辛うじて答えた、
「人間なら誰だって、こうせずにはいられないだろうよ」
……
「生きて苦労するのは見ていられても、死ぬことは放っておけないんでしょうか」


毎年3万人以上の人たちが自殺する国、日本。

世界のなかでも上位であり、先進国ではトップである。

幸福への欲望ばかりがかきたてられる一方、不幸や絶望への想像力は失われる日本。

「徒労に自分を賭ける」という言葉で、この物語は結ばれていた。














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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
<a href="http://kaz19100.hp.infoseek.co.jp/siryo/ay150623.html">氷山の一角ですが・・・</a>

駅でホームレスの人が死んだように眠っているのを、僕らはあたりまえの景色のように通り過ぎて行く。
今日、映画を観ないで電車代やチケット代を彼にあげたら、彼はどう思うだろう。
いつ自分がそうなってもおかしくないところで、今は、映画や芝居を楽しんで観ている・・・
生き狂しい。
それでも、なぜか、まちはあかるい。
船頭
2005/09/19 13:48
「不幸や絶望への想像力」。
この言葉に共感してくださったようで、ありがたい思いです。

できることから、はじめていきましょう。
影丸
2005/09/20 00:17

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